【ラグビー】ラグビー界の地域格差とは?東京ベイ岸岡智樹&ファンが考える場に行ってみた/潜入

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2024年09月24日 18:21  日刊スポーツ

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ワークショップでマイクを握る東京ベイSO岸岡智樹(撮影・松本航)

ラグビー「リーグワン」1部クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(東京ベイ)のSO岸岡智樹が、自身が27歳となった22日に都内でワークショップを開いた。


タイトルは「“地域格差の是正”への道を描く共創ワークショップ」。大阪・東海大仰星高(現東海大大阪仰星)、早稲田大、東京ベイと日本一をつかむチームに在籍する司令塔がファンとともに煩雑なテーマを深掘りする場に、ラグビー担当記者が“潜入”した。【取材=松本航】


   ◇   ◇   ◇  


日本代表戦から一夜明けた、日曜日の昼下がり。


JR高田馬場駅を降り、休日を楽しむ人々とすれ違った。3分ほど歩くと、建物の2階にあるバーの入り口に向かって列ができていた。


ほどなくして入店。ここはラグビーバー「ノーサイドクラブ」。ラグビーを愛する人たちの憩いの場は、さまざまなチームのジャージーや、国旗、人形などグッズで彩られている。出迎えてくれたのは、半袖半ズボンの岸岡だった。


老若男女のファン10数人に交じり、取材現場でよく顔を合わせるタレントの浅野杏奈(23)も座っていた。今回のイベントは定員20人。1組3〜4人が5つのグループになった。


マイクを握った岸岡も、この日ばかりは現役リーグワン選手の雰囲気がなかった。スーツを着ていればセミナーの講師、スポーツウエアであれば学校の教員に見えただろう。


手元にはパソコンがあった。その画面を、バーのモニターに映していた。


「今日のルール 仲間の意見を尊重する」


たった1つの約束事を確認すると、日本地図を見せ始めた。


色が5段階に分けられている。


「何を表すものか分かりますか?」


老若男女のファンと、そこに交じったラグビーを愛するタレント。次々に答えが出る。


「ラグビー部がある高校の数!」


「惜しい!」


「全国のラグビースクールの…」


「(答えから)離れた!」


日本地図は直近5年の全国高校大会(花園)都道府県別勝利数を表していた。それをポイント化し、色をつけると、神奈川や大阪、福岡といった場所が濃い。岸岡が切り出した。


「僕が最初にラグビーの地域格差を感じたのが、高校ラグビーでした。そこから全国をラグビー教室で回り始めました。今年の(ラグビー教室の)インターンの大学生が地理学を専攻しているということで、まとめてくれました」


2021年。岸岡は“地域格差の是正”を掲げて、オフシーズンに「移動型ラグビー教室」を始めた。子どもたちは日本最高峰リーグで活躍する現役選手の指導を受けられる。


一方、自身は地域ごとの課題を知り、プレーするだけでは得られない人脈を構築していった。


ほどなくして“地域格差”という4文字の煩雑さを知ったようだ。


取り組みはこの春から夏にかけて4年目が終わり、今回のワークショップを初開催するに至った。本人は「僕がやってみたかったんです」と笑った。


胸に名前シールを貼った参加者と岸岡によるワークショップが、いよいよ始まった。


時間は2時間。4つのテーマに対し、グループで10分ほど考える時間がある。


その内容を紙に記入し、各班の代表者が発表する。


面白いのが、前半の2テーマ終了後に設けられた席替えタイム。席替えは人が動くだけで、手元の紙はテーブルの上に残すという。


岸岡は「前半、そこのテーブルの人が考えていた課題を、後半は新しいメンバーで解決します。ラグビー教室も異なる課題を持つ地域に足を運び、外部の人間である僕たちが、現地の人たちと一緒に解決していきます。その疑似体験をしてもらいます」と説明した。


   ◇   ◇   ◇  


◆テーマ1 あなたが感じるラグビー界の地域格差とは? 


◆テーマ2 その問題は、なぜ起こっているのか?


◆テーマ3 問題を解決する方法は? 


◆テーマ4 自分ができるアクションを考えよう! 


