フードデリバリーの配達員たちが秋に入って苦境に立たされている。業界大手のUber Eats(ウーバーイーツ)の寡占が一段と加速。また、外国人配達員たちが安価な発注(オファー)でも引き受けてしまうことで、報酬は減少の一途。フードデリバリーの専業で生計を立てている配達員からは悲鳴が聞こえてくる。
「またミツオかよ」。
JR目黒駅近くの路上で、ウーバーからの通知を受けた吉永健司さん(43)は、バイクに跨(またが)りながら苦虫を噛み潰したようにこぼした。ミツオとは1件320円のオファーの隠語。サニーとも呼ばれ、ウーバーでの3km圏内の配達では常態化した報酬金額だ。吉永さんは通常、これほどの安価の仕事には乗らないが、余りにも仕事がない日はやむにやまれず引き受けることもあるという。
「ことしの初夏ぐらいにウーバーが報酬体系を変えて、ミツオが増えました。2件こなしてミツオなんてこともあります。半年前だったら1件で700円ぐらいになることもあったんですけどね。
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ウーバーの報酬は、配達にかかる時間と距離や、同じエリア内で稼働している配達員の人数などから機械的に算定されるという建前なんですけど、同じような案件でも報酬が異なるケースが多くていまいち判然としない」(吉永さん)
■外国人配達員の台頭で報酬相場が下落
配達員の間でウーバーの報酬減の背景に挙げられるのが、月額498円もしくは年額3998円の支払で、税込1200円を超える注文は何度でも配達手数料が0円となるだけでなく、サービス料が最大で30%オフとなるヘビーユーザーにはお得なサブスクシステムだ。このツケが、配達員に回ってきているとされているが...
「ただ、サブスクは2年前から導入されています。結局、最大の理由は、所得が格段に低いベトナム人やウズベキスタン人に加えて、日本人でも自転車の配達員がホイホイと低報酬の仕事を受けてしまうからです。だから、ウーバーは強気で安い仕事を振ってくるんです」(吉永さん)
報酬の減少傾向はウーバーに限った話ではない。吉永さんは出前館やWOLTにも登録して仕事を回していて、以前は3社を満遍なくこなしてきたが、最近では8割方はウーバーの配達だ。
「出前館は1件800円ぐらいだったのに、そういうオファーは雨の日ぐらいで、大抵は400円代。WOLTは270円のこともある。ウーバーに客を持っていかれて経営が苦しいんだと思います。そもそもオファーの数が、ウーバーが飛びぬけています。だから、ウーバーはあぐらをかいて報酬を下げているんでしょうね」(吉永さん)
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そして、こうした報酬減は配達員に限らずユーザーにも悪影響をもたらしているとも指摘する。
「報酬が下がると、オファーを受ける配達員がなかなか決まらず、結局はお客さんの注文自体がキャンセルになる。そういうケースが続けば、お客さんがフーデリを使わなくなるから注文が減っていきますよね。それでもプラットフォーマーは利益を確保したいから、配達報酬が一段と下がるという悪循環です」(吉永さん)
配達員のモチベーションを上げるため、ウーバーとしても"エサ"を撒いている。
「最大で3000円ぐらいの高額案件が飛び込んでくることもあります。マグロ漁船が大漁をつかむのになぞらえて"マグロ"なんて言ったりしますが、500〜1000回に一回ぐらいで宝くじにあたるようなもんです」(吉永さん)
猛暑で台風も多かった8月は"マグロ"に頻繁にありつけたという吉永さんだが、9月に入ってライバルの配達員の稼働が増えたことで割のいい仕事が減り、報酬も下がってきたと実感する。
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「通知が入ってもミツオばかり。結局、フーデリって人が働きたくない時期じゃないと稼げない泥仕事みたいなものなんですよ」(吉永さん)
■配達員注目の新たなギグワーク
そんななか、ジリ貧状態の配達員にとっての「希望の光」となっている人物がいるという。なんと、自民党総裁選に立候補している小泉進次郎氏だ。
「稼げなくなったフーデリ業界から足を洗い、今年4月から解禁されたライドシェアのドライバーへの転身を考えている配達員は少なくありません。しかし現在はまだ『限定解禁』という状態で、営業できる時間帯や地域が限られている。
このライドシェアの全面解禁を公約に掲げているのが、小泉進次郎氏です。私の配達員仲間も、進次郎総理の爆誕に期待しています」(吉永さん)
バイクや自転車で街を駆け回った配達員が、いずれは乗用車を動かす運転手へ。彼らの路上での漂流は続く。
文/大木健一 写真/奥窪優木、自民党