【モツあんかけラーメン】大塚のニューウェーブ町中華の名物ラーメンが、ぐぅのねも出ないほどにうまかった話:パリッコ『今週のハマりメシ』第152回

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2024年09月20日 13:10  週プレNEWS

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大塚にある「幸龍軒」のモツあんかけラーメン

ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。

それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。

そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。

【写真】バラエティ豊かな焼売

* * *

ライターの大先輩で、よく酒の場もご一緒させてもらっている、とみさわ昭仁さんが、SNSで大塚にある「幸龍軒」という店の「モツあんかけラーメン」が美味しかったという発言をされていた。

大塚はたまに訪れる機会もある好きな街で、その店も外観を見て前から気になっていた。しかもとみさわさんは、地方遠征までするほどの大の麺好き。気にならないわけがない。何気なく「いつかご一緒しましょう」とコメントすると、「いつかなんて言わず、日程を決めよう!」とご連絡をいただいた。なんてかっこいいんだろう。 数日後、さっそく幸龍軒飲みが実現する。


大塚駅の南口駅前は、駅を降りるといきなり「大塚天祖神社」の参道入り口があり、そこが飲み屋も多い繁華街になっている。しかもその前を東京に残る唯一の都電「東京さくらトラム(都電荒川線)」が横切るという、なんとも味わい深い街だ。 そのなかにある1軒が、幸龍軒。


一見すると古い町中華のようだが、実はここ、大手中華チェーンの「大阪王将」がプロデュースした店らしい。僕は酒場ライターという仕事がら、ふだんはチェーン店よりも個人店により興味があるような人間だけど、このコンセプト作りと求心力は素晴らしいとしか言えない。

壁には魅力的な短冊メニューがびっしりとかかげられていて、一角には冷蔵ケースがあり、まるでコンビニのように酒の缶がずらりと並ぶ。グラスや氷などは無料で使えて、セルフでとって飲むスタイルらしく、すでにわくわくが止まらない。


さっそく「ホッピーセット(白)」(税込480円)でスタート(こういうものとか生ビールは店員さんに注文する方式)。


さらにここに、これまた大先輩ライターであり、とみさわさんの飲み友達でもあるキンちゃんさんも加わり、完全に最高の昼下がり。さて、欲望のままに飲み食いするぞ〜! と気合いを入れたはいいけれど、ここで重大な問題がひとつ浮かび上がる。それは、集まっているのが、日本でも屈指の"食が細い"メンバーであるということ。

酒はガンガンに飲む。けれども、つまみはちょっとでいいが基本スタンス。その結果、僕が「お好きな焼売5個」(800円)、とみさわさんが「チーポテ」(500円)、キンちゃんさんが「よだれ鶏」(580円)を1品ずつ頼んだら、それで全員、じゅうぶんにお腹がいっぱいになってしまったのだった。


店のおすすめメニューのひとつであり、僕の大好物でもあるシュウマイは、「肉焼売」「エビ焼売」「ホタテ焼売」「とびこ焼売」「しいたけ焼売」とバリエーション豊富で、ひとつずつ頼むよりも50円お得な5個セットは大満足の味わいだった。じゃがいもとチーズをオーブン焼きにしたチーポテも、そりゃあうまいに決まってる。なんなら僕はそれで事足りてしまい、よだれ鶏には味見もできなかったほどだ。


最高に楽しい。しかし、ラーメンを食べる余裕はもはやない。それを食べに来たはずなのに! ということがあったのが、約1ヶ月前。そして、ちょうど大塚に用事があってついに念願叶い、胃袋の具合も調整しつつ、ひとりで幸龍軒を再訪できたのが、やっと数日前なのだった。

正直、誘惑は多い。店名に加え「大塚」という地名までメニューに入れ込んでしまっている、巨大チャーシューののった天津飯「大塚 幸龍飯」や、これまた巨大レバニラに目玉焼きやシュウマイまでのった「肉厚レバニラ炒飯」も、いつか絶対に食べてみたい。けれども今日は初志貫徹。「モツニラあんかけラーメン」(980円)を食べないわけにはいかない。メニューを見ると、プラス250円でえ肉焼売が2個つく「焼売セット」というのがあるので、それにしよう。当然、今日もホッピーからのスタートで。


カウンター席に着き、真っ赤なテーブルを愛でつつホッピーでのどを潤していると、注文した料理がスピーディーに到着。


夢にまで見た幸龍軒のモツニラあんかけラーメンに、ついに1ヶ月越しのご対面だ。まずインパクト絶大なのが、どんぶり全体を覆う大量のニラ。


そのニラをスープに浸すようによけてみると、下からは端正なストレート麺、そして、刻まれたもつとひき肉が顔を出すのだった。


まずはスープをズズズとすする。......ん? うまい。そしてどこかで味わったことのあるタイプの味だ。そう思い、なん口かすすってやっと気がついた。これは、完全に町中華リスペクトの味わい。たとえば、僕が好きだったのに今はなくなってしまった、地元の「龍正軒」や「ラーメンハウスたなか」の。鶏ガラや野菜の旨味に、しっかりと化学調味料も効いている(万が一幸龍軒が無化調の店だった場合、あとから謝ります)。なるほど、ここまでやるか。本気にもほどがあるな、大阪王将。

とろみのある濃いめの醤油スープ。しゃきしゃきのニラの、パンチのある香りと爽やかさ。そして、もつの旨味。お世辞抜きで、驚くほどうまいスープだ。それをまとった、小麦香るぱつっとした麺も相性抜群。箸が止まらない。


ちなみにこれは、なんのもつ肉だろう。くさみなく、ぷりぷりの脂としゃきしゃき食感は牛のシマチョウ系だと思うんだけど、もしかして脂身の多い豚の白もつあたりという可能性もある? もしくは数種の部位が混ざってる? 今日2度目の謝罪をしなければいけなくなってしまう可能性があるので断言は避けるが、世の中には知らなくていいことも多いし、とにかく、むちゃくちゃ美味しい「もつ」であるということに変わりはない。

おっと、そういえば、モツニラあんかけラーメンのあまりのうまさに夢中になりすぎ、まだ焼売を食べていなかった。ごろごろっとした肉の食感が特徴の、幸龍軒の肉焼売。


塩気はしっかりついているのでひとつめはそのまま味わい、ふたつめは思いきって、卓上の醤油、ラー油、鎮江黒酢などでつまみブーストをして味わう。


ところで、40代もなかばになって最近やっとわかりはじめてきたことがある。それは、「うまいラーメンほど、卓上の調味料をあれこれ足すたびに味がぼやけてゆく」ということ。それゆえ、中華調理店やラーメン屋の卓上調味料の使いどころには、個人の好みやセンスが大いに反映されるものだと思う。

今回も、うまいうまいと言いながら、1/4ほどの麺をプレーンなままで食べた。ただ、どうしても興味が湧き、最後に思いっきりテーブルコショウを足してみたところ......さすが町中華チューニングのラーメン。想像を超えてマッチングし、酒がさらにすすんでしまうのだった。

取材・文・撮影/パリッコ

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