【外食業界のリアル・13】 最近、X(旧Twitter)で「スタバなう」という言葉を目にする機会が増えた。言葉自体は10年以上前から存在しているのだが、ここ最近また盛り上がっているような気配を感じる。今回は、「スタバなう」とは何なのか、なぜXで増えているのか、今後どうなっていくのか、について語りたいと思う。
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●「スタバなう」とは何か?
元々、Xでは「〜なう(now)」という言葉があり、今、自分が何をしているのか、どこにいるのかなどを表現する際に10年以上前から使われており、今もその文化が続いている。「スタバなう」とは、スタバでドリンクを飲んだり、食事をしたり、パソコンで作業をしたり、といった様子をXで投稿する際に使われていた。
だが、その使い方が少しずつ変化をしていき、ラーメンや定食、ファーストフードなど、スタバとは対極に位置するような場所や食事をしている際に、「スタバなう」とコメントするようになった。Xでは、小さい子どもがノリでやるような遊びがブームになることが度々あるが、「スタバなう」はその格好の餌食になっているともいえる。
自分自身も食事の様子をXにアップすることがあるのだが、普通に投稿するよりも「スタバなう」と投稿する方がインプレッション(見られた数)は伸び、リプ(コメント)もたくさん付く。そのようなことが追い風となって「スタバなう」が増殖しているわけである。
ちなみにだが、googleトレンドで調べてみると、スタバは直近で月に約390万回も検索されている。が、「スタバなう」はわずか290回/月となっている。世の中全体で盛り上がっているわけではなく、あくまでXの一部で盛り上がっているだけということがうかがえる。
●Xの盛り上がりの背景
Xは今、ビジネス利用はもちろん、個人も含めてアカウント数が増えて、投稿やリプ(コメント)も積極的になっている。その背景として、Xの広告収益の還元、つまりユーザーの収益化が可能となり、多くのアカウントで自分自身の投稿によってお小遣いがもらえるようになっていることがある。収益化ではフォロワー数を伸ばすとともに自分の投稿を伸ばすことが求められ、そのためにリプを増やすというのが必要不可欠となっている。
自分の投稿にリプが付き、それに返信をすることで点数が上がっていき、ほかのユーザーの「オススメ」にも表示されやすくなる。また、広告は一定数の投稿ごとに表示されるため、多くのリプが付くことで表示回数が増え、収益の増加につながるといわれている。
つまり、Xでは多くのユーザーが興味関心を持ちやすくリプが付きやすい投稿が好まれる傾向が高まっており。その格好の題材となっているのが「スタバなう」というわけである。似たような言葉に某人気遊園地の「ディ〇ニーなう」というものがある。遊園地の写真と共に「ディ〇ニーなう」とつぶやかれた投稿もかなりの数にのぼる。
だが「スタバなう」と異なり、居酒屋やラーメン屋などの店舗で「ディ〇ニーなう」とつぶやかれる投稿を見かけることはない。おそらく、著作権にシビアなことで知られており、そのような投稿への抑止力になっているのも一因があると思われる。
●公式サイトはどう捉えているのか?
「スターバックス コーヒー」のX公式アカウントのフォロワーは約900万人いる。SNSを中心としたプロモーションで圧倒的な世界観を構築し、ブランド浸透率とエンゲージメントも高い化け物ブランドである。自分の知る限り、公式アカウントが「スタバなう」に対して抑制するような動きはない。通常はブランドイメージを損なう可能性があるものは排除される傾向があるのだが、スタバは寛容的なように思われる。
マーケティング的な観点では、自社の商品を購入しているわけではないのにスタバという名前を露出してくれるのはポジティブなものとも捉えられる。明らかにスタバの商品ではないのであれば、誤解を招く可能性も低く、むしろみんなに愛されている証拠ともなる。「スタバなう」とワードを放置することで懐の広さを感じつつも、その裏側にはSNS上の巧みな戦略を感じざるを得ない。
だが直近、「スタバなう」は新たなフェーズに突入していきている。競合となるカフェチェーンなどでも「スタバなう」が投稿され、本当にスタバなのかどうかを謎解きしたり、やりとりしたりすることが楽しまれているようだ。
また、「コメダなう」という投稿も増えている。使い方としては「スタバなう」と同様であり、明らかに実際とは異なる店舗・商品で「コメダなう」とコメントするだけである。だが、スタバの商品に対して「コメダなう」と付けたり、逆の場合もあったりするのである意味、複雑化している感もある。
●両ブランドは愛されている
スタバとコメダ、両ブランドは多くのファンを抱え、そして愛されているブランドといえる。SNS上でユーザーにいじられるというのは、愛されている証でもある。両社が「スタバなう」「コメダなう」に対してどのようなスタンスを取っていくのか、今後の動きに注目したい。(イデア・レコード・左川裕規)