確定判決に合理的な疑いがあるとして裁判所が再審開始を決定しても、検察の抗告や異議申し立てによって上級審で覆されるケースはこれまでもたびたび起き、高い壁となってきた。弁護士からは「再審開始は通常の刑事裁判で無罪を獲得するより難しい」との声も上がる。
公民館で5人が死亡した「名張毒ぶどう酒事件」(三重県)では2005年、第7次再審請求で名古屋高裁が奥西勝元死刑囚の再審開始と死刑執行停止を決定したが、06年に同高裁が検察の異議を認め、いずれも取り消した。この決定は最高裁で取り消され、審理は差し戻されたが、同高裁は12年に再び再審開始と死刑執行停止を取り消した。
奥西元死刑囚は第9次請求中の15年に89歳で死亡。遺族が第10次請求を申し立てたが、再び棄却された。
牛小屋で男性の遺体が見つかった「大崎事件」(鹿児島県)で、殺人などの罪で懲役10年が確定し、服役した原口アヤ子さん(97)の再審請求では、鹿児島地裁が02年に開始を決定。しかし、検察の即時抗告を受けて、福岡高裁宮崎支部は04年に開始を取り消した。
17年には3度目の請求で同地裁が再び開始を決め、同高裁宮崎支部もこれを支持。ところが、検察の特別抗告を受け、最高裁は開始取り消しを決めた。現在4度目の請求中だが、原口さんは脳梗塞を患い、会話も難しい状態が続いている。
袴田巌さん(88)の再審請求では、14年に静岡地裁が再審開始と死刑、拘置の執行停止を決定。検察が即時抗告し、東京高裁は18年に再審開始を取り消した。最高裁は20年に高裁決定を取り消して差し戻し、23年にようやく再審開始が確定した。
再審請求を多く手掛ける野嶋真人弁護士は「検察の不服によって時間がかかる上、裁判官が無罪の心証を抱くほどの明確な新証拠がないと事実上、開始されなくなっている。開始のハードルを下げ、無罪か否かは再審公判で争うように変えていく必要がある」と指摘している。