情勢見通せぬ「自民党総裁選」世論とズレる議員支持、立候補9人の長所と短所【豊田真由子が解説】

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2024年09月20日 09:10  まいどなニュース

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豊田真由子

自民党総裁選の報道が連日加熱しています。総裁選は、事実上、日本の総理を選ぶ選挙であり、すべての国民に影響を及ぼす重大事ではあるのですが、一方で、国民の方々には「『政治とカネ』の問題はどうなった?」「“表紙”を変えた勢いで、解散·総選挙で勝利!でいいの?」「斬新な政策案も出てるけど、ほんとにやれるの?」といったモヤモヤ感もたくさんあると思います。

【写真】なぜ「政治とカネ」の問題が起こるのか?…豊田真由子が解説

外からは見えにくい実態も含め、総裁選の行方や課題、国民不在になっていないか?そして、各候補者の状況や、わたくしが永田町で直接関わった候補者の方々の人となり等について、考えてみたいと思います。

なお、本稿では、派閥の力学について言及していますが、あくまでも、現実の問題として今回の総裁選でこういった形で機能しているということの説明であり、派閥の是非に関する論点に関するものではありませんことを申し添えます。

【ポイント】
・現時点での情勢調査の結果と見通し
・支持先はどうやって決まる?
・各候補者の状況や人となりは?

現時点での情勢調査の結果と見通し

先週末(9月14〜15日)に行われた各種メディアの調査結果はおおよそ以下のようになっています。(調査によって、数値に相当ばらつきがあります。)これは、第一回目の投票に反映される数値になります。告示後論戦が始まってから、多少順位に変動が見られるようです。

<国会議員票>
小泉氏、小林氏:40〜60人前後
林氏、茂木氏、石破氏、高市氏:30人前後
河野氏、上川氏、加藤氏:推薦人20人からの上積みを目指す

<党員・党友票>
調査によって異なりますが、石破氏、小泉氏、高市氏が、それぞれ3〜2割、上川氏、小林氏が7〜5%、林氏、河野氏、茂木氏、加藤氏が5〜4%

上記を加味すると、国会議員票と党員·党友票を併せると、現時点での第一回投票での得票予想数は、石破氏、小泉氏、高市氏が、それぞれ130〜110票ほど、小林氏70〜60票、林氏、茂木氏、上川氏、河野氏、加藤氏が、それぞれ50〜40票、そして、未定·未回答が120〜60票となります。国会議員票も党員·党員票も、動向不明が相当数ありますので、情勢は変わる可能性があります。

「世論の人気」と「党員·党友の人気」と「国会議員の評価」と「国会議員の支持先」には、ズレがあり、ここに総裁選の難しさがあると思います。「国会議員の評価」と「国会議員の支持先」のズレ、というのは、例えば、A候補の能力を評価しているが、上からの圧力でB候補に投票するとか、「国の顔」としてはC候補が良いと思うが、「選挙の顔」を考えてD候補に投票するとかいったことです。

どの候補が決選投票に残る2名となるのか、そして、決選投票で他候補を支持していた議員がどう動くかによって、最終的な結果はまだ見通せません。

支持先はどうやって決まる?

従来の派閥による事前調整や、厳しい締め付けがなくなった結果、若手や、同じ派閥や地域から複数、計9名が出馬するといった、これまでの総裁選には見られなかった状況です。各派閥の所属議員の支持先もいろいろで、そういう意味では、「自民党も変わってきている」感じもしますが、一方で、実際行われていることを見ると、旧来のドロドロも随分と感じさせます。

これまで個々の議員は、基本的に「誰を支持するかは、自分で決めたことではなく、派閥の判断に従っただけ」という言い訳ができました。一方、今回は自分の判断と、結果に伴って生じる責任が、議員個人に大きくかぶさってくることになります。“勝ち馬に乗る”という判断基準はもちろん大きいですが、そう単純なものでもなく、決選投票を見据え、多くの議員が今、「誰を支持すればいいか」、慎重に状況を見極めようとしています。

