南野拓実は欧州サッカーシーンでタフに生き抜く 本領発揮は「ゴール前」

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2024年09月23日 07:30  webスポルティーバ

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西部謙司が考察 サッカースターのセオリー 
第15回 南野拓実

日々進化する現代サッカーの厳しさのなかで、トップクラスの選手たちはどのように生き抜いているのか。サッカー戦術、プレー分析の第一人者、ライターの西部謙司氏が考察します。今回はフランスのモナコで見逃せない活躍を続けている、日本代表・南野拓実を取り上げます。攻撃のあらゆるポジションを務めてきた南野選手の本来の特長は、どこにあるのでしょう?

【バルセロナ戦勝利に貢献】

 開始10分、バルセロナのGKマルク=アンドレ・テア・シュテーゲンからエリック・ガルシアへのパスに南野拓実が寄せる。奪って、ペナルティーエリアへ突入しようとしたところでエリック・ガルシアがファウル。決定的得点機会阻止で退場となった。

 UEFAチャンピオンズリーグの初戦、モナコはバルセロナに2−1で勝利。この試合で最も活躍したのは先制点をゲットしたマグネス・アクリウシェだと思うが、ある意味最も決定的な仕事をしたのは南野拓実である。エリック・ガルシアを退場に追い込んだことで、バルセロナのゲームプランは大きく変わらざるを得なかったからだ。

 アンカーポジションのエリック・ガルシアがいなくなったことで、バルセロナは4−2−3のシステムになった。バルセロナは、前方中央部に多くの選手を集める攻撃を今季の特徴としている。センターフォワード(CF)のロベルト・レバンドフスキ、トップ下に加えて、ウイングのひとりとボランチのひとりも中央へ集まるオーバーロード。そこでの素早いパスワークと裏への抜け出し、中央と見せてサイドのラミン・ヤマルを使った攻撃で得点を量産している。

 そのストロングポイントが、10人になったことで使えなくなった。たんにひとり減ったというにとどまらないダメージだったわけだ。ボールポゼッションはモナコ55%、バルセロナ45%。バルセロナはそもそもボール支配率で負ける戦い方を想定していない。試合内容は10人にもかかわらずほぼ五分ではあったが、枠内シュートはモナコ8本に対してバルセロナはわずか1本と大差をつけられた。

 エリック・ガルシアの退場を誘発した南野は、それまでほとんどボールに触っていなかった。ほぼ最初のプレーで試合の趨勢を決める貢献をしたわけだ。

 結果にコミットする点で、南野らしい貢献の仕方だったかもしれない。わかりやすい結果を出すことで、存在価値を証明し続けた選手なのだ。

【マルチなようで特化型】

 セレッソ大阪、ザルツブルク、リバプール(サウサンプトンへの貸し出しあり)、そして現在のモナコ。その間、南野はサイドハーフ、インサイドハーフ、CF、トップ下と攻撃のポジションをすべて経験しているため、攻撃のマルチプレーヤーと認識されているかもしれないが、実はそんなに器用なタイプではない。

 一応それぞれこなしてはいるのだが、どのポジションにいても南野が力を発揮するプレーは決まっている。それに関しては、C大阪時代のレヴィー・クルピ監督のコメントが興味深い。

「中央でよりゴールに近い位置でプレーしていれば、もっと多くのゴールを決めることができただろう」(クルピ監督)

 中央のゴール近く。そこでプレーすれば「日本の将来を背負って立つ選手だ」と評価していた。ただ、チーム事情から「サイドでしっかり守ってから攻撃するという役割」を与えざるを得なかった。それについても「自己を犠牲にしてやってくれた」と評価しているが、中央で使えなかったことについては「私の責任」と話している。プロデビューの段階で、南野という選手を非常に的確に表現していたと思う。

 運動量が豊富でアジリティに優れ、大きくはないがコンタクトにも強い。そして献身的で貪欲。だからサイドでもプレーできる。ただし、サイドの1対1で仕掛けて突破するドリブラーではなく、クロッサーでもない。本領はゴール前なのだ。

