あえて最安狙わないドンキの格安SIM「マジモバ」 インパクト大だが“ahamoショック”第2波が懸念材料

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2024年09月14日 09:31  ITmedia Mobile

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PPIHは、新サービスのマジモバを開始した。写真は左からPPIHの森谷氏、ゲストでタレントの山之内すずさん、エックスモバイルの木野氏。ドンペンとアピタンも登壇した

 ドン・キホーテやアピタ、ユニーといった小売店でおなじみのパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)が、「マジモバ」を立ち上げ、MVNOに参入した。流通系企業のMVNOとしてはイオンモバイルが有名だが、マジモバは自身でサービスを直接運営するのではなく、ホワイトレーベル戦略を取るエックスモバイルとの提携で事業を展開する。


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 売りになるのは、3GBで770円(税込み、以下同)の「驚安プラン」。よりデータ使用量が多いユーザーに向け、15GB、25GB、50GBの「最驚プラン」も用意する。さらに、エックスモバイルが展開するモバイルWi-Fiルーターも「最驚Wi-Fi」として取り扱う。売上高が2兆円を超えるPPIHが始めるMVNOなだけに、そのインパクトは大きい。ここでは、同社やエックスモバイルがマジモバを開始した狙いを深掘りしていきたい。


●ホワイトレーベルの仕組みを活用 料金は3GB、770円から


 「顧客最優先主義を掲げる、PPIHの次なる取り組み」――こう語るのは、PPIHの上席執行役員 森谷健史氏だ。同社は物価高に対抗できる買い物体験として、電子マネー「majica(マジカ)」のアプリ会員が特別価格で商品を購入できる「マジ価格」や、最大4円まで端数を切り捨てる「マジ値引」を導入してきた。このようなお得さが受け、majica会員は2024年に1500万を突破。顧客接点としての重要性が増している。


 そのPPIHが次に目をつけたのが、家庭の固定費だったという。中でも通信費は14%と割合が高く、削減効果が見込みやすい。PPIHのドン・キホーテが「驚安の殿堂」をキャッチフレーズに掲げていることからも分かるように、同社の事業とMVNOの相性もいい。料金は、3GBの驚安プランが月額770円。データ容量の大きい最驚プランは15GBが2508円、25GBが3278円、50GBが6050円になる。


 同時に展開する最驚Wi-Fiは、300GBで4180円。追加料金は必要だが、海外での利用も可能だという。マジモバは、PPIHが手掛けているだけに、同社のサービスと連携しているのも特徴だ。最驚プランの特典として「今月のおごり」を用意しており、ドン・キホーテやアピタ、ピアゴといった店舗で、指定された商品を無料でプレゼントする。単に料金が安いだけでなく、お得な特典があるところも。マジモバの魅力といえそうだ。


 このサービスを提供しているのが、2023年に10周年を迎えたばかりのエックスモバイルだ。1500万のmajica会員を基盤にしたマジモバと聞くと、PPIH自身が通信事業者としてサービスを提供しているように思えるが、実はユーザーと直接契約するのはエックスモバイルで、PPIH側はそれを仲介している立ち位置になる。これは、エックスモバイルが推進しているホワイトレーベルの仕組みを利用したサービスだ。


 もともと同社は、自身のブランドでサービスを展開し、フランチャイズ方式で店舗を拡大していたが、2023年に戦略を大きく転換。2月にメンタリストのDaiGo氏とともに「DXmobile(現・D-Lab SIM)」を開始。同年3月には、起業家の堀江貴文氏とコラボレーションした「HORIE MOBILE」を立ち上げ、同氏の知名度も相まって大きな話題を呼んだ。その後も、エックスモバイルはライブドアや幻冬舎などと協業し、それぞれのブランドを冠した「livedoor MOBILE」や「幻冬舎MOBILE」を開始した。


 いずれも、コラボレーション相手のブランドを冠しており、それぞれが独自のサービスを提供しているように見えるが、裏側のサービスはエックスモバイルが設計している。黒子になるという意味ではMVNOを支援するMVNEと同じだが、通信サービスはエックスモバイルが直接ユーザーに届けている点が大きな違いといえる。ビジネスモデルはレベニューシェアの形を取っているため、協業先が低リスクで通信サービスを提供できるのが、そのメリットだ。


●顧客接点強化と回線獲得、両社の思惑が合致した理由とは


 森谷氏によると、PPIHでは2年ほど前から格安SIM事業への進出を検討していたという。エックスモバイルだけでなく、複数の選択肢を視野に入れていたようだが、同時期に、タイミングよくエックスモバイルから提携の打診があり、マジモバの構想が前に進み出したという。PPIHが評価したのは、エックスモバイルの代表取締役社長である木野将徳氏が、積極的にアイデアを提案してきたことだったという。森谷氏は、「サービスまで踏み込んで前向きに考えていただけた」と語る。


 木野氏は、「深夜にオンライン会議をしたことは1回や2回ではない」としながら、料金設定や毎月商品がもらえる特典はもちろん、店内POPやプロモーション動画などまで、PPIH側と一緒に検討を重ねてきたことを明かす。ホワイトレーベルとして、協業先の魅力を引き出しつつ通信サービスとしてまとめ上げることに特化してきた手法が、マジモバの立ち上げでも生きていることがうかがえる。