旧来の「派閥が仕切る総裁選」の様相は呈していませんが、派閥が母体となっている候補者も多く、また、“キングメーカー”による強力なバックアップ、他陣営からの引きはがし、総裁選後の閣僚人事などを見据えた駆け引きなど、様々な力関係·人間関係·思惑が複雑に絡み合って、展開していきます。推薦人を自派閥から貸し出すことで、決選投票では自分の推す候補者の支援に回ってくれ、という思惑も感じます。

そして、“キングメーカー”同士は、基本的に仲が良くない&主導権争いなので、「敵の味方は敵」で、「あっちの推している候補者は、自分は推さない」といったことが、大きな力学として作用しています。

またそもそも「同じ派閥だから、皆、仲が良い」なんてことは、全く無く、むしろ、同じ派にいるからこそ、派内抗争で、憎しみや対立が増幅するといった感じもあります。非常に強力なリーダーが、うまくまとめているときは、ひとつの塊として機能しますが、(派閥にしても旧派閥にしても)今はどこもそういう感じではなくなっており、仮に「決選投票ではまとまろう」と号令をかけても、その通りに行くかは微妙なところだと思います。

また、今回は候補者数が多く議員票が割れるため、党員·党友票の重みが増しています。これまで、力が強い国会議員は、地元の党員·党友票をある程度まとめる、ということをしていましたが、今回は、議員への締め付けが弱まっているのと軌を一にして、党員·党友への働きかけもあまり行われていません。候補者数が多いこともあり、誰に投票すればいいか分からない、最後まで論戦を聞いてから政策本位で決める、といった声も聞かれます。

各候補者の状況や人となりは?

各候補の経歴や強みに関する報道は多くなされていますので、ここでは、各候補のウィークポイントや、永田町でわたくしが直接関わっての印象等を、考えてみたいと思います。

<小泉氏>

以前から世論の支持が高く、若く“刷新感”の高い小泉氏に勢いがあると言われましたが、議員の中には、不安視する声や、恵まれた境遇や“キングメーカー”菅氏からの小泉氏支援圧力に対する反発も少なからずあり、それらが顕在化する可能性もあります(そうならず、多数の議員が“長いものに巻かれる”可能性ももちろんあります)。

連日候補者同士で行われる論戦の中で、例えば小泉氏が掲げた「解雇規制の見直し」に関する軌道修正や、外交では金正恩北朝鮮総書記やカナダのトルドー首相と「同年代だから話ができる」と強調するなど、「いや、そこじゃない··」「もっと具体的方策を」とツッコミの入りそうな場面も散見されます。

小泉氏は、独特の強力なオーラで人を惹きつける力があり、東日本大震災後、毎月必ず11日に党青年局長として福島を訪れ、2012年当時、青年局メンバー(若手議員)はこぞって同行したがり、小泉氏の行くところ、メディアも地元の人も殺到する、という感じでした。あまり腹を割って人と付き合わない、とも言われていましたが、党内もメディアも、皆が特別扱いをしてきており、それと内実が伴ってきているか、の真価がまさに問われている、ということかと思います。

<石破氏>

石破氏は、地方創生や国防への熱意もあり、党員·党友には以前から抜群の人気がありますが、いかんせん、議員票が伸びません。推薦人の中に、岸田派、麻生派、茂木派、安部派からゼロであることを見ても、過去の様々な遺恨(例:1993年の離党や「麻生降ろし」のきっかけを作った等)が相当根深いことを感じさせます。

石破氏は、実直だが、その場に応じた立ち居振る舞いが苦手で、よくもわるくも不器用な方なのだろう、と思いました。女性議員の会合のゲストでいらしたときは、お茶目な感じでしたが、永田町的な仲間作りや社交が苦手、ということで、たしかに石破派は途中でなくなってしまいましたが、親分として担ごうとした人たちが一定数いたということは、やはり何かを持っている方ではあるのだろうと思います。

今回、党員·党友票の重みが増していることは有利に働きますが、決選投票に残り、その上で、議員内での不人気·遺恨を、どう克服できるのか、最後の総裁選(石破氏自身の弁)の正念場です。

