戦前から予想されていたとおり、WEC世界耐久選手権第7戦富士でのTOYOTA GAZOO Racingの戦いは、厳しいものとなった。
9月15日に富士スピードウェイで行われた決勝では、2台のGR010ハイブリッドは上位争いに絡む瞬間もあったものの、最終結果は8号車(セバスチャン・ブエミ/ブレンドン・ハートレー/平川亮)が10位、7号車(マイク・コンウェイ/小林可夢偉/ニック・デ・フリース)はクラッシュの影響によりガレージでレースを終え、順位認定外となった。
「厳しいレース展開のなか、ありとあらゆる可能性で前に行くことに挑戦していましたが、残念ながらそこに至りませんでした」とチーム代表も兼務する可夢偉はレース後に語った。
8号車は平川亮がアウトラップ走行中、ラップ違いの6号車ポルシェ963に青旗を無視する形で進路を譲らなかったことで、ドライブスルーペナルティを受けた。また、可夢偉の7号車はバーチャルセーフティカー(VSC)の影響によりポジションを下げた後、背後から迫った5号車ポルシェとのポジション争いの末に接触。レースを終えることになった。「いろいろな意味で最大限のパフォーマンスを出しきれなかったというか、持って帰るべきポイントを持って帰れなかった」と可夢偉は悔やしさを滲ませる。
「今回はLMDh(規定の車両)が全体的に速く、(トヨタは)正直タイヤのもちも良くなければパワーでも不足していて、『いったいどこで仕掛けたらいいのだろう?』というレース展開で、6時間が終わってしまいました」
厳しいなかでも7号車は最善を尽くし、たとえば戦略面では、通常レース終盤に実施するスプラッシュのピット作業を、2番目に乗車したニック・デ・フリースのスティントで消化。トラックポジションで優位に立つことを狙った。しかし、その後にマシンを引き継いだ可夢偉がドライブしはじめて数周というところで、停止車両の排除のためVSCが導入。ここで周囲の車両がフレッシュタイヤへの交換と燃料補給を行ったことで、7号車は戦略上のマージンを失い、逆にポジションを落とす不利な展開となる。
「正直、あのタイミングでのVSCは、僕らのクルマにとっては不運でしかなかった。あのままグリーンのままだったら、もうちょっといいところで戦えていた。ストラテジーはみんな一緒になってしまい、僕はVSC中のピットではタイヤを変えずに入っているので、その状態でなんとか(フィニッシュまで)つないでいかないといけない状態になってしまいました。あの時点で8位でしたけど、それが実際のポジションということになるので、なんとか追い上げるしかなかったです」
この戦略/レース展開面での不運に加え、可夢偉代表が「厳しいレースになった要因」としてもうひとつ挙げたのは、「純粋なスピード」だ。
「正直、最後のスティントを見ていると、突然『ここで本気出してきたな』みたいなペースのクルマがいました」と可夢偉。
「やっぱり、最後の最後に(周囲のマシンが)持ってくるところのペースを見ると、僕らは完全にペース的に足りていなかった。僕らがタイヤが美味しい状況で、反対に向こうはちょっとタイヤがきついときでも、イコールくらいのタイムだったので、向こうのタイヤがいい状態のときにはしっかりギャップを作られてしまった。そこが、今回一番の敗因だったかなと思います」
■互いが「引かない!」とコミットした結果の接触
セーフティカーが明け、レースが再開されると、可夢偉は背後の5号車ポルシェからプレッシャーを受ける形となった。そしてTGR(1)コーナーからサイド・バイ・サイドの状態となった2車は、コカ・コーラコーナーへの進入で接触、ともにマシンを大きく壊してしまう。
「あの状況をずっと繰り返していて、(当たったときは)タイミング悪く、お互いが『引かない!』というコミットをした状態でコーナーに入ってしまって……。僕もヤバいと思って避けようと思ったのですが、僕もほぼ(イン側の)パイロンをまたいでいる状態で、避けたけど右フロントがかすかに当たってしまった。それで前のクルマがスピンして、下がってきたところを避けようとしたらリヤ(同士)が当たってしまいました」
可夢偉としてはポジションを必死に守ろうとした結果の接触だが、のちにスチュワードは可夢偉に非があるとの裁定を下している(今シーズン末までの執行猶予付きでの、ドライブスルーペナルティ)。
また、この5号車ポルシェとのバトルでは、「正直に言うと、かなりBoPによるパワーと重さの差があそこで出ていた」と可夢偉は振り返る。
「いま思えば『素直に諦めればよかったのかな』という部分もあるのですが、あそこで諦めたらポジションは9位なので……やっぱり自分としてはもっと上のポイントを狙っていかないとチャンピオンシップは厳しいというプレッシャーもあり、そこが自分自身、うまくハンドルできなかったと思います」
なお、今回の富士のBoPでは最軽量のプジョー9X8およびランボルギーニSC63と、最重量トヨタの差は40kg。可夢偉によれば「富士での30kgは、最終セクターにびっくりするほど効く」という。
「そもそもこれだけパワーが足りなかったり、クルマに重さがあるといことは、すでにチャレンジなんですよね。そこで、ドライブスルーがなければ平川はたぶん表彰台に乗っていたと思う。それだけですごいことなんですよね」
「でも、それを証明するのも、最終的に結果が出たとき。そこに行けなかったということで、素直に自分たちの力不足を認めて、もっと強くなるチャレンジをこれからもやっていくことが必要なのかなと思います」
今回の結果により、最終戦バーレーンでは7号車が優勝し、6号車ポルシェがリタイアとならなければドライバーズタイトルは厳しい状況だが、チームを率いる立場でもある可夢偉は、失意のレース後でも前を向いて取材対応を締めた。
「まだマニュファクチャラータイトルは自力で決められるはずなので、勝つしかないという気持ちでバーレーンに行って、思いっきり、悔いを残すことがないレースをしてきたいと思います」