【木村和久連載】どうやったらプロトーナメントの観客を増やせるか? その戦略を考えてみる

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2024年09月26日 07:30  webスポルティーバ

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木村和久の「新・お気楽ゴルフ」
連載◆第42回

 最近、青山外苑前のコワーキングスペースで仕事をすることが多く、いつもその周辺をウロウロしています。

 そこでよく見かけるのが、ヤクルトスワローズを応援する人たちです。今時、野球の応援では、ユニフォームはもちろん、タオルやキャップ、メガホンなど、応援チームのグッズを身につけて来場する人がほとんど。だから、神宮球場のある外苑前辺りを歩いていると、今日はヤクルト対広島なんだなって、すぐにわかります。

 プロ野球は地上波の中継がだいぶ減ったとはいえ、1試合あたり2〜3万人、人気球団ではそれ以上の人がスタジアムに集まります。実に立派なものです。

 それに引き換え、ゴルフのトーナメントでは4日間トータルで総入場者数が2〜3万人。少ない時は、1万人に満たないこともあります。

 もちろん、都会の野球場と地方にあるゴルフ場じゃあ、会場までのアクセスの利便性がまったく違うので、一概に比較はできないですけど。ただ、お客さんが少ないのは、ゴルフを応援する側の人間としては、ちょっと寂しいじゃないですか。

 アメリカPGAツアーのフェニックスオープンでは、大会期間中、開催コースとなるTPCスコッツデール(アリゾナ州)に延べ何十万人もの観客が集まるそうです。特に有名なのが、16番ショートホール。巨大なギャラリースタンドが周りをぐるっと囲んでいて、そこには一度に約2万人が収容できるというから、驚きです。もやは、野球場かコロシアムですよ。

 まあ、そこまですごいことをしなくてもいいので、日本のゴルフ場でも何か入場者数を増やす工夫ができないものでしょうか。そこで、いろいろと考えてみました。

(1)マーケット戦略を練る
 プロ野球やサッカーの試合で人が集まるのは、交通の便がいい大きな都市にあるスタジアムでやっているからです。そうしたことも含めて、どれだけお客さんが来るかを予測する、マーケット戦略は大事です。

 ちなみに、ディズニーランドのマーケット戦略をご存じですか?

 テーマパークに行ける経済力のある人々が2億人いたら、ひとつのランドを造れるそうです。ざっと4億人の人口がいる北米がふたつ、欧州にはユーロ・ディズニー(フランス)がひとつ、アジアからの訪日客も見越して日本にひとつ。そして、経済発展が著しい中国には4億人の富裕層がいて2つ。数字的には、合っていますよね。

 プロ野球にしても、本拠地となる都市の人口が最低100万人以上じゃないと、1試合2万人以上の入場者は見込めないと言われています。

 そういったことを踏まえると、地方開催のゴルフトーナメントは、ちゃんとマーケット戦略を考えているのか、甚だ疑問です。ただし、例外も多々あります。スタッフの努力などによって、沖縄で開催されたトーナメントにおいて、最終日に2万人が集まった大会もありましたから。

 それはともかく、単純に観客動員を考えたら、都市近郊のコースでトーナメントを開催したほうが有利です。以前、東京よみうりカントリークラブで行なわれた試合に行きましたが、大入りでした。アクセスもよく、交通費もさしてかかりません。週末、日帰りで連チャン通いができますからね。

 じゃあ、都会近郊コースがいい、という考えついでに、こういうプランはどうでしょう。

(2)若洲ゴルフリンクスでのトーナメント開催
 ゴルフの試合は、どこかしらのカントリー倶楽部やゴルフ場を借りて行なわれます。大都市近郊で試合をすれば便利ですが、そういうコースは老舗の名門倶楽部が多く、あまり試合のためにはコースを貸したがらないようです。

 1週間の試合とはいえ、かなり前から準備をしなければならないし、持ち出しが多く、さほど利益にもならないからです。大会のチケットを倶楽部側で大量に買わされるのはお約束だったりしますし、何かと制限も多いです。