<高市氏>

高市氏は、政策に強いとされ、いわゆる“岩盤保守層”の強固な支持を得ており、党員·党友の票を集めるところが強みですが、一方、党員·議員とも保守系以外への広がりや、女性の支持が期待されたほど高くない、といったところをどう克服するか、そして、前回、強力な後ろ盾であった安倍元総理不在で議員票をどこまで動かせるか(今回の推薦人も安倍派からが多く14人)、といったことがポイントになってくると思います。

いわゆるジェンダーイシュー等に関して、岩盤保守の方々は強固な思想信条に基づくので、強い主張で声が大きく感じられる一方で、社会にも自民党内にも、実は「『そこは別に認めてもいいと思うんだけど··』と思っているが、声を上げにくいから黙っている」というサイレント層が相当数存在している、というねじれ問題があります。伝統を守りつつ、時代と価値観の変化にどう適切に対応していけるか、もトップに求められる資質だろうと思います。

高市氏が政調会長のときに、私もメンバーとなって「女性の健康問題」についての提言を党でまとめたときなども、よく声をかけていただき、高市氏や野田聖子氏は、(女性先輩議員には珍しく)、後輩を気にかける方々と思います。

いわゆる「永田町的な人付き合い」は得意ではないとされますが、総裁選の在り方も大きく変わってきている中で、上川氏含め、“ガラスの天井”を打ち破れるかという点は、やはりひとつ注目ポイントかと思います(「女性かどうかではなく、実力で見てもらいたい」という主張は、もちろんよく理解・同意します)。

<小林氏>

小林氏は、オールマイティ感強く、経済安全保障分野などで頭角を現し、「新たなホープを担いで、世代交代で古い政治·自民党を変えたい。」という中堅・若手の熱量で今回押し上げられました。一方で、自派閥含め、ベテラン議員からの支持不足や、そして知名度や経験不足の点から、党員・党友票が足りません。若いのに意外と固い、と見えてしまうところも気になります。

今後経験を積んでいき、「今回ダメでも、今後の若手の一大勢力に」という期待もある一方で、現在小林氏を推しているメンバーの中には、世襲だが実力もあり「我こそは未来の総理·総裁」と自他ともに考えてきている議員が何人もおり、「政界は一寸先は闇」であることを考えれば、将来的にも、このまま小林氏を担いで、派閥のように強固なつながりで集団が続いていくとは限らないと思います。

私は、役人時代、米ハーバード大学院の留学が小林氏と同時期で、氏の妻は中高大の後輩です。政界の魑魅魍魎をまとめる凄みが不足といった指摘もありますが、今回はまだ早いとしても、日本の政界においても、「世襲でもカネでも後ろ盾の力でもなく、能力と血の滲むような努力によって、正当に評価されるということが、ちゃんと起こり得るのだ」ということの証として、この先も潰されずにがんばっていただきたいと思います。

<他の候補>

字数の関係で短くなりますが、林氏(推薦人は岸田派から15人)、河野氏(麻生派から18人)、茂木氏(茂木派から14人)は、自派閥を中心にした支持となっており、一方で、派閥が割れた上川氏(岸田派から5人)と加藤氏(茂木派から5人)は、他派閥や無派閥から広く推薦人を得る形となっています。

私は、これらの候補者の中にも、現在の順位は決して高くないけれど、能力·経験豊かで国を担う力のある方々がおられると思っています。ただ、国民からは実際が見えにくく、権謀術数渦巻く永田町では、なかなか、そういうことで評価されるとは限らないんだよな、難しいな···、と思います。

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以上、総裁選の見通しや各候補の状況について、ざっと考えてみましたが、そもそも、国民の方々の中には、「『政治とカネ』の問題が、ちっとも解決していない」、「“表紙”を変えればごまかせる、というのはどうなのか」といった声もあり、次回は総理·総裁にふさわしい資質、政策の中身、国民目線で見た問題点等について、考えてみたいと思います。

◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。

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