日本一「たばこ税」を還元する街? 地価のお高い東京・港区で“コンビニ内”喫煙所が増えたワケ、条例制定10年の試行錯誤

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2024年09月20日 08:10  ORICON NEWS

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港区が設置、新橋駅前SL広場の指定喫煙場所
 分煙の意識が広まり、たばこを吸わない人が受動喫煙の被害を受けることも徐々に減ってきた。とはいえ、規制が強まったことで逆に路上喫煙が増えたり、訪日観光客の喫煙マナーが悪目立ちしたりといった問題も山積みだ。一方で、喫煙者からは「こんなにたばこ税を払っているのに迫害されるだけか…」といったボヤキの声も。10年以上にわたって「みなとタバコルール」を推進し、“喫煙者に厳しい”というイメージのある港区に、意外な施策を聞いた。

【写真】こんなところにも喫煙場所が!? 助成金を活用した駐車場内

■喫煙所はなくす? 増やす? 訪日観光客への対策には課題も

 港区といえば、六本木・表参道・台場のような繁華街や、新橋・品川といったビジネス街、再開発が盛んな虎ノ門・浜松町エリア、訪日観光客の多い東京タワー周辺、閑静な住宅街の広がる白金・高輪…といった、多様な側面を持つ東京の自治体。同区では2014年に「みなとタバコルール」を条例として制定。積極的な啓発キャンペーンを行うほか、人通りの多い道では指導員がルール順守の協力を求めて巡回するなど、23区でも先駆けて“喫煙ルールに厳しい区”と認識されてきた。

 それから10年。ルールの周知徹底から路上喫煙する区民(在住者・在勤者)は、目に見えて減っている。一方で浮き彫りとなっているのが、年々増えるインバウンドへの対応だ。

 「チラシやHP、ホテルに置く観光冊子などでルールの周知に努めているのですが、なかなか行き渡らないのが現状です。国によってはたばこは外で吸うのが“常識”となっているためか、路上喫煙、ポイ捨てが後を断ちません。ただ、外国人の方も『喫煙できる場所がわかればそこで吸う』と回答しています。訪日外国人の多いエリアでは多言語表記の喫煙場所マップの配布を進めています」(港区環境リサイクル支援部 環境課長・佐藤雅紀氏)

 外国人だけでなく日本人でも喫煙所がないと我慢ができず、マナー違反を犯す人は出てくるもの。たとえば、企業が敷地内禁煙を打ち出したがために、喫煙する社員が近隣の公園などに溜まってしまう事例もある。そうしたことから、最近ではたばこを吸わない側からも「一概に喫煙所をなくすのは、逆に非喫煙者にも迷惑」「きちんとゾーニングしたほうがいい」という意見も増えた。

 では、どんどん喫煙所を増やしたほうがいいのかと思いきや、そうもいかないのが地価のお高い港区の悩みだ。

 「民間がビルの一角に喫煙スペースを確保するのは、家賃の面で大きな負担です。特にコロナ禍には多くのビルが3密回避のため喫煙所を閉鎖しましたが、その間、維持管理に手間や費用がかからなかったためか、コロナ禍が落ち着いてからも喫煙所を復活しないビルもありました」(環境政策係長・渡邉貴之氏)

 そこで港区がとった対策が、たばこ税の活用だ。たばこは価格の61.7%%が税金で、2023年度には東京都全体で1244億円のたばこ税収があった(東京都たばこ商業組合連合会調べ)。中でも港区は53億円と23区で4番目に多く、そのうち14%の7億円以上を喫煙所整備などの「みなとタバコルール」の予算に充てている。

 なお、同じく喫煙対策に熱心な千代田区のたばこ税収は約39億円で、12%以上を喫煙所設置対策に計上。60億円以上ものたばこ税収を得る区もあるが、路上喫煙対策の推進に充てているのが数%であることもある。

■「何に使ってる?」疑問視されるたばこ税、「吸う人にも吸わない人にも還元を」

 そのほか、たばこ税収を「環境美化」の枠に組み込んでいる区は多いが、これは喫煙対策以外のゴミ対策を含むケースもある。多額のたばこ税収と、それを明確に「みなとタバコルール」の推進に活用する比率の高さを考えても、港区は日本一、たばこ税を非喫煙者・喫煙者に還元している自治体と言えそうだ。

 「たばこ税は目的税ではなく、使い道が自治体の裁量に任される一般財源に充てられます。それだけに『何に使っているのか?』と疑問を持たれる方もいるでしょう。『みなとタバコルール』の推進は、港区がたばこを吸う人にも吸わない人にもしっかりとたばこ税収を還元していることをお伝えするための取り組みでもあります」(佐藤氏)

 「みなとタバコルール」の予算は、公共喫煙所の整備費用はもとより、近年注力している既存の喫煙所のパーテーション式から密閉式(コンテナ型、トレーラー型)への転換費用にも充てられている。これにより煙が外に出ることがほぼなくなり、非喫煙者にとって受動喫煙の懸念が軽減される。もちろん、がっつり税金を徴収される喫煙者にとっては、肩身の狭い思いをせずにたばこを吸える環境の整備に還元されれば納得感もあるはずだ。

 また民間に対しては、2013年度より喫煙所設置の助成金制度も設けている。活用事例も年々増えており、現在、港区内には公共と民間を併せて105ヵ所の指定喫煙場所がある。

 とはいえ、最初から助成金活用がうまくいったわけではなく、初年度は申請が1件、翌年はゼロという惨憺たる結果だったという。

 「喫煙所は設置して終わりではなく、清掃や電気代等にも手間と費用がかかることが、民間のみなさんの二の足を踏ませていた原因でした。そこで2015年より、維持管理費に対しても助成金を設定。併せて、当初の喫煙所の設置要件は20平米以上だったのですが、港区の地価を鑑みて5平米以上としたところ、たちまち申請が増えました。さらに今年度からは、設置要件を2.5平米以上に改定しました。喫煙所を設置はしたいものの、4.8平米といった微妙なスペースしか確保できないというケースも聞かれるようになったためです」(環境政策係・大隅亜樹氏)

 実はこれ、コンビニと喫煙者の“親和性”をにらんだ改定なのだという。港区在住・在勤の人は、近ごろ店内に喫煙室を設けるコンビニが増えていることにお気づきかもしれないが、これはまさに助成金制度のおかげ。同様の取り組みは他区や都市部でも徐々に進んでいるようだ。

■多くの自治体から視察が続々、「共存できる街づくり」を全国へ

 10年にわたって、「みなとタバコルール」の地道な試行錯誤を積み重ねてきた港区は、今や全国的に喫煙対策のロールモデルとして評価されている。

 「全域での路上喫煙禁止に向けた取組を進めているある自治体から、たばこを吸う人も吸わない人も安全・安心に共存できる街づくりのために、『港区の取り組みを参考にしたい』とご相談を受けました。そのほか、近年は全国の自治体さんが視察にみえることが増えています」(大隅氏)

 闇雲にたばこを排除するのではなく、多額のたばこ税をきちんと見える形で還元し、喫煙者も非喫煙者も過ごしやすい社会を提示してきた港区。今はまだ課題として残っている国内外からの来街者への周知徹底も、「タバコルール」の先駆的な自治体として成果を期待したいところだ。

(文:児玉澄子)

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  • とりあえず全国一律屋外での喫煙禁止して欲しいですね
    • イイネ!7
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