必要とする睡眠時間は、人によってさまざま。だからこそ、睡眠に関する苦悩は「生活リズムを正せばいいだけ」と片付けられやすい。「特発性過眠症」のハザキサキさん(@saki_hazaki)も、そのひとり。
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十分な睡眠をとっても、日中に過度な眠気が生じる「特発性過眠症」との付き合い方に悩み、周囲からの心ない言葉に傷ついてきた。
高校2年生の頃に「特発性過眠症」が発症
日中に強い眠気を感じる病気として広く知られるようになってきたのが、「ナルコレプシー」という病気。だが、ナルコレプシーと特発性過眠症は症状が似ているようで違う。
例えば、特発性過眠症はナルコレプシーより中途覚醒は少ないものの、無理に起きると、酩酊状態になることがある。
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ハザキさんは高校2年の頃、病気を発症。授業中や集会の時に起きていられず、電車でも立ったまま眠るようになった。
倦怠感を覚え、入眠時に金縛りにあう(睡眠麻痺)こともあり、寝ている最中には痛みや恐怖をリアルに感じる悪夢に苦しめられたという。
「睡眠発作中、眠気に抗うと、意識がはっきりしていた時の行動を無意識の状態で行う“自動症”という状態になります。ノートを取っていた場合は、途中からミミズが這うような文字になってしまいます」
「業務時間中に平気で寝る人」のイメージがついて就労が困難に…
社会人になると、寝過ごして遅刻。仕事中に立ったまま寝てしまい、叱責された。必死で眠気に抗うも、ミーティング中や会議中など、あらゆる場面で眠ってしまい、信用を失くす。
だが、会社に常駐していた看護師が過眠症に関する知識があったことから、勧められた睡眠外来を受診。21歳の時に、特発性過眠症と診断された。
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「ホッとしました。自分の不摂生が原因ではなく、病気のせいで仕方がないことだったんだと。これからは、正論で戦えると思いました」
しかし、病気をカミングアウトした先に待っていたのは、周囲からの心ない言葉。「そんな都合のいい病気は聞いたことがない。寝るのが病気なら、みんな病気。くだらない言い訳をする暇があったら自己管理を徹底しろ」と取り合ってもらえず。「若いからって、夜遊びし過ぎなんじゃないのか?」とも言われた。
また、「業務時間中に平気で寝る人」という印象がついたことで信用と居場所を失い、会社を退職せざるを得ない状況にまでなったそう。
「過眠症患者は、1日の何時間も睡眠発作に奪われている。やる気以前に、何かに割ける時間そのものが少ない。周囲から評価されるには、与えられている少ない時間で健常者と同等か、それ以上の結果を出さねばなりません。しかし、それは理想論で、そう簡単にはいかないのが現状です」
治療薬の副作用に苦しめられた
厳しい状況の中、ハザキさんは持病と上手く付き合う術を模索した。通院当初は、治療薬を服用。薬のおかげで普通に起きていられるようになったが、数年後、副作用で胃痛が起きるように。
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「眠気から解放される代わりに胃痛と戦うか、胃痛から解放される代わりに眠気と戦うかの二択を毎朝、選択しなければなりませんでした」
ハザキさんのように治療薬を使っても生活に支障が生じる人や薬の効果を感じられない人は、特発性過眠症患者には少なくないという。
しかし、その後、ハザキさんに奇跡が起きる。16年前、突然症状が治まり、治療を終えることができたのだ。多少の症状はあるものの、現在は普通の日常生活が送れているという。
「特発性過眠症は根本的な治療法がなく、原因も解明されていません。私のように突然、寛解するのは異例。前例は、ほぼないそうです」
次世代を生きる過眠症の子が、同じ思いをしてほしくない。その思いから、ハザキさんは自作の小説やSNSで特発性過眠症のリアルを公表。当事者の声を伝えることで、障害があっても普通に生きていける世の中を作ろうと奮闘している。
「過眠症患者は、受け入れて貰える環境が整えば生きやすくなる。実際、不眠症は社会に浸透し、受け入れられている気がします。そうなるには、まず病気を正しく知ってもらい、興味を持ってもらうことが重要だと思っています」
「不摂生」で睡眠の問題が片付けられない社会を目指して
「理解してほしい」とまでは言わないけれど、薬を使って無理やり起きている過眠症患者のリアルな苦悩が伝わり、不摂生で居眠りしている人と同列に並べられない社会になってほしい。
そう話すハザキさんは、日本の睡眠時間が先進国で最低レベルであることも過眠症当事者が誤解されやすくなる原因のひとつだと感じている。
「睡眠不足大国の日本では、『日中に眠くなるのは当たり前』という常識がある。だから、過眠症患者は不摂生が原因だと誤解されやすい。日本では寝ずに頑張ることが美徳とされやすいですが、睡眠不足による経済損失はデータにも現れています。そうした事実も伝えつつ、睡眠の大切さを広めていきたいです」
ハザキさんによれば、個人差はあるものの、特発性過眠症患者は短時間の仮眠が苦手で、昼寝では眠気を解消することが難しいそう。また睡眠が深く、一度眠ると起こされない限り、眠り続けてしまうのも特徴だ。
「仮に仮眠を取っても起床時には酩酊状態になるので、すぐに仕事へ復帰することが難しい。職場や学校では心ない言葉を向けず、そっと起こしてほしいです」
また、ハザキさんは同じ病気を持つ人に向け、良好な人間関係を築きつつ、健常者を演じなくてもいい環境を整えてほしいと訴える。
「そのためには、まず自分自身が病気と向き合い、理解し、どう伝えたら誤解が生じないかを考え、練習しておくことも大事です。あとは、効率よく物事を進められる方法を見つけ、生活に落とし込むこともカギかもしれません」
そう話すハザキさんは、睡眠に関する異変を感じた場合は、出来るだけ早く専門医にかかってほしいと願ってもいる。
「私自身、もっと早く病院に行き、病名を知れていたら学生時代や20代の時期が違ったものになっていたのに…という後悔が強いです。特発性過眠症は症状の個人差が大きく、私の症例もあくまで一例に過ぎませんので、人生の大切な時間を無駄にしないためにも自己判断せず、睡眠の専門医に相談してほしいです」
睡眠は生きていく上で、欠かせないもの。自分の睡眠が“常識”ではないと気づくことは、過眠症を理解する第一歩だ。
(まいどなニュース特約・古川 諭香)
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