「おまえと社会が悪いんだ」自殺をほのめかしてライブ配信中、元上司を名誉毀損 男性が見せた被害者への執着

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2024年09月16日 09:00  弁護士ドットコム

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大阪地裁は2024年8月、名誉毀損罪で起訴された30代の男性被告人に対して懲役8月(求刑懲役1年)の実刑判決を下した。驚くことに、被告人は2023年8月にも同じ被害者(以下、A)に対する名誉毀損罪で執行猶予付き懲役刑の有罪判決(以下、2023年事件)を受けたばかりだった。


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今回問題となった名誉毀損行為はSNS上でのライブ配信中に行われた。その際、被告人は自殺をほのめかしており、視聴者からの通報が複数寄せられたことで事件が発覚した。



思い詰めた末の犯行だったようだが、一方でAは「どうしてここまで固執されるのか本当にわからない」と供述するなど困惑していた。(裁判ライター・普通)



●ライブ配信中に「Aが不倫している」

筆者は執行猶予判決となった2023年事件の公判も傍聴していたが、今回身柄を拘束されながら法廷に入る被告人を見て、非常に驚いた。肌は荒れ、虚ろにも感じる視線や表情などから、憔悴している様子が一目でわかるほどだった。



起訴状によると、被告人はスマートフォンを用いたSNSのライブ配信機能を用いて、「Aが不倫している」などと実名を挙げながら配信した。2023年事件では、同様の内容をチラシなどに記載し、Aの職場の駐輪場などに撒いた行為が有罪認定されていた。



なお、Aは不倫の事実を否定している。



●事件の経緯

検察官の冒頭陳述などによると、被告人とAは同じスイミングスクールに勤務しており、Aは被告人の上司だった。



学生時代に全国大会に出場するなど水泳に打ち込んでいた被告人は、スイミングスクールでもコーチとして成果を出すなど熱心に取り組んでいた。しかし、指導の考えでAと合わなかったことなどから退職。その後もハラスメントを疑わせるAの評判を聞くなどして、怒りの感情を抱くようになり2023年事件の犯行に及んだ。



2023年事件の判決後、被告人は別の職場に就職し、Aへの思いは落ち着いた。しかし、元同僚や教え子の保護者から話を聞く機会があり、また怒りの感情を抱くようになってしまった。



自ら張り込みをするなどAの様子を見ているうちに、自身が反省していることが馬鹿らしく感じるように。失意から自殺を考えるようになる中、(被告人が考えるAの)悪事を明らかにしようと考え、今回の行為に至った。



ライブ配信の告知をすると、元同僚は過去の件から「嫌な予感がした」と周囲の人間とともに警戒。被告人はそれを察したのか、一度は配信予定を止めたものの、その数日後実行に移した。



配信では「これホースです。外から(一酸化炭素を)車内に入れてて、中は密閉しています」などと自殺をほのめかす会話を始めたことから視聴者が通報。100人近くが視聴できた状態だったといい、複数件の通報が寄せられたという。



●更生支援施設にどこまで向き合うことができるか

弁護人からは、被告人が出所後に入所を検討している支援施設の責任者を証人請求した。一定の行動制限や携帯電話禁止などの措置を行いながら、2年ほどの集団生活で精神的な不安の解消を目指していくとする。



すでに被告人と面談も行っており、真面目な印象を抱いたという。その一方で、水泳に強く打ち込み過ぎた結果として、それ以外のことに目を向けにくい課題があるとも指摘した。



検察官からは、施設における更生の可能性を探る質問がなされた。証人の施設責任者は、複数の施設で150名ほど出所者などの受け入れを行っており、様々な罪種を抱えた支援希望者をサポートしてきた実績がある。



しかし、プログラムを満了する利用者は全体の3〜4割ほどだという。刑事施設とは異なり、強制的な措置などは行えないため、話し合いの末に退所する人や無断で退所してしまう人もいるという。本人がいかに治療に向き合う姿勢を保てるかが課題ということだろう。



●「被害者と社会が悪い」と思い込み

弁護人からの被告人質問では、これまでの人生を振り返るように多くの時間をかけて行われた。



物心つく前から始めた水泳は中学、高校と全国の上位に入賞した。その成績から大学へは学費免除で入学し、ここでも全国大会の上位入賞を果たすものの、部員と競技への取り組みの考えの違いから孤立。退部の末、大学を中退することとなる。ずっと取り組んできた水泳を失い、住んでいた寮で自殺を図ったものの途中で恐くなって未遂に終わった。



その後、スイミングスクールに正社員として就職し、児童の指導をするようになった。指導の勉強のため他のクラブに出向くなど熱心に活動した成果もあり、選手が軒並み大会でいい成績を残したものの、スクール側はその成果に関心がないのではと感じていた。



また、指導のための活動費用はときに家計から捻出するなどしていたこともあり、家族とは離婚し、子どもとの関わりも持てなくなった。



そんな中、上司だったAとの関係も良好とはいえない状況だったという。



責任者であるAは全体的な収支を見ていたが、被告人はそれを「経費のことばかり考えている」、「選手の応援も表面的」などと捉えていた。また、被告人自身は受けていないものの、他のスタッフへのハラスメントもあると感じていた。



そういった環境から、離島へ失踪し、そこで自殺を考えるも決行できなかったという。



退職や2023年事件を経てスクールとは距離を置いていたものの、元同僚や教え子の保護者からは相談を受けていた。それを聞き対応している内に、Aへの不満を募らせていった。



配信では、Aに対する恨みだけを伝えたいわけではなかった。「Aが許される社会が許せない」という思いで、ライブ中に密閉された車内でエンジンをかけた。外から差し込まれたホースから出てくる排気ガスにより苦しさを覚え意識を失ったが、無意識の中で車内換気のボタンを押していた。



逮捕当初も「Aと社会が悪い」という思いは続いたというが、警察の取り調べ中に親身に不満を聞いてくれたこと、面会に来た父親による差し入れられた書籍により、徐々に自身のことを見つめ直すようになった。



法廷では、二度と同じことをしてはならないと、施設への入所と治療を受ける意思を見せた。



●被害者に対する執着…ナイフもって尾行

検察官からは、被告人の執着性を証明する質問が続いた。



スイミングスクールの退職から1年以上経っての犯行である点、配信中も自ら執行猶予中であることに触れ刑務所へ行く可能性が高いと理解していた点、Aを尾行していた際、サバイバルナイフを持っていたことも判明した。



いずれも避けるための選択肢はあったはずだ。しかし、問われた被告人は、元来一つの物事に集中すると他が見えにくくなる自身の性格と、「水泳を失い、新たなやりがいを見つけることに億劫になっていた」ことなどを供述するにとどまった。



「自分一人だけでは無理なことがあるということがわかりましたか」という裁判長からの問いかけにも、被告人は静かに頷いただけだった。



裁判所は、懲役8月を言い渡した判決の中で、出所後の更生環境と被告人自身がその課題に向き合う姿勢があると、その減軽の理由を説明した。



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  • 実務に熱心であるということとそれが会社のメリットとなることは必ずしも一致しないというのはよくあることで、そういうバランス感覚は幼少期
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