 とはいえ、先に述べたようにホワイトレーベルだと、得られる収益はレベニューシェアにとどまる。会員基盤を生かし、大々的に通信事業を展開するのであれば、MVNEを活用しながらMVNOになる道もある。同じ小売りでも、イオンリテールはMVNOとしてイオンモバイルを展開しており、店舗を生かしながら規模を拡大している。PPIHは、なぜこのような道を選ばなかったのか。


 森谷氏によると、マジモバの狙いは「利益重視の新事業ではなく、お客さまとの継続的な接点を作り出すリテール事業におけるCRM(カスタマー・リエーションシップ・マネジメント)の装置として展開している」ところにあるという。どちらかといえば、「タッチポイントを取りたい」(同)のがPPIHの考えで、マジモバはmajicaの延長線上にある取り組みになる。そのため、売り上げ目標も「明確には定めていない」という。こうした狙いには、低リスクなホワイトレーベルの仕組みが合致する。


 とはいえ、PPIHの展開している店舗はいずれも集客力が高く、売上高も年間で2兆円を超えているだけに、1カ月あたりの目標回線数は「直近で(モバイルWi-FiルーターとSIMカードそれぞれ)月3000契約ずつ」(同)と大きい。マジモバを顧客接点強化のためのツールと考えているPPIHに対し、エックスモバイルの「見方は逆で、ビジネスとして相当な大きくなる」(木野氏)と捉えているようだ。


 マジモバは、顧客接点を拡大したかったPPIHと、ホワイトレーベル戦略で回線数を伸ばしたかったエックスモバイル、双方の思惑が合致した結果として誕生したサービスといえる。サービス開始の9月13日には、木野氏自身も店頭に立って接客を行うという力の入れようだ。PPIHのような大手企業が提供することで話題になれば、協業先を広げやすいメリットもある。


●料金以外での差別化を目指すエックスモバイル、ahamoショック第2波はかわせるか


 マジモバの料金を見ると、3GBで770円という金額は確かに安い。MVNO最大手のIIJが展開するIIJmioの「ギガプラン」は2GBが850円、オプテージのmineoも「マイピタ」の1GBが1298円で、いずれもマジモバよりやや割高だ。大手キャリアに目を向けると、ドコモのirumoは3GBが2167円、オンライン専用プランだとKDDIのpovo2.0やソフトバンクのLINEMOが、3GBを990円で提供している。


 一方で、15GB、25GB、50GBの3つを用意した最驚プランは、必ずしも他のMVNOと比べて料金が安いわけではない。例えば、マジモバの15GBは2508円だが、IIJmioなら同じ容量を1800円で利用できる。25GBの3278円も、IIJmioが2700円で提供している30GBプランより割高だ。安さを志向しているものの、あくまで最安狙いではなく、コラボ先の魅力で一定程度の価格を維持するのがエックスモバイルの戦略だ。木野氏も、「(大手MVNOと)価格競争しても勝ち目はない」と話す。


 エックスモバイル、コラボMVNOとして話題を集めていたHORIE MOBILEも同じ発想で運営している。同ブランドの20GBプランは、5分かけ放題がついて3030円。その金額は、ドコモのオンライン専用ブランドahamoより高い。


 ただ、HORIE MOBILEのユーザーには堀江氏の手掛けるコンテンツが無料で提供される特典が付く。これらは有料コンテンツのため、同氏のファンにとっては魅力的だ。“おごってもらう”をテーマに、PPIHの店舗が運営する商品を無料で配る特典も、「同じ発想で生まれた」(同)という。料金の安さではなく、「満足を追求してほしい」(同)という思いが、コラボレーションの根底にある。


 とはいえ、あまりに料金水準が平均から乖離(かいり)していると、ユーザーが離れてしまう恐れもある。その意味で、ドコモが10月にahamoのデータ容量を増量する影響は、MVNO全体に及ぶ可能性がある。くしくもドコモは、PPIHが開催したイベントと同日の9月12日に、ahamoのデータ容量を20GBから30GBに改定することを発表。料金は2970円のままだ。


 先に挙げたIIJmioの30GBプランは2700円だが、その差はわずか270円。5分間の音声通話定額が付いていたり、国際ローミングが無料で使えたりすることを踏まえると、ahamoのお得感に軍配が上がる。マジモバも、最驚プランの25GBが3278円でahamoよりデータ容量が5GB少ないにもかかわらず、料金は308円高い。最驚プランも音声通話定額が含まれていないため、実質的な差はさらに広がる。


 ドコモがahamoの提供を開始した際には、MVNOに大きな影響を与えた。料金水準がMVNOに迫っていたからだ。業界では“ahamoショック”とも言われており、MVNOの純増に急ブレーキがかかった経緯がある。マジモバは料金だけで差別化を図っているわけではないが、そもそもahamoの料金に満足していれば、他社に移る動機が薄くなる。少なくとも、その差を埋めるための“おごり”を強化するなど、対応策が必要になるおそれはある。ahamoショックの“第2波”が到来したことで、今後、MVNO各社の動きも活発になりそうだ。



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