大企業が新規事業を始める時に「陥りがちな罠」 失敗パターンから学ぶ、成功に導くためのポイント

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2024年09月25日 17:40  ログミー

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新規事業はいつ始めるのが良い?

渡瀬ひろみ氏(以下、渡瀬):それから、「新規事業をいつやるの?」という問題があるんですが、兆しみたいなものが緩やかに表れている時期に新規事業を提案すると、「本当にそういう時代になるのか?」「本当にこれは来るのか?」と言われて潰される。

競合の何社かが参入してきた時にこの新規事業を提案すると、「もう他社がやっているじゃないか。今からやってうまくいくのか?」と言って潰される。

結局、Aの時期(兆しが表れている時期)もBの時期(競合が参入している時期)も潰される。でも、どっちが正解かといったら、やはりAの時期に新規事業をスタートすることなんです。

大事なのは、Aの時期に海の物とも山の物ともわからないものに何億円も投下しちゃダメなんです。掘っ立て小屋から始めて、様子がわかったらプレハブにして、3階建てにして、「よし!」と言って、時代が追いついてきた時にビルを建てる。こういうやり方をするんですよ。

大手企業は、ちゃんとやろうとしていきなりビルを建てるから失敗する。大事なのは、掘っ立て小屋をたくさん建てられる会社になるということを、みなさんにはぜひお願いしたい。

小さな失敗を繰り返せる会社になることが大切

渡瀬:もう1つ大事なことを言いますね。新しいことにチャレンジしようとする時、今の既存の領域から外に出なきゃいけないんですね。Aという飛び地に出ようとする時に、役員が「大丈夫なのか? ほんまに成功するんか?」と言って、1年、2年かけて議論するんですよ。

そんなことをしているうちに、時間が経って陳腐化することもあるし、もちろん競合が出てきてしまうということもあるし、なんなら検討している間に石橋を叩き割っちゃっているようなことが起こるんです。

大事なのは、Aが確かに成功するかどうかではなくて、Aに足をぽんとジャンプして着地することで、実は本当に成功するBが発見されることなんです。Aがあるから、本当に大きくなるBを発見することができて、Bを大きくすることができるのに、Aを「大丈夫なのか? 大丈夫なのか?」とか言っているから、何にもできないんですよ。

この構造をみなさんはよくわかった上で、「掘っ建て小屋のAをやらせてください」と言うんです。ぜひそういうふうにして、みなさんがボトムアップをして、そしてこの中に役員の方がいらっしゃるならば、「よし、小さなチャレンジからスタートしよう」というふうに思っていただければと思います。

不確実であるということ、そして小さな挑戦と小さな失敗がノウハウを作っていくということを、ぜひ受容してほしい。確実に100パーセントなんてやろうとしたら、成功が遠のくばかりじゃなくて、社員の人たちの打席数が減ってしまうから人も育たないんですよ。もちろん、事業も育ちません。小さな失敗を繰り返せる会社になってほしい。

大企業で新規事業がうまくいかない11の要因

渡瀬:ここからちょっと早足でいきますね。新規事業がうまくいかない要因を11ぐらいにまとめてみたんですが、みなさんどうですか? 当てはまりませんかね? これが全部当てはまる会社はわりと多かったりするんですが、ちょっとこういう見方をしてほしいんです。

シミュレーションばっかりして、マクロデータを書いて、ビジネスモデルを書いて、事業計画書を書く。こんなのでは事業は絶対に成功しないんですよ。

ユーザーの解像度を上げていって、そして何を価値として設計すれば、水が高いところから低いところへ流れてくるかのようにユーザーは流れてくるのか。そういう価値設計をした上で、掘っ立て小屋で小さく始める。こうしたら、絶対に大失敗にはなりませんから。こういうやり方を推奨することで、「挑戦させてください」と提案していただければと思います。

成功するチームとは、共通言語があったり、心理的な安全がチームの中にあったりします。

さあ、最後です。「じゃあ、明日から何をすればいいの?」ということなんですが、まずはユーザーの解像度を上げるということをちゃんとやってください。ユーザーの解像度さえ上がれば、役員の心だって動かすことができます。

