国の天然記念物「奈良のシカ」を男が蹴る動画がSNSで拡散され、問題になっている。新型コロナウイルス流行で減少した観光客数が戻りつつある中、観光客とシカのトラブルも増加。奈良県などは「シカを傷つけないで」と訴え、マナー周知に力を入れる。
「奈良のシカ」は奈良公園(奈良市)とその周辺にいる約1300頭を指す。春日大社(同市)では「神鹿」と呼ばれ、神の使いと位置付けられる。一方で、人懐こいしぐさが愛され、古都・奈良のシンボルとして観光客を和ませている。
県警によると、7月下旬、観光客とみられる若い男性がシカを蹴り上げる動画がSNSで拡散された。市民からは「シカを守って」「なぜ逮捕しないのか」など100件以上の通報が寄せられ、同月中に緊急のパトロールを行った。
パトロールでは、警察官らが観光客に対し、シカとの正しい接し方を説明したチラシを配布。英語や中国語を話せる警察官が「DJポリス」となり、「シカは天然記念物で、傷つけると法律により罰せられる場合がある」などと呼び掛けた。
県警幹部は「シカを死なせたり、刃物で傷つけたりすれば文化財保護法違反に問われる可能性がある」と指摘。一方で「シカは言葉を話せないので、骨折や出血など明らかな傷害行為がないと検挙できない」と話す。
県も奈良公園の最寄り駅で電子掲示板を使い、シカにむやみに触れないよう多言語で注意する。ただ、台湾から来た女性(50)は「シカを触る機会はないので、なでた。周りの人も触っているので問題ないと思った」と話し、効果は限定的だ。
県奈良公園室の担当者は「シカは野生動物。不用意に近づいたり触れたりしないよう周知したい」と強調。「今後はポスターや電子掲示板の設置場所を増やすことを検討している」と話している。