■『今こそ女子プロレス!』vol.21
鈴芽インタビュー 後編
(前編:地元の工場から東京女子プロレスのリングへ「こんなに全力で生きている世界があるんだ」>>)
プリンセスタッグ王者、鈴芽。身長152cmという小柄な体躯を活かしたスピードと躍動感溢れるファイトスタイルで、観る者を魅了してやまない。
高校卒業後、地元の工場で事務員として働いていたが、辰巳リカに憧れて東京女子プロレスに入門。デビュー戦はセミファイナル前の第6試合で、当時から期待されていたことが伺える。実際、鈴芽は期待を上回る試合をした。
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1年4カ月後輩の遠藤有栖とタッグチーム「でいじーもんきー」(以下、でじもん)を組むも、勝てない日々が続いた。しかし有栖とのコンビネーションで、タッグで闘う楽しさを徐々に覚えていく――。
【東京プリンセスカップでベスト4。期待が高まるなか、訪れた試練】
2022年7月31日、東京プリンセスカップ準々決勝で憧れの辰巳リカと対戦し、勝利。「執着心が上回った」と鈴芽は言う。
「『リカさんに勝ちたい』という執着心もそうだし、『もう無理』からのひと踏ん張りが、リカさん相手だとできてしまうんですよ。それは"いちファン"じゃなくなっても、特別な存在だから。東京女子に入ろうと思ったのもそうだし、自分だと諦めちゃうようなことをリカさんがいるとできちゃうんです」
準決勝で坂崎ユカに敗れたものの、ベスト4に入ったことで周囲の期待はさらに高まった。10月9日、海外でも活躍する強豪、水波綾とのシングルが組まれる。163cm、80kgの水波に対し、体格差は歴然。得意技のドロップキックがまるで通用しない......。善戦したが、結果は伴わなかった。
「初めて直面したレベルのパワーと体格だったと思うし、それ以上に『こんなにアウェーなことない......』という気持ちになってしまった。入場から空気を持っていかれてしまって、チョップをしている時とかも永遠に感じるくらいしんどかったけど、会場は完全にアニキ(水波)の味方。やっぱり世界中がアニキのホームだし、心身ともに試練を感じましたね」
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初めて心が折れそうになった。応援してくれるファンに申し訳なかった。それでもまた頑張れたのは、ファンの存在があったからだ。
「負ける度に『本当にごめん』って思うけど、みんな一緒になって悲しんだり悔しがったりしてくれるから、『ごめん』って思いながらもちょっと嬉しくて。何度ダメでも、何度でも期待して背中を押してくれるから、心を折っている場合じゃない。みんなも一緒に闘ってくれていると感じます」
【初の海外興行「東京女子を好きでいてくれる人が、世界中にいる!」】
2023年3月18日、有明コロシアム大会にて、タッグパートナー遠藤有栖と2度目のシングルが行なわれた。2年前の有栖デビュー戦でのシングルとはまるで違う。スピーディーでワクワクするような、「でじもん」らしい攻防。ふたり一緒だったからこそ、ここまで成長できたのだろう。
結果は、鈴芽が必殺技リング・ア・ベルで勝利。試合後、ふたりは抱き合いながら言葉を交わした。何を話していたのだろうか。
「『有栖と(一緒に闘って)ベルトがほしい』って言いました。私はファンとしてプロレスを観ていたから、ベルトは特別なものという意識はずっとあったんですけど、本当に心からベルトがほしいと思ったのはこの試合がきっかけですね」
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3月31日(アメリカ太平洋標準時)、東京女子プロレスはカリフォルニア州・ロサンゼルス・グローブシアターにて、選抜メンバーによる初の海外興行を開催。鈴芽は有栖と組み、角田奈穂&乃蒼ヒカリ組と対戦した。
「でじもん」のチャント、SUZUMEコール、紙テープ......。初めての海外で怯えていた鈴芽だったが、現地ファンの熱気溢れる応援を受けて「全部吹き飛んだ」という。
「『東京女子をこんなに好きでいてくれる人が、世界中にいるんだ!』って感激しました。SNSとかコメントで知ってはいたけど、実際にあれだけの人数を目の当たりにして、すごく嬉しかった。海外で活躍してきた先輩たちがいてこそだと思うので、本当にすごい人たちだなと思います」
紙テープは日本のものより、太くて柔らかい。船の出港で使うものだと聞いて、記念に持って帰ってきたという。有栖の紙テープがゼブラ柄になっており、それ以来、日本でも紙テープにペンで柄を描いたり、「でじもん」のスタンプを押したり、工夫してくれるファンが増えた。ただでさえ紙テープを巻くのは大変な作業なのに、ファンには感謝してもしきれないという。
5月5日、後楽園ホール大会にて、辰巳リカが保持するインターナショナル・プリンセス王座に挑戦。シングル王座初挑戦で、しかも相手はファン時代から憧れていた辰巳リカ。しかし、彼女はインターナショナル王者として世界を見ている。「私なんて眼中にないんじゃないか?」と思いながら、辰巳を振り向かせたい一心で臨んだ。
