◆ 分岐点は8月の9連戦…大胆な采配は誤ったメッセージに
ソフトバンクが独走状態のパ・リーグに対して、開幕から混戦模様を呈してきた今季のセ・リーグ。4年ぶりのペナント奪還を狙う巨人が、1年目・阿部慎之助監督の下、昨季覇者の阪神に2ゲーム差をつけ、最終コーナーからゴール前を迎えようとしている。
各チームの残り試合数を考えると、巨人の優位は動かない。ただし、阪神も直接対決の2試合に連勝すれば十分に逆転の目はある。しかし、ほんの数週間前まで優勝争いの中心にいたのは、巨人でも阪神でもなく、現在3位の広島だった。
遡ること8月前半。“3強”は6日から14日にかけて、それぞれ9連戦のハードな日程に直面していた。ここで大胆な采配を振るったのが広島の新井貴浩監督だ。
8月に入り首位に立ち、その座を維持していた新井監督は、9連戦で8人の先発投手を起用することを決断した。エース大瀬良大地らに十分な登板間隔を与えることで、開幕からチームを支えてきた先発投手陣のスタミナ切れを回避させようとしたのだ。
新井監督とすれば、酷暑のなか行われた9連戦はあくまでも通過点。シーズン最終盤を見据えての決断だったはずだ。そしてその采配は、9連戦を5勝3敗1分で乗り切ったことで成功したかに見えた。
広島は9連戦直後の東京遠征で、ヤクルトに1勝1敗、巨人との直接対決も2勝1敗と勝ち越しに成功。6年ぶりVに向けて、全てが順風満帆だったはずだ。
ところが、マツダスタジアムで迎えた阪神との3連戦で1勝2敗とするなど、先月23日以降の8カードで勝ち越したのは、8月31日〜9月1日のヤクルト戦2連勝だけという状況。特に9月に入ってからは、3勝11敗という大失速で首位から陥落。巨人との差は5ゲームに開き、ついに4位DeNAにも1ゲーム差まで迫られている。
もし広島がクライマックスシリーズ進出を逃すことになれば、歴史的失速と呼んでもいい事態だ。そこで改めて振り返っておきたいのが、8月に迎えたあの9連戦である。
「勝負はまだ先にある」
策士・新井監督とすれば、チームに「本当の勝負は9月に入ってから。まだ焦る必要はない」というメッセージを送りたかったはず。しかし、新井監督のちょっとした“心の隙”が誤ったメッセージとなってチームに伝わった可能性も否めない。
泰然自若の新井監督と対照的だったのが、阿部監督である。巨人もまた、8月の同時期に9連戦を強いられたが、阿部監督はローテーションを崩さなかった。新井監督とは正反対に山崎伊織、グリフィン、戸郷翔征の3人を中5日で起用したのだ。
その3人は阪神との3連戦に登板。2戦目のグリフィンこそ打ち込まれたものの、山崎が先発した初戦を完封リレーで飾ると、3戦目を託された戸郷は126球の熱投を見せて完封勝利を記録した。
奇しくも巨人も広島と同じ5勝3敗1分で9連戦を終えたが、阿部監督の“一戦必勝”の姿勢がその後の首位奪還につながったのではないだろうか。
勝負どころで手綱を緩めなかった阿部監督と、手綱を緩めた新井監督。もちろん勝負は決するまで分からないが、今のところ8月の9連戦が今季のセ・リーグを分ける大きな分岐点となった可能性は否めない。
文=八木遊(やぎ・ゆう)