「この前、ちょっとした段差で転んでしまって、まだ顔にアザが残っているんですよ。上手に撮ってくださいね」
そうカメラマンにほほえみかけたのは大川繁子さん(97)。
栃木県足利市にある保育園「小俣幼児生活団」で主任保育士を務める。
昭和2年、東京都三田に生まれた大川さん。教育熱心な家庭に育ち、東京女子大学数学科に進学するも1年生のときに終戦。大学を中退し、病院を営む大地主の大川家に嫁いだ。
「ここは私が嫁いで3年ほどたったころに、義母が自宅を使って立ち上げた保育園で、設立には保育士の有資格者が必要だったので、嫁の私に白羽の矢が立ったんです。
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ちょうど次男が生まれたばかり。
義父が産婦人科医で、子どもを背負って病院や薬局の仕事をしながら必死で資格試験の勉強をしました。
でも保育士になって60年ほどたちますが、今の団長(園長)が次男で、自分の家でやっている仕事だから、この年になってもクビにならずにきたんでしょうね」
と優しい笑みを見せる。
3千坪を超える旧名主屋敷(国の登録有形文化財)の敷地を利用し、築170年の母屋を園舎にした小俣幼児生活団は、子どもの自由に生きる力と責任を培う保育方針で知られ、定員110名の園児は県内外から集まるという。そんな園児たちから「大川先生!」「シゲコ先生!」と慕われている。
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「結婚する前はご飯も炊いたことがなかったのに、姑が厳しい人で、炊事洗濯は井戸から水をくみ、台所に並んだかまどもプープーと竹筒で吹いて火おこしから。
そんな生活のなかで、思いがけずに飛び込んだ保育園の仕事は唯一の自由になれた時間でした。
子どもたちと接するのは毎日が発見の連続。今日は何を学べるのかしらと、ワクワクする気持ちは、今も変わりません」
7年間寝たきりだった義母を見送り、20年ほど前に夫を亡くしてからひとり暮らしを続けている。
「嫁や妻としての人生を終え、おひとりさまだから生きていられるようなもの。
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もともと家事が苦手で朝も起きられないタイプ。食事は栄養士さんが作ってくれる給食をおいしくいただきますが、朝はコンビニの三角サンドイッチで済ますことも。
一人気ままに仕事を続けられる今は本当に幸せです」
撮影のために園舎に顔を出すと、工作をしていた園児たちが集まってきた。
大川さんが童謡『手をたたきましょう』を歌いだすと、子どもたちはたちまち瞳を輝かせて一緒に口ずさむ。
保育士歴60年以上。子どもたちの心をつかむテクニックはいまだ健在だ。
厚生労働省によると100歳以上の高齢者の数は9万2139人で、女性は全体の約89%、8万1589人。
まだまだ現役で仕事を続けるおばあちゃんたちの共通点は「笑い」。笑顔がいちばんの健康法のようだ。
【PROFILE】
おおかわ・しげこ
1927(昭和2)年9月1日、東京都生まれ。22歳から夫の母が創設した「小俣幼児生活団」の保育士を続ける。
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