 正直、「大きなトーナメントが行なわれた」と宣伝する以外、倶楽部側にはさしてメリットがないのです。つまり、トーナメントを開催するのは、倶楽部やゴルフ場の箔づけが大きな目的のひとつです。

 けど、名門倶楽部はすでに昔から名前が通っています。今さらトーナメント開催コースといった誉れなどはどうでもよく、だから貸したがらないのです。

 しかも、大都市近郊の名門倶楽部は古い設計ゆえ、トーナメントの開催基準に満たない場合もあります。そういう理由もあって、大都市近郊でのトーナメントが増えないのです。

 そんななか、案外イケそうなのが東京都心から最も近いコースの、若洲ゴルフリンクス(東京都江東区)です。

 ここは都営ですから、メンバーはいません。いつでも試合が開催できます。実は以前、男子ツアーのポカリスエットよみうりオープンを開催したことがあり、コースのクオリティも申し分ありません。

 その際は、巨大クレーン車2台を空き地に持ち込んでネットを張り、臨時の練習場を開設しました。トーナメント開催には規定があって、何打席、何百ヤード以上の練習場が必要とか、いろいろうるさいんですよ。

 そういう条件も緩和すれば、練習場も現在あるものを利用すればいいだけ。どうせ都が運営するパブリックコースですから、日程の調整もしやすいでしょ。

 トーナメント開催の名目は、「都民にプロの試合を見ていただく」で構わないです。4日間で5万人ぐらいのギャラリーを集めたら、結構な収益になると思いますよ。

 もし一度開催して当たれば、男子、女子、男子シニアと、毎年3つのトーナメントを行なって、プロトーナメントの"シンボル"的な場所にすればいいじゃないですか。

(3)選手のファンサービスの在り方
 数年前、男子トーナメントのプロアマ戦で、「プロの対応がひどい」とアマチュアゲストが怒ったトラブルがありました。詳細はさておき、男子プロは女子に比べて「愛想がない」と、ず〜っと言われ続けていました。

 トーナメント出場選手がホストをやったり、ファンサービスしたりするのは、すごく大事なことです。

 それはなぜか?

 ゴルフの試合って、スポンサーの持ち出しが多く、入場者の売り上げだけで計算したら、完全に赤字になります。要は、大会のスポンサー企業が何億円か出しているから、各試合が成り立っているのです。その代わり、冠スポンサーは企業イメージを上げるために、さりげなく企業㏚をしているというわけですが、選手が賞金、いわゆる収入を得られるのは、スポンサー企業のおかげ。

 その主催企業の一番大事なイベントが、試合前に行なわれるプロアマ戦。スポンサーである企業が大切なお客様をお迎えしているのですから、そこで選手がホスト役を果たすのは当然であって、とても大事な仕事です。そこをよく理解していただきたい。

 そんなわけで、ここ最近はいろいろと言われたせいか、男子トーナメントにおける選手たちのギャラリー対応も徐々によくなってきています。

 また、動画は以前から部分解禁されていましたが、スマホでの写真撮影も無音アプリでの撮影ならオーケー、という試合が増えています。

 プロアマの対応やファンサービスも、ひと頃よりはかなり親密化。おおむね好評です。結果、トーナメントの入場数も伸びているようです。

(4)プロゴルファーに求められるもの
 ゴルフって、基本的には個人戦じゃないですか。言い方は悪いですけど、別に社交性や協調性、団体行動に関しては、どうでもいいわけですよ。

 でも、こんだけメディアが発達して、名前が売れたらその人となりを探られるわけで、自己㏚や発信力が大事になります。ゴルフがただうまいだけじゃ、一流にはなれないってことですね。

 大相撲の横綱は、心・技・体がそろわないとダメ。人格者じゃないと、ただ強いだけでは横綱になれません。

 今やゴルフのトッププレーヤーにも、同様なものを求められているのです。まずは、ゆっくりちゃんこでも食べて、自らのなりふりについて考えてみますか......って、そういうこと?

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