殺人罪で有罪確定後に再審で無罪となった事件は戦後少なくとも計17件あり、うち7割に当たる12件で検察が裁判所の再審開始決定に抗告や異議申し立てをしていたことが日弁連などへの取材で分かった。有罪判決に疑いが生じながら再審が遅れる事態となっており、専門家は「非公開の再審請求審が長引いて公開の裁判が遅れるのは問題で、制度改正が必要だ」と指摘している。
日弁連などによると、12件の中で再審開始の決定から確定の判断までの期間が最も長かったのは「布川事件」(茨城県)で、約4年3カ月かかった。水戸地裁土浦支部が2005年9月、強盗殺人罪などで無期懲役が確定した男性2人の再審開始を認め、08年7月に東京高裁が検察の即時抗告を棄却。その1年5カ月後に最高裁が特別抗告を棄却し、ようやく開始が決まった。
最も短かったのは「東京電力女性社員殺害事件」(東京都)で、12年6月に再審開始を決めた東京高裁に対して検察が異議を申し立てたが、翌7月に棄却された。特別抗告はせず、決定からは約2カ月だった。「足利事件」(栃木県)など5件では、検察は再審開始を争わなかった。
26日に静岡地裁で再審判決が予定されている袴田巌さん(88)の場合は約9年を要した。無罪が言い渡され確定すれば、検察の不服で開始が最も遅れたケースとなる。
龍谷大の斎藤司教授(刑事訴訟法)は「検察の不服申し立てが再審開始を一層困難にしており、認めない法改正をすべきだ。有罪か無罪かは第三者の目が入り、審理のルールも明確な公開の法廷で決着をつけるのが望ましい」と話している。
車に乗り込み、記者の質問に答える袴田巌さん=2023年3月、浜松市