 とはいえ、CFとしてトップを張るタイプでもない。どこでもこなせるようでいて、実はトップ下しか居場所のない選手である。しかもゲームを作るトップ下ではなく、自分で得点するか、味方に得点させるか。得点に直結するプレーに集約されている。

 リバプール時代は厚い選手層に阻まれてプレミアリーグでの出場機会は限定されていたものの、2021−22シーズンのFAカップとカラバオカップ(リーグカップ)二冠の立役者になっている。カラバオカップは5試合で4得点、FA杯4試合3得点。いずれもチーム内得点王でトップクラスの決定率だった。

【中央のゴールに近い場所で輝く】

 南野は、次の2022−23シーズンにモナコへ移籍。最初のシーズンはリーグ18戦でわずか1ゴールと振るわず、「最悪の補強」と酷評される。ところが2シーズン目は30試合9ゴール。リーグのベストイレブンに選出される大活躍を見せる。本人のコンディションの問題もあったかもしれないが、基本的に使い方を間違ってはいけない選手なのだと思う。

 レヴィー・クルピが看破していたように、南野は「中央のゴールに近い場所」で最も輝く。精力的に攻守に貢献するサイドアタッカーと誤認してはいけないのだ。

 モナコではサイドハーフとしても起用されているが、攻撃では常に中央に移動する。これはザルツブルク時代と同じだ。その時の監督だったアディ・ヒュッターが現在のモナコの指揮官なので、南野の使い方は心得ている。

 バルセロナ戦は、4−2−3−1システムのトップ下だった。

 トップ下といってもゲームを作るタイプではない。1トップのブレール・エンボロと並ぶように最前線に出ている。崩しは右のアクリウシェと左のエリース・ベン・セギルに任せ、得点に直結するプレーができる場所にいた。

 いくつかの決定的なパスを出し、自らもシュートを放っていたが、この試合での得点、アシストはない。ただ、クロスボールが入って来る状況では必ずエンボロとともにゴール前にいる。

 バルセロナの高いディフェンスラインの間で、半身になってボールを要求し続けてもいた。モナコは10人のバルセロナに対してそれなりに攻め込んでいたが、そのわりには南野がボールに触った回数は多くない。これをどう評価するかだろう。

【ゴールが欲しければトップ下は南野】

 日本代表のトップ下、あるいはシャドーのポジション争いは非常にハイレベルなものになっている。久保建英、鎌田大地、南野の3人に対してポジションは2つ、あるいは1つなので、誰かはベンチに座ることになる。しかもプレースタイルが三者三様なので、単純な比較ができない。監督にとっては嬉しさ半分、悩みが半分というところかもしれない。

 久保はレアル・ソシエダでは右ウイングとして地位を築いていて、サイドからのドリブルで仕掛けられる。テクニックは随一。シュート力あるが、ゴール前というより、その手前からのドリブルシュートが武器だ。

 鎌田は戦術眼に優れ、より広範囲に動く。久保のようなウイングプレーはないがポケットへ入り込むプレーは十八番。久保がチャンスメーカー、鎌田はプレーメーカーというイメージだろうか。そして南野はゴール前特化型、決定力で勝負のセカンドトップだ。

 チャンスを作りたいなら久保、ゲームを支配したければ鎌田。南野のプレー関与率はふたりよりかなり低い。ただ、ゴールが欲しければ南野である。

 1978年W杯でアルゼンチン優勝の立役者となったマリオ・ケンペスに近いかもしれない。ケンペスも左ウイング、MF、CFでプレーした。しかし、実は何でもできるタイプではなかった。当時、あるジャーナリストはケンペスを評してこう書いていた。

「毎試合、ヒザで叩いて得点する奇妙な選手がいるとしよう。ただ私が監督なら、メンバーリストに最初に名前を記すのは彼になる」

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