今季2024年シーズンも残すは2戦。チャンピオンシップ終盤戦で迎えるWEC世界耐久選手権第7戦『富士6時間耐久レース』の決勝は、終盤に小林可夢偉、平川亮のダブルエース体制で上位浮上を狙ったTOYOTA GAZOO Racingが、まさかのアクシデントやペナルティ裁定に散る無情の展開に。
シリーズにおいてその対抗馬筆頭たるポルシェ・ペンスキー・モータースポーツの6号車ポルシェ963(ケビン・エストーレ/アンドレ・ロッテラー/ローレンス・ファントール組)が「僕らの武器は安定性」と語った言葉どおり、まさに敵地で値千金の勝利を攫っている。
待望の日本ラウンド、富士スピードウェイに全18台が集ったハイパーカークラスは、決勝6時間に向けたオープニングラップこそ無事に切り抜けたものの、直後の2周目に“懸案のTGR(ターン1)”で多重クラッシュが発生。ここで5号車ポルシェ963(ポルシェ・ペンスキー・モータースポーツ)や51号車フェラーリ499P(フェラーリAFコルセ)、そして前戦オースティンを制した83号車フェラーリ499Pらが、事実上の勝負から脱落する幕開けとなった。
さらにシリーズ初のポールポジションを獲得した2号車キャデラックVシリーズ.R(キャデラック・レーシング)も、レース時間半分を目前にバトル中の接触を受け右フロントタイヤをバースト。表彰台圏内から遠ざかる無念の事態となった。
これで首位攻防は選手権リーダーの6号車ポルシェ963に、50号車フェラーリ499P(フェラーリAFコルセ)が挑む構図となり、3番手には好調15号車BMW MハイブリッドV8(BMW MチームWRT)が追随。地元凱旋ラウンドで厳しい性能調整を受けるTGR陣営は、その背後から後半戦の巻き返しを期す。
※前半3時間レポートはこちら(https://www.as-web.jp/sports-car/1127239)
レース中盤に発動したVSC(バーチャル・セーフティカー)の影響もあり、単純な1時間区切りのスティントとはならずも、2回目のルーティンを終え一時はフェラーリの先行を許した6号車ポルシェのロッテラーだが、その後はポジションを奪還することに成功。スタートから3時間25分ほどを経過した120周時点で、約10秒のマージンを築く。
このラップで気を吐いたのがトヨタ7号車のミドルスティントを担うニック・デ・フリースで、前方の15号車BMWをドライブするラファエル・マルチェッロを攻略。これで表彰台圏内の3番手へと進出する。
これでひとあし早く「作戦上の判断」でピットへ向かった15号車BMWは、ラファエル・マルチェッロからドリス・ファントールにスイッチ。その直後となる122周目、レース時間3時間27分経過の時点で、コース上のデブリ回収のためFCY(フルコースイエロー)が発動する。
すみやかに解除となった3時間30分経過時点で気温は28℃、路面温度も依然として43℃前後で推移するなか、2番手の50号車フェラーリに迫った7号車のデ・フリースは、最終コーナーでのコンタクトを含むバトルを経てホームストレートを並走。ターン1でインサイドを獲り、これで2番手へ。直後の127周目突入で首位6号車ポルシェがルーティン作業に向かい左2輪のみ交換、これで7号車トヨタGR010ハイブリッドがわずかながら初のトップランを引き継ぐ。
続くラップで飛び込んだデ・フリースは、ここで給油のみのタイヤ無交換でダブルへ。僚友の8号車ハートレーも131周目の最終セクターから続くターン1を経て、トラック上で50号車フェラーリをパスして暫定首位とする。
直後の134周目で同時に作業へ向かったその2台は、前回の作業で左2輪のユーズドのみとしていた50号車フェラーリがユーズドながら4輪を交換。対する8号車はニュータイヤを4本投入し、ここで平川亮にステアリングを託す。
