各社が進める「小型店舗」 コンビニと飲食チェーンで明暗が分かれそうなワケ

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2024年09月26日 06:21  ITmedia ビジネスオンライン

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各社が進める小型店舗の動きを追う(提供:ゲッティイメージズ)

 コンビニやファストフードなど飲食の各社が小型店の展開を始めている。小型店は従来型店舗と比較して3分の1〜半分程度の面積しかなく、商品構成も従来より少ない。コンビニなら50〜60坪というように、ある程度の型は決まっているため、小型店の開店は新業態を模索する動きといえる。小型店は飲食・小売業態における新たな形態となるのだろうか。各社が近年に行う小型店施策の状況を追った。


【画像】思ったよりも小さい! セブン、ファミマ、KFC、タリーズ、スタバの小型店舗(全5枚)


●社内食堂代わりのニーズも見込むセブン


 セブン-イレブンは今春から「コンパクト店舗」を出店している。面積は従来店(50〜60坪)の4分の1から3分の1程度の面積で、商品数も1000程度と従来店の半分以下のラインアップだ。立地は従来店のような路面や駅ナカではない。オフィスビルや工場、会社施設などに設置し、主に一般向けではなく福利厚生目的での利用を見込む。


 レジのない無人店舗でもあり、利用者はスマホアプリを通じた「スマホレジ」で決済をする。アプリを立ち上げて「入店QR」を読み込み、手に取った商品のバーコードを読み込む。そして「退店QR」を読み込むと決済が完了するシステムだ。支払いはクレジットカードやPayPayに対応している。


 このようなコンパクト店舗を、社内食堂の代わりに出店する例もあるという。出店可能条件として「施設内就業人数は500人以上であること」「セブン本部からの賃料支払いが発生しないこと」をセブンは挙げており、施設側に頼るビジネスモデルであることが分かる。大きい工場では従業員が頻繁に外へ出られるわけもなく、施設外のコンビニがあったとしても出るのはおっくうである。こうした従業員のニーズを開拓できるかもしれない。


●セブンより動きの速かったファミマ


 ファミリーマートでは、セブン以前から小型店を出店してきた。例えば2021年3月に初出店した「無人決済コンビニ」はその一つである。東京・丸の内の1号店は55平方メートルと従来店の3分の1程度で、アイテム数も通常の約3000に対して700とかなり少ない。役所や病院のほか、駅にも出店しており、セブンとは対照的に一般向けにも解放している。基本的には近くの既存店に付随する「サテライト店」として出店している。


 無人決済コンビニではTOUCH TO GO社のシステムを導入している。客は商品をスキャンする必要はなく、商品を手に取り出口付近のセルフレジに寄ると、ディスプレイに決済内容を表示する仕組みだ。天井に設置したカメラなどから客が手にした商品を認識している。


 無人決済コンビニは全体の30〜40%を占めるレジ回りの業務を削減する効果があるという。2024年度までに1000店舗という目標にはほど遠いが、地方を中心に年間10店舗程度のペースで出店を進めている。


 無人決済コンビニの目的は工場やオフィスなどの小さな商圏、いわゆるマイクロマーケットの開拓だ。会社の福利厚生を軸に出店するセブンのコンパクト店舗も同じ目的といえる。ミニストップも同様の「ミニストップポケット」を出店しており、コンビニ業界ではマイクロマーケットの開拓が潮流となっている。


●ファストフード各社が取り組むも、本格化せず


 ファストフード業界のマクドナルドも、同様に小型店を展開している。別館を意味する「ANNEX店」として開店。厨房とカウンターのみを設置したデリバリー・テークアウト専門店で、イートイン席は設けていない。一方でメニュー数は絞り込まず、通常店と同様のラインアップを提供する。


 かつてマクドナルドは「サテライト店」という名でメニュー数を制限した小型店を展開していたが、メニューの少なさが弱みになっていたため、ANNEX店では制限しないことになったという。とはいえ2023年9月に2号店として糀谷駅前ANNEX店を開店した後の開店情報はなく、下火になっている。


 ケンタッキーはコロナ禍の2021年11月に「ミニドライブスルー店舗」を開店した。ドライブスルー以外に店内レジも利用可能で、客席は設けないデリバリー・テークアウト専門店である。店舗面積と従業員数はともに既存の郊外型店舗の7割程度で済むという。ただしこちらもマクドナルドのANNEXと同様、下火になっており、2023年度までに129店舗という目標には至っていない。もともとイートイン比率の低いファストフード業態において、客側から見たデリバリー・テークアウト専門店のメリットは小さいのかもしれない。


 ちなみに吉野家もテークアウト・デリバリー専門店を展開している。50平方メートルの店舗面積は従来店の半分程度で、初期投資額も半分以下である。主に商店街の路面や角地に出店しており、現段階で40店舗程度であり、こちらも本格的な展開には至っていないようだ。


●タリーズが意欲的だが、なかなか広がらない


 カフェ大手のタリーズは2023年6月から「タリーズコーヒーセレクト(TULLY'S COFFEE -SELECT-)」という名の小型店を展開している。神戸・三宮の1号店は面積約87平方メートル、席数23と従来店の半分程度だ。現在は7店舗展開しており、ニュウマン新宿店に至っては数席置いてあるだけでテークアウトが主体である。セレクト店はメニュー数を少数に絞り込み、フードはサンドイッチ類に限定、厨房が必要となるパスタは置いていない。人通りの多い駅ナカや商業施設内に出店しているのが特徴といえる。


 セレクト店の成否についてはスターバックスの取り組みが参考になるかもしれない。スタバは2010年代からメニュー数・店舗面積を抑えた小型店を出店してきた。駅ナカの角地を利用した狭い店舗が目立つ。そして2017年にはテークアウト専用店を秋葉原駅の構内に開店した。ただし同店舗はコロナ禍の影響か2021年に閉店している。現在開店しているスタバのテークアウト専門店はグランスタ丸の内店などが挙げられるが、本格展開に至ってはいない。


 カフェはサードプレイスとしても機能しているためテークアウト主体では難しく、ある程度の席数が必要である。安いコンビニコーヒーが進化している昨今、カフェが提供するとはいえ座れない店のメリットは薄れつつあるのではないか。


●飲食店の「小型店」は消費者にとってメリットが少ない


 コンビニ、ファストフード、カフェと各社が展開する小型店を見てきたが、コンビニに関してはマイクロマーケットを開拓する余地がありそうだ。大規模な工場や高層ビルで今後増えていくかもしれない。


 しかしファストフードやカフェ業態では難しいだろう。ファストフードはもともとテークアウトやデリバリーの比率が高く、専用店ができたところで消費者への訴求ポイントが少ない。カフェ業態に関しても、持ち帰り主体であれば前述の通りコンビニという強敵がいる。


 何より小型店は規模が小さい分、目立ちにくいというデメリットが大きい。路面店ではなく施設内店舗が多いのもそうした背景があるとみられる。コンビニの小型店は「外まで出るのが面倒」というニーズに応えているのに対し、飲食業態ではそうした場面はなく、出店コストが低いという企業側のメリットしかない。消費者にとってのメリットが少ない小型店、新たな型として定着しないだろうと筆者は考えている。


●著者プロフィール:山口伸


経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。



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