アナウンサーには欠かせないNHKの日本語発音アクセント辞典。1997年の入社時は青い箱、翌年に改訂されたものは緑、2016年に発売された現行版はピンク。中身も時代とともに変化しています。
たとえば「奇跡」。「奇」を高く発音する〈頭高〉の人が多いのですが、緑までは辞典に存在せず、「軌跡」と同じ〈平板〉が第一アクセント(優先されるアクセント)でした。とはいえ、入社当時すでに一般的には〈頭高〉だったので、ディレクターからその都度指摘されました。新人としては辞典にない読み方はできず(プロの矜持(きょうじ)として? はたまた先輩が怖くて? 笑)、一方で視聴者がそこに引っかかってしまうのも本末転倒。どちらとも取れそうな微妙なアクセントで乗り切っていた日々が懐かしいです。ちなみに今の第一アクセントはかつて第二アクセントだった「セ」が高い発音〈中高〉で、〈頭高〉は第二アクセントに昇格?しています。
発行元が異なるので当然といえば当然ですが、やはり我々がよりどころとしている広辞苑には「裏面」について「うらめん」も載っている一方、アクセント辞典では現行版でも「りめん」のみ。「表」面を「ひょう」と読む以上、「裏」も同じ音読み「り」になるという原則があるのです。「大小」なども同様で、大人数(「おお」にんずう)なら小人数(「こ」にんずう)となります。
そんな身近な「へ〜知らなかった!」な日本語は、大阪芸術大学の授業でも、日本語により興味を抱いてもらうきっかけとして重宝していたのですが、時流に合わせて許容範囲が広がり「つまりどっちでもいいんでしょ」なものが増えて内心、ちょっと残念です(笑)。
ところで、全ての言葉が辞典に載っているわけではありません。では外来語などはどう発音するのか。ここにも原則があります。各政党が「マニフェスト」を表立って使い始めた時のこと。「マ」が高いのか「フェ」が高いのかと悩んでいると、先輩から、辞典にない場合は原語のアクセントに倣うこと、と教わりました。ちなみに「グアム」は、昔〈中高〉と教わりましたが、新辞典では〈頭高〉が第一アクセントとなっています。
|
|
先日、テレビでとても興味深い(けれど昭和世代はひどく戸惑う)放送がありました。通常4年ごとに改訂される教科書も、時代とともに新発見だったり、新しい解釈だったりといったアップデートがある、という内容。その中で、歴史上の人物たちが原語に倣った名前になっている、というのです。
コロンブスは「コロン」(スペイン語)。リンカーンは「リンカン」(英語)。ザビエルは、「シャヴィエル」(ポルトガル語)。シャヴィエル・・・何度も繰り返すとちょっとクセになります。初の世界一周で知られるマゼランは「マガリャンイス」(ポルトガル語)。「曲がりゃん椅子」という語呂で覚えられる…のかな?
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 38からの転載】
|
|
馬場典子(ばば・のりこ)/ 東京都出身。早稲田大学商学部卒業。1997年日本テレビに入社し、情報・バラエティー・スポーツ・料理まで局を代表する数々の番組を担当。2014年7月からフリーアナウンサーとして、テレビ・インターネット番組・執筆・イベント司会・ナレーションなど幅広く活動中。大阪芸術大学放送学科教授も務める。