抗争の舞台はついに法廷へ!? ヤクザの訴訟事案が相次ぐ背景

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2024年09月25日 18:50  週プレNEWS

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ヤクザが「元親分」を訴えるという異例の法廷闘争が繰り広げられた神戸地裁


親分が元子分たちに自宅の明け渡しを求められるという異例の裁判は、ひとまず親分側の勝利となった。神戸山口組の井上邦雄組長が、神戸市内の自宅の所有権に関して、腹心だった山健組の中田浩司組長から移転の登記を求められていた訴訟で、神戸地裁は9月11日、中田組長の請求を棄却。子分側は一敗地にまみれたかたちだが、抗争事件の厳罰化が進み、暴力を売りとするヤクザたちが二の足を踏む昨今、憎き元親に対しての報復手段として、法廷闘争が今後、トレンドとなりそうだ。

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■訴訟の背景にある「愛憎劇」

山口組の保守本流として隆盛を極めた山健組の四代目の井上組長と、跡目を継いだ五代目の中田組長の間には、深い愛憎劇が展開されている。2015年の山口組分裂で神戸山口組を立ち上げた井上組長は、神戸側のトップに就くとともに四代目山健組組長も兼任。中田組長は山健組の要職を歴任して井上組長を支えた。そして、井上組長の推挙で17年に山健組の若頭、18年に五代目組長へと駆け上がった。実話誌記者が語る。

「山健組の次期組長ポストとなる若頭レースは、中田組長と、分裂抗争で名を挙げた織田絆誠副組長とで争われました。当初はカリスマ性のある織田副組長が優勢とみられていましたが、いつまでも若頭に指名されないことなどにしびれを切らした織田副組長が反旗を翻して、現在の絆會である任侠山口組を立ち上げた経緯があります。一説によると、山健組の内部改革を唱える織田副組長を井上組長が疎んじて、従順な中田組長を選んだとされています」(実話誌記者)


山健組は、中田組長が当代として牽引するはずであったが、井上組長の介入は続いていたという。

「神戸山口組は、六代目体制の月会費100万円を超える高額徴収に異を唱えて発足した経緯もあり、直参から徴収する会費は月10〜30万円程度。運営費用を差っ引けば、トップの井上組長に入るカネはほとんどない。このため、資金源を確保するために井上組長は山健組組長を退かなかった。

中田組長に跡目を譲ってからも山健組の会費の一部を懐に入れていた。こうしたカネで、井上組長は兵庫県内の土地を買い漁ったと噂され、出身母体である山健組からも不興を買うようになった」(暴力団事情に詳しいA氏)

そして、中田組長は2019年に、六代目側の組員に対する銃撃事件の実行犯として逮捕される。

「中田組長は、六代目側に一矢を報いるために自らがヒットマンとなった。これを伝え聞いた井上組長は、刑事責任が自らに及ぶことを懸念して、逮捕前の中田組長を激しく叱責し、一説には殴打したとも言われています。相当、心が折れたのでしょう。中田組長は失踪した後に逮捕され、拘留中の20年夏に神戸側の脱退、そして六代目側への復帰を申し出ました」(実話誌記者)

■総有財産の返還を主張も

山健組の大半の組員は中田組長に追従。神戸側の中核組織だった山健組は5年ぶりに古巣へ帰還した。

「井上組長に会費名目で金銭を徴収され続けた山健組員の恨みは骨髄だった。とはいえ、元親に刃を向けることはヤクザの道理に外れるし、警察の厳しい追及を受ける。そこで選んだのが法廷闘争でした。井上組長名義になっている山健組の施設や、いままでタカられてきたカネで購入した不動産をぶん捕ろうと民事で訴えたのです」(前出のA氏)

今回の訴訟では、山健組側は、神戸市北区の井上組長の自宅の他、同市中央区の山健組関連施設について、「構成員が財産を拠出して不動産を取得していて総有財産」だと主張した。しかし、判決では「構成員が不動産の代金を支出したことを裏付ける客観的な証拠はない」として、山健組側の請求を完全に退けた。


「そもそも、ヤクザは帳簿などをつけないからカネの出入りが不透明。だから、金目のトラブルでヤクザ同士が民事訴訟で争うことは珍しいし、勝訴にもっていくのは難しい。まして、相手は元親だろ。それでも、井上組長に『邸宅から出ていけ』と強硬に主張する山健組からは恨みの根深さがうかがえる。

控訴をして今後も全面的に争うことになるだろうし、もし山健組側が勝訴することになれば、同じようにかつての親分に食い物にされたヤクザたちも、後に続こうと訴え出るケースが出てくるかもしれない」(前出のA氏)

暴力団が自らの権利を法律に訴えたのはこれが初めてではない。2023年5月には、指定暴力団6代目山口組系の50代の組幹部が、高速道路6社と国を相手取り、暴力団組員であることを理由にETCカードの会員資格を取り消したことは憲法違反に当たるとして名古屋地裁に提訴。取り消しの無効と損害賠償を求めて現在も係争中だ。

暴力団への締め付けが強化されるなか、極道の武器は銃弾から六法全書へと変わりつつあるのかもしれない。

文/大木健一 写真/photo-ac.com

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