Z世代の心理や動向を調査しているSHIBUYA109.Labによれば、Z世代は「褒められるのは好きだが苦手だと思う気持ちもあり」、さらに人前で褒められたくないと思っている人が6割以上に及ぶという結果が出た。「褒めるなら個別にしてほしい」というのが本音のようだ。
一昔前なら、人前で褒められたほうが自尊心が満たされると思う人は多かったはず。だがZ世代は、「評価してくれた人と同じように周りが思っているとは限らない」と周りを気にしたり、「プレッシャーになるから」と不要なストレスを避けたい気持ちが働くようだ。
褒められると考え込む娘(20代)
「うちの子もまさにそうです。人前で褒められるのを嫌がりますね」マサエさん(52歳)はそう言って苦笑した。就職して2年目の娘と大学生の息子がいるのだが、ふたりとも人前で褒めると後で抗議がくるという。
「他人の前だけでなく、親戚の前でもそうなんですよ。褒めて育てたほうがいいというから、私はそうしてきたつもり。本人とふたりだけのときに褒めるとうれしそうなんですが、つい先日も親戚の集まりがあったときに、娘のことが話題になったので、『とんびが鷹を産んだみたいなものなんですよ。
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「褒められるのが嫌」な理由を聞いてみたら
その後、娘は会社で褒められたときも、「嫌になっちゃう、あの部長」と怒っていた。娘の仕事への取り組み方、アイデアなどが部員全員の前で取り上げられて褒められたそうだ。マサエさんは「すごい。よかったね」と自分のことのようにうれしくなったが、娘の表情は冴えなかった。「先輩の中には、こっちを睨むように見ていた人もいたし、今後、もっと頑張らないと『なんだ、あいつは』って言われるのが目に見えてる。期待値が大きすぎるとつらいんだよねと娘は言うわけです。そんな先のことを心配する必要もないと思う。毎日頑張っているから見てくれている人がいるわけだから、と言ったら、『ママは甘い』と言われてしまいました」
褒められたことを、そのまま受け取れず、先々への心配につなげてしまうのはどうしてなのか。マサエさんが尋ねると娘は「プレッシャーに耐えられない」と言った。
「期待されることをプレッシャーだと感じるのは、あの世代ならではなんですかねえ」
もっと喜べばいいのに、とマサエさんはつぶやく。
褒められてハシゴをはずされる経験
「以前、褒められたあげくに潰された経験があるんです」ユキナさん(27歳)はそう言った。新卒で就職した5年前、ユキナさんと同期の社員は10人ほどいた。研修期間は楽しかったが、それ以降は何かと同期と比較される日々。「今思えばブラックだった」というが、そのころは頑張らなければと毎日気が張っていたという。
「同期が営業成績を上げれば、きみたちも頑張れと叱咤(しった)される。私はもともと体育会系で負けず嫌いだから、その言葉に乗せられて無理をしました。1年半後には成績トップとなり、朝礼で毎日、褒められていたんです。
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突然ハシゴを外されて、憐みの視線を浴びるように
その後、1年下に異常なほど成績を上げる後輩が現れた。今度は彼がみんなの前で褒められ、ユキナさんは「それに比べておまえは」と言われるようになった。「女性初、20代初の部長の座も近いなんて言われていたのに、今度はその後輩が持ち上げられて……。会社ってそういうものなんだと身に染みました」
あの頃の勢いはどうしたと上司に揶揄され、同僚からは憐れみの目で見られることもあった。プレッシャーにさいなまれてつぶれかけたとき、成績優秀な後輩が会社を辞めた。彼が先につぶれたのだ。
「その後、私もすぐにやめました。今は転職して穏やかな気持ちで仕事をしています。切磋琢磨という名の下に、社員を競わせてプレッシャーをかけまくる体質の企業で仕事をするのは本当につらいです。あの経験があるから、私も特に職場において『人前で褒める』のは、よくないと思っています」
今でもときどき、成績が思ったように上がらずに苦しんでいる夢を見ることがあるとユキナさんは言った。
「なんとかメンタルが崩壊する前にやめることができたからよかったけど、そうでなかったら確実に私、仕事ができない状態に追い込まれていたと思う。褒めるって、その後の対応も考えると、そう簡単にしていいことではないのかもしれません」
そんな意図が透けて見えるからこそ、「人前で褒められたくない」と思うZ世代が増えているのかもしれない。
<参考>
・「Z世代の承認欲求に関する意識調査」(SHIBUYA109.Lab)
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。
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