サッカー日本代表のレベルアップに直結する欧州サッカー日本人選手の活躍 福田正博の注目は?

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2024年09月25日 07:20  webスポルティーバ

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福田正博 フットボール原論

■ヨーロッパ各国リーグでの日本人選手の活躍が、毎週楽しみな状況。サッカー日本代表レベルアップへの好影響も期待されるなか、福田正博氏に今季注目の選手を挙げてもらった。

【鈴木彩艶のセリエA参戦はとてつもなく大きい意義】

 ヨーロッパ各国リーグが幕を開けて日本選手たちの動向が伝えられているが、今シーズン最も注目しているのが鈴木彩艶だ。今季シント・トロイデンからセリエAのパルマにステップアップしたが、この移籍の意義は日本サッカー界にとっては、とてつもなく大きい。

 これまで何人もの日本人GKが海外挑戦をしてきたが、欧州のトップリーグでゴールマウスを任された選手はいなかった。それがついに現れたのだ。これまで言われてきた身体のサイズ、フィジカル能力などの重い扉を、鈴木彩艶が開いた。

 鈴木は開幕からスタメンに名を連ねて1勝1分で迎えた第3節のナポリ戦で、2枚のイエローカードを受けて退場処分となった。1枚目の遅延行為は置いておくとして、2枚目のイエローを出されたボックス外に飛び出して相手FWと交錯したプレーは、セリエAだからこそ経験できる貴重なものだと思う。

 パルマはDFラインを高く押し上げるスタイルのため、鈴木はDFラインの後ろにある広大なスペースを守らなければならない。そこへ出たボールに対し、ボックス外に出てクリアするのか、それとも待ち構えるのかを瞬時に見極めなければならない。ナポリ戦ではその判断とプレー精度がイエローカードになり、チームにとっては痛手となったが、鈴木のキャリアにとってはプラスだったと思う。

 なぜならGKがこうしたプレー判断を求められる状況は、実はそれほど多くあるわけではないからだ。例えば、どんなリーグでも下位チームの多くは、相手に押し込まれる展開が多く、DFラインを下げて守るケースがほとんど。そのためDFラインの後ろの広大なスペースをGKが埋める状況は生まれない。その点、パルマは今季セリエA昇格組にもかかわらず、アグレッシブなサッカーを志向しているためDFラインが高く、鈴木は貴重な経験を積めているというわけだ。

 これは日本代表でのプレーを考えると大きな財産になると言っていいだろう。冨安健洋や板倉滉がDFラインを統率する時は、ハイラインになることが多い。海外トップクラブでプレーする選手たちにとってはスタンダードな高さなのだろうが、これに対応できる能力や経験値を持つ日本代表GKがこれまでいなかった。

 そうしたなかで鈴木がこの対応力を高めてくれれば、日本代表の守備はさらに飛躍していくことになる。それができるポテンシャルを鈴木は備えているだけに期待している。

 鈴木が欧州トップリーグで経験を積み重ねていくためには、試合に出続けることが何よりも大切になる。代表活動明けのリーグ戦は出場停止だったが、第5節レッチェ戦では再び出番が巡ってきた。こうしたチャンスを逃さず、安定したセービングと判断でゴールを守りきり、ポジションを不動のものにしてもらいたい。

 さらに言えば、鈴木彩艶がGKとしてヨーロッパのトップリーグで認められることで、今季からシント・トロイデンに加入した小久保玲央ブライアンをはじめとする日本人GKへの注目度が高まることを期待している。日本代表のレベルがさらに一段も二段も高まるためには、トップレベルでプレーする日本人GKが増えることが不可欠だ。先陣を切った鈴木彩艶に続き、ほかの日本人GKも存在感を示してくれるよう願っている。