負けてしまったが、シングルプレイヤーとしての鈴芽のポテンシャルを最大限に発揮した試合だった。セコンドに有栖がいることで、シングルでも心細さは感じなかったという。
「有栖がずっと声を出してくれるので、全然ひとりぼっちじゃない。気持ちの面でいつも支えてもらっているので、『タッグでよかった』と思います。『でじもん』はそういうタッグだと思います」
【プリンセスタッグ王座を戴冠「悔しさを共有した回数が違う」】
2024年2月10日、後楽園ホールで開催された「第4回"ふたりはプリンセス"Max Heart トーナメント」決勝戦にて「白昼夢(辰巳リカ&渡辺未詩)」を破り、「でじもん」は悲願の初優勝を果たした。プリンセスタッグ王者の「ユキニキ(水波綾&愛野ユキ)」に挑戦表明し、3月31日の両国国技館大会のセミファイナルで、ユキニキを相手にプリンセスタッグ選手権試合を行なった。
試合前、水波はでじもんの動きについて「驚異」と話していた。「でじもん」の動きは、有栖曰く「グルグルしてる。どこからでも飛んでいける」――。
「グルグルというのは本当にそのとおりで、有栖と連携技の相談をする時の頻出単語です。『グルグルして〜』って、すごい言います。『そのグルグルは、どのグルグル?』みたいな(笑)。それくらいグルグルしてるなって思います」
試合は、有栖が愛野にドロップキックで先制攻撃するも、愛野はいとも簡単に弾き返してみせる。しかし、鈴芽と有栖の"グルグル"で、徐々に「でじもん」はペースを掴んでいく。鈴芽は愛野を睨みつけ、「来いよ!」と挑発してみせた。鈴芽がそんなことを言うのを初めて見た客席から、どよめきが起こった。
「(前編で)『シングルだと目の前の相手のことだけを考える』って言いましたけど、ユキさんと闘っているとタッグでもそれになって、もうユキさんしか見えなかった。自分のなかの"熱さ"を全部引っ張り出されたというか......。ユキさんの熱さが燃え移った感じがしました」
丸め込み、連携技。自分たちが持っているものを効果的に使い、パワーの差を見事に攻略。最後は鈴芽のリング・ア・ベルが、愛野をマットに沈めた。
「ふたりで、さんざん悔しい思いをしてきた。ユキニキもめちゃめちゃ強いけど、タッグとしては私たちのほうが組んでる時間も長いし、悔しさを共有した回数が違う。タッグベルト、タッグでの勝利への気持ちは全然違うんだろうなと思います」
【「1対1では勝てなくても、タッグなら私たちのほうが強い」】
5月6日の上原わかな&HIMAWARI戦、7月20日の荒井優希&宮本もか戦をいずれも勝利し、「でじもん」は順調に防衛ロードを突き進んでいる。9月22日、幕張メッセ大会で行なわれる3度目の防衛戦の相手は、山下実優&伊藤麻希。
山下は東京女子プロレスの不動のエース、伊藤は唯一無二のカリスマ性を誇る。強敵であるのは間違いない。山下と伊藤は「でじもん」について「後輩としてしか見ていない」と挑発的な発言している。
「私たちにとってめっちゃ強い先輩だし、尊敬している相手なのは変わりなくて。でも『タッグなら私たちのほうが強い』という自信を持てています。1対1で今すぐ勝てるかと言ったら、ちょっと難しいかもしれないけど、タッグなら勝てるとちゃんと思えています」
「カラフルなタッグになりたい」と、鈴芽は考えている。これまで負けても勝っても、その度に有栖とふたりで成長してきた。もっといろいろなチームと闘って、もっといろいろなものを吸収して、全部の色を手に入れていきたい。
課題はあるかと聞くと、「私がもっと強くならなきゃ」と言う。タッグ力や有栖の成長に関しては、このままいこうと思える。しかし、隣で遠藤有栖のすごさをずっと感じてきたため、「止まっていると置いていかれてしまう」という焦りもある。
「一歩踏み出す勇気をあげられるレスラーになりたいです。『明日も頑張ろう』とか『何かに挑戦してみよう』とか。そんななかで『プロレスをやりたい』『東京女子に入りたい』と思ってくれる子もいるかもしれない。試合を通してそういう勇気をあげられるレスラーになりたいです」
プロレスラーにインタビューをすると、"その人の試合っぽい"インタビューになるから面白い。頭をフル回転して試合をしている鈴芽は、やはりインタビューでも頭をフル回転して言葉を紡いでくれた。そんな話を彼女にすると、「確かに有栖と一緒に取材を受けると、擬音語ばっかりで有栖っぽいです」と笑った。
【プロフィール】
鈴芽(すずめ)
1998年11月27日、茨城県生まれ。高校卒業後、工場の事務員として働いていたが、辰巳リカに憧れて東京女子プロレスに入門。2019年8月25日、後楽園ホールでデビュー(鈴芽&舞海魅星vs. 中島翔子&里歩)。2024年2月10日、遠藤有栖とのタッグ・でいじーもんきーで「第4回"ふたりはプリンセス"Max Heart トーナメント」初優勝。3月31日、両国国技館大会にて、水波綾&愛野ユキが持つプリンセスタッグ王座にでいじーもんきーで挑戦し、勝利。第16代王者となる。152cm。