自身のセクシュアリティーを正しく把握することも難しいのだが、そういったことを正直に言えて、だれからも奇異な目で見られない世の中が望まれる。
30代で「恋愛感情がない」とようやく気づいた
「10代のころ、結婚したくないと言ったら『女の子なんだから、そのうち結婚願望が出てくるのが普通だ』と言われ、20代では付き合う男性がいないというと紹介されて……。でも結局、私は人に恋愛感情を持てないんだと、ようやく気づきました」ショウコさん(35歳)は晴れやかな表情でそう言った。30代になってから付き合った男性もいるのだが、彼にプロポーズされたとき、「やっぱり違う」と自分の本当の気持ちに気づいた。
「彼には本音で話して謝りました。彼は『やっと納得できた。きみは親切だし友だちとして一緒にいて楽しいけど、僕に恋愛感情を持っているように見えなかったから』って。今も彼とはいい友だちです」
ショウコさんは他者に対して恋愛感情も、性的興味も持たない「アロマンティック・アセクシュアル」だ。ただ、人として誰かとつながりたいという欲求はある。
親しい友人にカミングアウトした
「2年ほど前、親しい友人にそういうことを話したんです。カミングアウトというほど大げさな話ではないけど、私はそういう体質なので、例えば女友だちの恋人と仲よく見えても、単純に友だちの恋人だから親しくしたいだけで、奪おうなんていう意識は微塵もないと説明しました」そういう人がいるんだ! と驚かれたり、そういえばショウコの恋愛話ってリアリティーがなかったよね、などと言われた。親しい人たちが自分に違和感を持っていたことがわかり、ショウコさん自身もすっきりしたという。
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恋人や夫とラブラブな友人を見て、羨ましいと思わないわけではないが、自分にはそういう要素がないのだから羨んでもしかたがないと彼女は言う。よく考えると、ラブラブが羨ましいのではなく、「普通」であることがいいことだと思い込んでいる自分にも気づいた。人はあらゆる局面で十人十色、みんな違うのだ。
38歳「性的欲求は異性、恋愛感情は女性に向く」私
「私はちょっと特殊みたいなんです。性的な関係は男性と、でも気持ちは女性に向くから。男性に対して恋愛感情は特にわかないんですよね。相手のあることなので、むやみに関係はもたないようにしています。傷つけたくないから。ある意味で生きづらい」ナオミさん(38歳)は、なかなか分かってもらえないけど、と少し笑った。性的欲求を満たすためと割り切り、相手も納得していたはずなのに「付き合ってるよね、オレたち」と言われて面食らったこともある。
「あんたは規格外」と同性愛者に言われたことも
好きな女性ができて悶々としたあげく打ち明けたら、受け入れてはもらえたものの、彼女に性的欲求を持てなかったことでナオミさん自身が傷ついたこともあった。「同性愛者でも異性愛者でもバイセクシュアルでもない。同性愛者から『あんたは規格外』と言われたときは、ちょっとショックでしたね。でもしかたがないんです。私は私を生きていくしかないから」
ナオミさんもまた、親しい友人たちを大事にしている。家庭を持つつもりもないので、お互いに分かりあった友人は大事な家族みたいなものだから。
「いつかそういうセクシュアリティーがこんがらがった人たちと繋がって、近くで生きていけたらいいなと言う人もいるんですが、私はわざわざそうやってカテゴライズする必要もないと思っているんです。
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世の中、異性愛者もしくは同性愛者だけではないのだ。恋愛感情と性的欲求が、別々の性に向く人もいることを、少しだけ心に留めておいてもいいのかもしれない。人は本当に千差万別、だれもが唯一無二の人間なのだ。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。(文:亀山 早苗(フリーライター))