【難しい状況の遠藤航】

 一方、フィールドプレイヤーに目を向けると、心配なのが遠藤航だ。リバプールは今季から新監督にアルネ・スロットを迎えたが、プレーする機会がほぼ与えられていないのだ。

 前任のユルゲン・クロップ体制でもシーズン当初は出場機会がなかったが、それは開幕直前の移籍でチームにフィットする時間がなかったからだ。そこから3カ月ほど要したが、チームにフィットしてからはアンカーのポジションを不動のものにし、遠藤への評価も右肩上がりになった。

 しかし、クロップ前監督とスタイルの異なるサッカーを志向するスロット監督のもとでは、序列が低下。プレミアリーグでは8月25日のブレントンフォード戦の90+1分に交代出場したのみだ。日程がタイトなうえ、リーグ戦で今季初黒星を喫した直後にあったUEFAチャンピオンズリーグの初戦ミラン戦でも、90+3分からの途中出場に終わった。しかも、そこから中3日で臨んだプレミアリーグのボーンマス戦ではまさかのベンチ外を味わっている。

 スロット監督就任によって、遠藤の状況が厳しくなることは開幕前から予想されていたが、まさかこれほどまでとは思いもよらなかった。遠藤自身も置かれている立場は理解していただろうし、それを跳ね返す自信があったからこその残留だったはずだ。しかし、ここまでプレー機会が満足に得られないのでは、存在感を示すこともできない。きっと誰よりも大きなジレンマを、遠藤自身が抱えていることだろう。

 遠藤の出場機会が限られると、日本代表に影響がないとは言いきれない。経験豊富なだけに「ない」と思いたいが、試合勘や体力面で苦しむ可能性はある。遠藤は来年2月で32歳になるが、トップレベルでプレーできる時間は決して多いわけではない。このままリバプールで出場機会が得られないようならば、冬の移籍期間に新天地を求める決断も大切だ。遠藤が試合に出るにはリバプールを去るか、その前にスロット監督が考えを改めるしかないと思ってしまうほどの状況にある。

【プレミアリーグで新たな挑戦を始めたふたり】

 苦しんでいるのは遠藤だけではない。久保建英もレアル・ソシエダでスタメンから外れるなど、昨季のような絶対的な存在感をまだ示せていない。ただ、9月21日のバジャドリード戦では4−3−1−2のトップ下でスタメンで出場すると、好機を演出して久保らしさを見せた。9月から11月までは代表活動もあるため、クラブだけに集中するのは難しいものの、昨シーズンの序盤戦で見せたような輝きを放つのを待ち望んでいる。

 プレミアリーグで新たな挑戦を始めた2選手にも注目している。今季はクリスタル・パレスで鎌田大地、サウサンプトンで菅原由勢がプレーしている。

 フランクフルト時代のオリバー・グラスナー監督に請われて新天地に移籍した鎌田は、1トップ下の2シャドーの一角やボランチとして出場を重ねている。まだフランクフルト時代のような輝きは放ってはいないものの、随所に鎌田らしさは見せている。時間が経つことでチームメイトが鎌田の特徴を理解していけば、チームに不可欠な存在感を示してくれるはずだ。

 菅原は開幕戦から右サイドバックのレギュラーとしてスタメン出場を重ねている。3節のブレントンフォード戦では、チームは敗れたものの、プレミアリーグ初ゴールをマークした。攻守の切り替えのスピードが速く、強度も高いこのリーグのレベルに対応しながら、選手としてのスケールを一段も二段も高め、その経験を日本代表に還元してくれるのを期待している。

 ほかにも活躍が楽しみなフィールドプレイヤーはたくさんいる。ただ、海外組にとってしばらくは、W杯アジア最終予選の日本代表活動と二足のわらじを履くことで体力的なキツさがある。それによって精彩を欠くと所属クラブでの居場所を失いかねない難しさがあるが、なんとか乗りきってほしいと思う。

 これから日本代表入りを狙う選手たちは、まずは所属クラブでしっかりポジションを確保し、アピールしてもらいたい。各国リーグのシーズンが進むにつれ、あちこちのクラブからも日本選手の活躍が報じられるようになることを期待している。

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