テーマ1から多様な意見が出た。


   ◇   ◇   ◇  


◆ラグビーをする環境の違い(グラウンドがある、ない)


◆ラグビー部(スクール)の違い(ある、ない)


◆ラグビー自体を見るチャンスの違い


◆指導者の数の違い


◆高校を卒業すると大学で関東に人が集まる


◆高校までラグビーの試合を見たことがなく、やる選択肢に入らない(経験談)


◆そもそも地域格差はあっていいのではないか。そうでなければ面白くない


◆ラグビー熱の度合いの違い


◆チームスポーツのため人数を集めにくい


◆地元にラグビー選手のスターがいるか


◆将来性のあるスポーツに目がいく(例えば大谷翔平)


◆リーグワンのホスト地域の偏り(それがユースチームにかかってくる)


◆進路が地元では限られ、都会に集中する


◆ファンの人口(ラグビーが身近にあるか)


   ◇   ◇   ◇  


テーマ1を終えて、岸岡がマイクを握った。


「『ラグビー熱』という意見は、僕もハッとしました」


そうして続けた。


「暗い話になりがちですが、これを、どう明るい方向に持っていきますか?」


テーマ2「その問題は、なぜ起こっているのか?」に入る。


テーマ1で出た課題を、各班が1〜2つに絞って考え始めた。


ほどなくして、岸岡があるグループに呼ばれた。


「なぜ関東(早稲田大)に来たの?」


「トップリーグ(現リーグワン)に行くということを考えた時に、関東の大学の方が近く感じました。学力なども踏まえて、高校生の時は『関東に行きたい』というより『早稲田に行きたい』。早稲田に行けなかった時に関西を選んでいたかといえば、関東だったと思うので、トップリーグのことも頭にあっての選択だったと思います」


テーマ2では問題が多岐にわたることが分かった。


   ◇   ◇   ◇  


◆ラグビーを見る、する機会が少ない


→開催場所に限りがあり、野球やサッカーに比べて生観戦の機会が少ない


→ハードな競技で毎日試合ができない


→地上波での中継が少ない


→多摩川で野球はできるが、ラグビーはそうではない。素人がすぐに始められない


◆大学が関東に集中する


→定期戦の歴史から大学ラグビーの人気が高まった。最近は関西も強いチームが出てきたが、どうしても強いチームに高校生が憧れる


→関東の大学がリーグワンへの近道になる


◆ラグビー熱


→関わる大人の問題。花園は注目されて、私学の学校経営ともリンクする。地域全体ではなく、そこだけの熱になる


◆人が集まりにくい


→子どもが減っている。部活動では1種目。いろいろな競技で奪い合っている


→スクールでやっていても、その先が見えてこず、他の種目に行ってしまう。学校でもう少し取り上げることができれば。大人がもう少し気軽に楽しめれば、子どもに声をかけ、成功体験を持たせてあげられる


◆ファン人口の格差


→地上波で放送してくれる機会が少ない。メディアの取り上げる量が少ない


→極論は日本代表が勝てばいい。2019年W杯のように全国に注目してもらえる


   ◇   ◇   ◇  


ざっくばらんな問題提議の後、席替えを経て、解決法や個人でできる取り組みを考えていった。


なぜ、このようなワークショップをしたかったのか−? 


記者の素朴な質問に、岸岡は即答だった。


「僕自身も全国でラグビー教室をやってきて、ヒントが欲しかったところがあります。同じ『ラグビー』を見ていても、それぞれの立場で感じていることが違う。もしかしたら今日で得られた人脈が、次の機会に生きるかもしれません」


ラグビーを報じる1人としても、今まで持ち合わせていなかった発想に出合う時間だった。


まずは考えることから逃げず、取材を続けていきたい。


◆岸岡智樹(きしおか・ともき)1997年(平9)9月22日、大阪府生まれ。小5でラグビーを始め、東海大仰星高(現東海大大阪仰星)、早稲田大を経て、20年にクボタ(現東京ベイ)入り。U20(20歳以下)日本代表歴あり。頭脳プレーが得意。178センチ、85キロ。

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