ぜひ掘っ立て小屋から始めてください。そして、「9割方、自分たちはまだ見えていない」という謙虚さを持って事業をスタートしてください。定量調査やマクロデータではダメなんですよ。

インタビューによって心の奥底にある本音に触れるから、事業が成功する芯が見つかるんです。価値設計が先、マネタイズは後。先にマネタイズをしようとするから大コケするんです。

ローンチをゴールと勘違いしない。ローンチはスタートである。そして、スタートしたらローンチ後もユーザーと対話し続けて、プロダクトを進化させ続ける。チームの中に共通言語と芯を作る。そして、「僕たちは否定しない。前進する。そして代替案を常に見つけ続ける」というルールをチームに作る。

新規事業は痛い思いをしながら上手になっていく

渡瀬:それから、「何をやったか」という報告概念は要らないんです。「何がわかったの?」ということを問い続けてください。そして、ちゃんとみんなのルールを書く。ググっていても絶対に事業になりませんから、「行ってみよう」「会ってみよう」「見てみよう」と、現場に行ってください。

そして、大手企業で経営企画室の隣とかで新規事業開発をやっているとしたら、麻生さんは「出島」とおっしゃっていましたが、ぜひ出島になってください。Tシャツとジーパンで働けるような環境で、いろんな人が「こんにちは!」「こんにちは!」って返事をするような環境を作ってください。仲間を作って、支援者を作ってください。

ビジネスモデルの話じゃなくて、カルチャーや「何をやりたいのか」という世界を話してください。そして、ユーザーの心に答えがあるということを信じてやってください。出島を作ってください。

それから、役員の方々はぜひ勉強会やセミナーを実施して人材を発掘してください。そして役員合宿もやってください。新規事業コンテストは、なかなか成功させるのは難しいんですが、ここにいっぱい支援者がいますから、新規事業コンテストなんかもやってみてください。

コンテストを通じて、「挑戦を称える」ということを広めていってください。そして、どんどん失敗させる。椿さんがおっしゃっていましたが、「失敗した人にもう一度チャンスを」ですね。そういうことをやっていってください。そして、社長陣も担ぎ出してください。

これが最後のページなんですが、転ばずに歩けるようになる赤ちゃんがいないのと同様に、新規事業は痛い思いをしながら上手になっていきます。そういう目で新規事業にチャレンジする人を応援してください。

そして、経営者のみなさん。まさにこういう組織風土の醸成が、強い会社を作っていく大前提になります。ちょっと長くなりましたが、私からの話は以上です。

(会場拍手)

椿奈緒子氏(以下、椿):全部、言語化されていてすごいですね。みなさんも「いや。私、これをめっちゃやっています」みたいな感じで思ったんじゃないですか? 「やってるやってる」って。

渡瀬:やってる? やっていたらいいな。

“火が付かない人”に向けてどうアプローチするか

渡瀬:じゃあさっそくですが、本当にプロ中のプロの3人の方がいらっしゃっているので、3人のみなさんのお話を深掘りしていきたいと思います。

今日のテーマは「イノベーティブな組織の機運づくり」なんですが、たぶんみなさんもいろんなことに困っていらっしゃると思うんです。「会社をイノベーティブにする」ということに、みなさんがどういうふうにアプローチをしていただけるかをお話しいただければと思います。麻生さんから、お願いします。

麻生要一氏(以下、麻生):機運づくりにおいて大切だと思ってやっていることですか? いっぱいあるんですが、最近うちがやっている取り組みをご紹介すると、コミュニティスタジオというスタジオを立ち上げています。

これは何かというと、例えば新規事業コンテストがあった時に手を挙げない人がいます。「応募しよう」といって応募してくれる人とか、(他の登壇者を指しながら)こういう人を連れてきて火を付けるんです。

それで火が付く人もいるんですが、それでは火が付かない人もいるんですね。そういう火が付かない人向けにコミュニティを作っています。そこでは、ものすごく丁寧な設計でコンテンツとメンタリングをやっています。

細かい点を全部は申し上げられないですが、例えばどういうメンタリングをするかというと、起案者や新規事業のリーダーの家族を呼んでメンタリングをしたりするんです。

新規事業をやる人って、本業とは違うところにものすごく時間とパワーと思いを使っているから、家族に迷惑をかけたりとか、「ワークライフバランスをどうしたらいいんだ?」みたいなことが一大テーマで、そういうのがネックでエントリーしなかったりします。

あとはキャリアをテーマにしたり、趣味をテーマにしたりして、ちっちゃい悩みを解決したり、対話によって解決していく。それもオンラインでコミュニティを作ったり、ラジオをやったりして、丁寧にやるということを最近はやっています。

新規事業に対するハードルの下げ方

原田未来氏(以下、原田):質問していいですか?

