角田裕毅(RB)のF1第17戦アゼルバイジャンGPは事実上、1周目に終わった。
スタートで11番手をキープして1コーナーをクリアした角田に災難が襲いかかるのは、4コーナーだった。直後を走っていたランス・ストロール(アストンマーティン)に4コーナーで衝突されてしまう。この追突により、角田のマシンは右側のフロアやサイドポンツーンなどボディワークに大きな穴が開くなど、深刻なダメージを負ってしまった。
接触後も角田はレースを続けたが、「周回を重ねるごとに悪くなっていきました」と言う角田は、3周目には3台に抜かれて14番手に下がり、その後も順位を落としていった。12周目にピットインした角田のマシンを見たチームは、一旦はレースに復帰させた角田を14周目にピットインさせ、そのままリタイアする決断を下した。
テクニカルディレクターのジョディ・エギントンは、こう説明する。
「ユウキのレースは、ストロールとの接触により、ダメージを負い空力性能が低下したため、リタイアせざるを得ない状況となった」
この件に関して、レースコントロールが審議すらもしなかったため、これがレース終盤に起きたカルロス・サインツ(フェラーリ)とセルジオ・ペレス(レッドブル)の事故と同じように思われるかもしれないが、それは違う。サインツとペレスはコーナーを立ち上がったストレート上であるのに対して、角田とストロールはコーナーのど真ん中だった。
現在の国際自動車連盟(FIA)のバトルでの判断基準は「コーナーのエイペックス(頂点)で前にいた方が優先権を持つ」ということになっている。つまり、優先権は角田にあった。
ただし、角田の前輪と後輪の間にストロールの前輪が入っていた。2台の車両が横並びの場合は優先権は同等と扱われる。また、ここ数年のF1ではスタート直後の軽微な接触に対してはレースコントロールが審議しない傾向にあることも、角田とストロールの件が審議されなかった一因だと思われる。
だが、あの接触はストロールに責任があると言っていいだろう。
角田はこう振り返る。
「まだ映像を見ていないので、詳しいことはわかりませんが、彼(ストロール)があそこで強引に入ってくる理由がわかりません」
なぜ、角田は映像を見ていないのに、そう語ったのか。それは角田が4コーナーに向けて取った走行ラインだ。角田はこう続ける。
「ターン4で僕が真ん中の走行ラインを走っているところに、彼がイン再度に強引に入ってきました」
映像を見ると、角田とストロールのバトルはひとつ手前の3コーナーから始まっていた。イン側にいるストロールにスペースを残して左にステアリングを切った角田。次の4コーナーは右コーナーのため、一旦アウト(左)側にマシンを振った後、イン側からオーバーテイクする可能性があるストロールを牽制するために、角田はラインを少しだけイン側に移動させた。それが角田が言う「真ん中の走行ライン」だ。
こうなるとストロールが4コーナーで角田を抜くには、イン側を直角に曲がるしかなくなるため、事実上ストロールのオーバーテイクは不可能となった。要するに、角田は前を走るオリバー・ベアマン(ハース)を追いつつ、上手にストロールの走行ラインをつぶしていた。
ところが、そこにストロールが突っ込んできた。角田が「あそこで強引に入ってくる理由がわかりません」と言うのも理解できる。
にもかかわらず、追突してきたストロールは「角田がドアを閉めてきた」と語る。それに対して、角田はこう反論する。
「僕がもう少しスペースを残しておいてもよかったかなとも思いますが、ほかとの組み合わせもあったので、なかなか難しかったです」
ほかとの組み合わせとは、おそらくコーナーの形状だろう。同じ直角コーナーの2コーナーや3コーナーと異なり、4コーナーはイン側に縁石がせり出しており、そもそも2台が並んでコーナーリングできる形状をしていない。つまり、3コーナーを立ち上がった直後にまだ横並びにもなっていないストロールが狭くなっている4コーナーでイン側から抜ける場所ではなかった。
そのことを知っているからこそ、優先権を持っていた角田はエイペックスに向かってターンインした。
しかし、そんなレースの常識が通用しないドライバーもいるのも事実。今年の中国GPでチームメイトのダニエル・リカルドにセーフティーカーラン中に突っ込んで、リカルドに文句を言ったのもストロールだった。
だから、角田は次戦以降に向けて、こう語る。
「中団からスタートすると、こういう事故に巻き込まれやすいので、次からは予選でもっと上のポジションを獲得して、接触のリスクを減らすしかないです」