世界最大級のSaaSカンファ「SaaStr」は、日本のイベントと一味違った DJや賭け事も……現地の熱気は

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2024年09月25日 08:01  ITmedia NEWS

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 全米のSaaSプレイヤーが勢ぞろいするといわれる「SaaStr」というカンファレンスをご存じだろうか。開始は2014年、今年で9回目を迎える同イベントでは、300以上のセッションや150以上のワークショップが行われ、1000人超のベンチャーキャピタリストを含む約1万5000人が来場したという。


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 会場は米国カリフォルニア州サンマテオ。9月10〜12日(現地時間)の開催だった。筆者もずっと気になっており、第9回にしてようやく参加。DJの登場やギャンブルブースの存在など、現地では日本のイベントとは少し違った空気が感じられた。本記事ではその様子をリポートする。


●DJがノリノリで迎えるSaaStr


 サンフランシスコ国際空港に降り立つとカリフォルニアの真っ青な空がどこまでも続く。カラッとしているが、しかしちょっとだけ肌寒い風がかえって心地よい。101号線を車で20分ほど走り、ブルージュゲームとサンマテオのダウンタウンを通過すると、いきなりサンマテオの会場が広がる。


 日本で例えれば有明のスポーツ施設を訪ねた感覚に似ている。事前に登録したQRコードを読み込ませて入場を……と思いきや手荷物とIDのチェック。入り口を入るとDJがノリノリで迎えてくれる。


 飛行機の整備用ドームにも似た建物の中には、50以上のブースが所狭しと並び、300人規模のステージが左右に2つ。ランチや商談用のテーブルと椅子のスペースが、中央にゆったりと確保されていた。


 会場内ではロゴマークを象った着ぐるみが2体、来場者と写真を撮っている。なんとも開放的で、気さくで、そしてSaaS業界ならではの、IT業界の勢いが感じられる、底抜けに明るいイベントだった。


 せっかく出展したからには営業しないと、ブースを全部見て、なんでもいいから情報を持ち帰らないと──といった、日本のコンベンションにありがちな切迫感や義務感とは無縁。むしろ出展者も来場者も、出会いを心から楽しみ、その上で確実にビジネスにつなげる、そんな余裕も感じられた。


会場の構成は


 会場は大きく分けて3つの要素で構成される、1つ目はキーノート。大会場の左右のスペースで、期間中毎日実施する。SaaStrの産みの親で、運営元CEOのジェイソン・レムキン氏が毎日3つ以上のセッションを仕切る。


 中央の会場では「Brainstate」と銘打って、各SaaS企業の経営幹部やトップエンジニアたちが、その戦略や製品サービスを語るセッションを開催する。こちらも3日間ほどんど切れ目なく行われる。2024年のテーマはもちろんSaaSとAIだ。


 3つ目は各社のブース。それぞれが趣向を凝らしたデザインのブースやノベルティーを用意し、その優位性を競い合う。


●出展スタートアップの声 目的や日本への関心は


 現地では各社のブースで話を聞いたが、やはりそれぞれ活気があった。中には今後、日本に関心を寄せる企業も見られた。


 例えば、労務管理SaaSを手掛ける米国ユニコーンのdeel。全世界の税制や法制に対応し、給与振込や年末調整を地域に合わせて自動化するサービスを提供している。


 SaaStr出展は2回目といい、セールスマネジャーのジャック・シーモア氏は「当社のソリューションにすぐに利点を感じてくれる顧客が必ず見つかることが出展の理由。顧客からのフィードバックもたくさん受けることができる。もちろん当社のブランドを認知してもらうことも大切な目的の一つ。すでに日本市場を始め欧州、アジア、アフリカでもサービスと開始している」と出展の経緯や日本市場への意気込みを語った。


 株式管理を手掛ける米cartaで、アカウントエグゼクティブを務めるシャノン・アーレー氏は「既存顧客はもちろん、潜在顧客からも多くの学びを受けている。当社の強みは、CAPテーブル(資金政策)やファンドレイズ(出資依頼)にかかる時間とコストの効率化。日本市場はこれから」と、出展の感想を話した。


 人材バンクを手掛けるremoteのカイル・リチャート氏(セールス担当)と、シエラ・ヴァン・ローゼン氏(グローバル採用)は、SaaStr出展の狙いや日本市場への期待を語った。


 「当社は完全はリモート企業で、すでに1800人の従業員がいる。新規顧客の獲得が大きな目的ではあるが、同時に、顧客に対して当社のサービスを深く説明できる機会だと捉えている。シリコンバレーやニューヨークだけが優秀な人材の宝庫ではない。フィリピンやタイにだって、例えば素晴らしいエンジニアはたくさんいる。日本市場での活動は始まったばかりで期待しているし、次回のSaaStrにも必ず出展する」(リチャート氏とローゼン氏)


 法人向けIT製品のレビュープラットフォームを運営する米G2創業者のゴダード・アベル氏ともブースで話ができた。


 アベル氏は「2016年から出展している。毎年新たなSaaS企業や、SaaS業界のリーダーと知り合えることは私たちの財産。そして毎年業界の先進的な知性を学び、それをシェアできる。当然、今年(の話題)はAI。SaaS業界やアプリケーションはよりグローバル化すると思う。パンデミックやリモートワークが期せずしてそれを証明した。今後も非常にエキサイティングな市場となると思う」と、SaaS市場への期待を語った。


 午後4時を過ぎると、来場者の飲み物はビールに代わり、簡単なおつまみやフルーツ、カナッペも無料で配布される、驚いたのは、トドメはブラックジャックとダイスのコーナーがオープンしたことだ。ここでの賭け金は、SaaStr内だけで通用するコイン。大人の遊びも楽しめるイベントだった。


 日進月歩どころか、分進秒歩のIT業界にあって、SaaS業界は一層激しく生き馬の目のぬく競争市場だ。その中にあって、いやその中にいるからこそ、互いに良いところをシェアし、ともに成長しようとする姿勢が各社に渦巻いていた。しばらくの間、この勢いは止まらないだろう。


 主催者発表によれば、2024年の来場者は23年よりも数千名多かったという。現在の米国SaaS市場規模は30兆円、企業数は2万社以上という事実を踏まえると、まだまだ成長の伸びしろは大きい。


 そしてこのトレンドは確実にヨーロッパやアジアに広がりつつある。翻って日本のSaaS市場は1兆円を超えるという試算もある。市場規模の違いは当然あるが、SaaStrの盛り上がりを見て、日本市場が米国市場にそん色ない成長を見せる日への期待が改めて高まった。



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