ロジクールが9月24日にトラックボールの新製品として「MX Ergo S」と「Ergo M575SP」の2機種を発売した。トラックボールを14年ほど使っている筆者としても、製品発表時から非常に気になっていたものだ。メーカーから評価機を入手したので、本記事で詳しくチェックしていこう。
●手首に優しいトラックボール
トラックボールは本体中央に設置されたボール部分を人差し指で操作するモデル(人差し指型)と、MX Ergo SやErgo M575SPのように親指で操作するモデル(親指型)に二分されている。
普通のマウスとの大きな違いは、カーソル移動する際に手首を動かすのではなく、ボール部分を指先で動かすところだ。通常のマウスを長時間利用する際の腱鞘(けんしょう)炎リスクが少なくなるというメリットがある。
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実際、筆者も普段使いのマウスに旧モデルの「MX Ergo」を利用しているが、手首を動かさずにマウス操作ができる“ラクさ”を実感してしまうと、普通のマウスに戻れないと思ってしまうくらいだ。
●ホールドポジションを変えず操作できる親指型トラックボール
MX Ergo SやErgo M575SPのような親指型トラックボールは、親指でボール部分を操作するため、通常のマウスに近いホールドポジションで操作できる。よってトラックボール初心者から、筆者のようにできる限りラクしてPCを操作したい人まで、幅広いユーザー層に支持を受けている。
ただ、人差し指で操作するモデルと比べてボール部分のサイズは小さく、1回転ごとのカーソル移動量が相対的に少ない。より正確な操作を求められる場合は、OS側のカーソル移動感度の調整や、慣れが必要になるというデメリットも抱えている。
●7年越しの更新! 良いところは継続し改善も行われた「Ergo MX S」
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トラックボールについて語り始めると無限に話が続いてしまうため、そろそろ今回の新製品を深掘りしていこう。
まずはハイエンドモデルのMX Ergo S(1万9580円)から見てみよう。MX Ergo Sは実に7年越しの新製品となる。
ロジクールのマウス「Master」シリーズなどがアップデートされる度に、筆者は「今回もMX Ergoのアップデートはなかったか」と枕を濡らしていたが、7年目にしてようやく湿っぽい枕から抜け出せる事を大変うれしく思う。
今回はMX Ergoのアップデート版という立ち位置にあることから、ボディーのデザインに変更はない。往年のユーザーにとっては使用感を変えずにMX ErgoからMX Ergo Sに安心してアップデートできる事は喜ばしい。
また、前モデルはPCとの接続にUnifyingレシーバーとBluetoothに対応していたが、MX Ergo SではLogi BoltレシーバーとBluetoothへの対応へと変わっている。
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ロジクールの独自技術となるLogi Boltは、Unifyingと比較してセキュリティの向上と、混線を回避しつつ遅延を低減させられるという機能的メリットを享受できる
最近発売されたロジクールのキーボード「MX Keys Mini」が、Logi Boltにのみ対応していたため、MX Ergoを利用している筆者の環境では、旧規格のUnifyingレシーバーと新規格のLogi BoltレシーバーそれぞれをPCにつなぐ必要があった。今回の新製品でLogi Boltレシーバーに1本化できることになるので非常にありがたい。
●これを待っていた! USB Type-C対応で最高の親指型トラックボールに
筆者が愛用しているMX Ergoは2017年に発売されたモデルのため、充電は当初主流だったmicroUSBが採用されている。しかし今では、iPhoneですらUSB Type-Cに切り替わっており、そろそろmicroUSBケーブルを一掃してUSB Type-Cに一本化したいところだった。
今回のMX Ergo Sでついに待望のUSB Type-C対応となり、ようやくmicroUSBケーブルを処分できるようになった。このアップデートは非常に大きなもので、USB Type-Cに対応しただけで買い換える理由に十分なり得る。バッテリー駆動時間の公称値は、1回のフル充電で最大120日使用可能となっている。
●静音化はオフィス利用にはありがたいが、その分犠牲になるものも
スペック上のアップデート内容はおおむね喜ばしいものであった。しかし、前モデルと比べて気になるポイントがある。それが、ボタン(スイッチ)の静音化だ。
前モデルのMX Ergoは特にスイッチの静音化処理は施されていなかった。クリックすると軽快な「カチッ」という音が鳴り、明確なスイッチのフィードバック(スイッチを押した感覚)を得られる。