■運命のVSC導入で7号車トヨタは不利な状況に
スタートから4時間を目前にして暫定首位だった2号車キャデラックが、ここでルーティン作業に向かいふたたびリンにスイッチ。さらに7号車も早めの動きで小林可夢偉に交代し、ここからニュータイヤでスパートを……という矢先に右リヤのインパクトがうまく噛まず、わずかにタイムロスを喫することに。
無交換で力走したデ・フリースのマージンが、対6号車ポルシェに対してどう変動したかが注目されるなか、ここで事態が大きく動く。4時間12分を経過したところで63号車ランボルギーニSC63(ランボルギーニ・アイアン・リンクス)が駆動系に不具合を抱えコースサイドにストップ。これでふたたびVSCが発動する。
この好機に首位の6号車ロッテラーはピットへ向かい、最後のスティントを担うケビン・エストレに交代(4本交換)。同じVSCピリオド中に8号車の平川、35号車アルピーヌA424、50号車フェラーリらを筆頭に作業へと入っていく。続く周回で15号車BMWも給油作業とタイヤ交換のフルサービスを終えたところで、各車ほぼ同一条件に揃うなかセーフティカー(SC)へと切り替わる。
首位6号車ポルシェ、2番手15号車BMW、そして3番手に8号車の平川と続くオーダーに対し、可夢偉の7号車は8番手からのリスタートを強いられることに。すぐさま7番手に浮上したものの、背後から迫ってきた5号車ポルシェのマット・キャンベルに挑まれ、153周目のターン1からコカ・コーラ(A)コーナーまでを並走。ここで接触した両車はコースオフを喫し、互いに左のリヤをヒットしたことで宙に浮いた7号車GR010はサスペンションを損傷し、力なく残るトラックを周回してピットガレージに収まることに。5号車のポルシェもここでリタイアとなる。
同じく3番手だった8号車の平川も、背後の35号車アルピーヌに抵抗できず、ホームストレートからターン1、そしてAコーナーまでにオーバーテイクを許し、ここで表彰台圏内から陥落してしまう。
残り1時間。ここで4輪ともニュータイヤを投入して巻き返しを狙った8号車平川だったが、アウトラップではラップダウンの攻防で首位6号車と軽いコンタクトを喫する場面も経て、最後の作業を経たハーツ・チーム・JOTAの2台にも先行されたものの、残り30分を前に意地の激走を見せ、これを攻略してみせた。
この時点で8番手争いまで挽回を見せていた2号車キャデラックは、36号車アルピーヌとの攻防で100Rアウト側のラインにグリップを乱し、フロントを大破するクラッシュを喫するも、破損したカウルが視界を塞ぐなか『なんとしてもピットへ帰還する』との執念を見せる。
そして3番手を維持してきた35号車アルピーヌも81号車コルベットとの接触でドライブスルーを課され、これでJOTAのポルシェ2台を仕留めていた平川に3位表彰台の権利が舞い戻ってくる。だが、運命の悪戯かレースはこれで決着とはせず。アウトラップの際に6号車ポルシェに対し「青旗を無視した」として残り15分で平川にもドライブスルーが宣告されてしまう。
これを消化した8号車は10位でチェッカーを受け、表彰台の希望は潰えるとともにチャンピオンシップ最大のライバルたる6号車が213周を走破し、最終戦バーレーンに向け大きな優位性を築く富士戦制覇という結末を迎えた。
2位に15号車BMWが続き、最後の瞬間までJOTAの12号車ポルシェ、ノルマン・ナトと熾烈なポディウム争いを繰り広げた36号車アルピーヌのミック・シューマッハーが最後のお立ち台をもぎ取っている。アルピーヌは『A424』で初めて、BMWはチームとして初めてハイパーカークラスの表彰台に立った。
WECの次戦は中東のバーレーン・インターナショナル・サーキットにて、今季最終戦となる8時間レースが10月31日〜11月2日に行われる。