渡瀬:どうぞどうぞ。

原田:火が付かない人を、そういう場所に連れてくるのが難題で。

椿:確かに。難しそう。

原田:どうやって呼び込むんですか?

麻生:そこはコンテンツなんですが、「新規事業をやろう」って言うと来ないんですよ。だけど、「『鬼滅の刃』ってなんで売れたんだと思う?」というのをみんなでしゃべろうよとか、ハードルをめっちゃ下げるんです。

新規事業じゃない感じにハードルを下げて、勉強会なんだか放課後の飲み会なんだかわからない感じで、有志団体的なコンテンツに持っていく。でも相談していると、新規事業に導かれていくというメンタリング設計をしています。

渡瀬:すごくおもしろいですね。その人たちが、徐々に「新規事業脳」になっていくんですね。

麻生:そうです。

渡瀬:言い方はちょっと悪いかもしれないけれども、ある種“麻生教”の信者になっていくんですかね。

麻生:新規事業って宗教ですからね。

渡瀬:(笑)。言っちゃった。

麻生:でも、やっぱり難しいんですよ。サラリーマンが新規事業をやるといっても、やれない理由が100個ぐらいあるので。

渡瀬:ありますね。

麻生:その100個を全部潰したらやってくれる。全部潰しにいくのがうちですね。

渡瀬:ありがとうございます。

「尖った人」の理解者が必要

渡瀬:原田さんはいかがでしょうか?

原田:両面あるなと思っていて。今の麻生さんの話の裾野の部分のフォロワーを増やすということだと、やはり尖った人が育っていくことがあるなと思っていて。

変な話、尖った人って大企業の中にもけっこういるんだと思うんですね。僕らの仕組みでスタートアップに行くと、尖って帰ってくる人が一定います。そういう人たちが「スタートアップかぶれ」みたいにいじられて、つらい思いをしたりするわけなんです。

やはりその時に、理解者が必要だと僕らは思っていて。ただそれって、いきなり企業全体にはならないだろうけど、同じような思いを持っている人が絶対にどこかにいるはずなので。

最初から会社の合意形成をやるよりも、共感してくれる人が3人でも4人でも見つかって、部署を越えてもいいし、立場もナナメの関係も含めて、そういうチームを作っていく。

いろんなところでちっちゃい組織が起こって、だんだん重なり合っていって、波紋と波紋が波になるみたいなプロセスなのかなということで、そういうアプローチをしています。

渡瀬:最初の仲間を作る時に、どうすると良いでしょうか?

原田:僕らの仕組みで言うと、人事なり役員さんなりがいて、共感をして、「そういう人材は必要だよね」ということでやっていただくので、帰ってきたらちゃんと報告会をやったりレポートにしたりします。尖った人もちゃんとスポットライトを浴びて、それによって個人の思いを知ってもらうのがけっこう大事かなと思います。

渡瀬:ありがとうございます。挑戦している人がスターになっていくというのは、すごく大事なことかもしれませんね。椿さんはいかがでしょうか?

椿:私は2つあって。まず1つは、打席にとにかく立ってもらうこと。立ってもらわないと始まらないので、どうすれば打席に立つ数を増やせるのかというのを、役員なり、手を挙げる人なりが促進させること。打席の数を増やすことが大切だと思います。

2つ目は、打席に立った人がたくさん人を巻き込むことを促進することですね。先ほど、渡瀬さんの話にもインタビューとありましたが、スタートアップの話も周りを巻き込まないと「事」って進まないんですよね。

頭の中でいくら考えていても何も進まないので、とにかくインタビューしようとか、とにかく話を聞いて仲間を増やす。それを「やっちゃえ、やっちゃえ」と言いまくっています。

渡瀬:ありがとうございます。

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