今回のMX Ergo Sではスイッチが静音化されており、クリック音が非常に小さくなっている。自宅での利用や、ノイズキャンセルが優秀なZoomなどのオンライン会議ツールでは特に気になるものではないが、静かなオフィスで利用する場合はクリック音が気になることもある。
今回のMX Ergo Sの静音化も最近のトレンドに乗っかっているもので特に違和感はないのだが、この静音化で1点だけ問題が発生する。それは、フィードバックの感覚だ。
静音化の都合上仕方がないとはいえ、前モデルのMX Ergoと比べると静音スイッチ特有の粘り気のような物を感じる。
筆者はどちらかというと、マウスの静音化は求めておらず、明確なフィードバックを得たいタイプなので、MX Ergo Sのスイッチには少し残念だと感じている。ささいな違いではあるが、MX Ergo Sの静音化は賛否が分かれそうだ。
とはいえ、それ以外については大変満足のいくアップデートがなされているため、購入を検討しているなら、ぜひ家電量販店などで実機を試してみて欲しい。
●大人気のM575を静音化、Logi Boltに対応した「Ergo M575SP」
MX Ergo Sと同じタイミングで発売される「Ergo M575SP」(8470円)は、1万円以内で購入できる大人気トラックボール「M575」のアップデート版だ。
M575SPは、MX Ergo Sと同じく、スイッチの静音化とLogi Boltへの対応を果たし、順当なアップデートが行われた製品だ。こちらも本体については前モデルのM575と同じものを引き継いでいるため、操作感に大きな変化がないことは往年のユーザーに安心感を与えるだろう。
さらにM575はオフホワイトとグラファイトの2カラー展開だったが、M575SPでは新たにブラックを追加した3カラー展開となる。
新色のブラックでは、ボールのカラーをブルーかMX Ergoのボールと近しいシルバーを選択できるようになっており、トラックボールとしては珍しくカラーラインアップが豊富だ。
●単三形乾電池で稼働するため、バッテリー損耗を考えなくて良い
Ergo M575SPは、前モデルのM575と同じく、単三形乾電池1本で駆動するため、バッテリーの損耗を考えなくて済む。より長い期間、利用できる点はありがたい。
また、充電をしなくても電池を交換するだけで済むため、卓上に充電用のUSBケーブルをはわさなくて良く机がスッキリするのも大きなメリットと言えよう。
ただ、電池寿命は前モデルのM575がUnifyingレシーバーの利用で最長24カ月、Bluetoothの利用で最長20カ月だったのに対し、Ergo M575SPは18カ月と短くなっている。とはいえ、単三形乾電池1本で最長18カ月も使えるのであれば、そこまで不便に感じることはないだろう。
Ergo M575SPは、MX Ergo Sと比べて本体のチルト機能が無いため、マウスをつかんだ際に手首を少し左にひねる必要がある。もちろんトラックボールなので、一度つかんでしまえばマウス本体を動かす必要はなく、疲れにくいことには変わりない。
しかし、人によっては本体の傾斜がない状態だと手首に負担が掛かり、持ちづらいという人がいるかもしれない。MX Ergo M575SPの実機を家電量販店で試してイマイチだと感じるなら、改めてMX Ergo Sも検討するといい。
●静音化スイッチはMX Ergo Sと比べると押した感覚は強い
Ergo M575SPもMX Ergo Sと同じく、スイッチの静音化が施されている。普通のマウスと比べると、クリック感に少し粘り気のような物を感じる。しかし、MX Ergo SとErgo M575SPを比べてみると、Ergo M575SPはこの粘着感が少し弱いと感じる。
もちろん、クリック音は非常に小さいので、隣に座っている人に聞こえないようにはなっているが、クリックした際のフィードバック感について、Ergo M575SPは比較的しっかりしており、筆者としてはMX Ergo SよりErgo M575SPのスイッチが好みだ、という意外な結果となった。
●静音化は賛否が分かれそうだが、どちらも満足度の高いトラックボールに
トラックボールユーザーにとって待望だったアップグレード版のMX Ergo Sのみならず、お手頃な1万円以下な上に使いやすいErgo M575SPの登場は非常に心が躍るものとなった。
どちらも素晴らしいアップデートではあったが、その一方でスイッチ静音化に伴うフィードバック感、押し心地の変化については人によって好みが分かれそうだ。
個人的にはMX Ergo S、Ergo M575SPの購入を予定されている方は、家電量販店などで実機を試してみることをオススメしたい。筆者もどちらを購入するか真剣に検討中だ。
(製品協力:ロジクール)
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