稲本潤一と今野泰幸が語る、南葛SC風間八宏監督のサッカー「フロンターレ時代より難しくなっている」

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2024年09月27日 10:10  webスポルティーバ

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ベテランプレーヤーの矜持
〜彼らが「現役」にこだわるワケ
第7回:稲本潤一&今野泰幸(南葛SC)(2)

◆(1)稲本潤一&今野泰幸はなぜ、南葛SC入りを決めたのか>>

――今シーズンから、指揮官には風間八宏監督が就任されました。稲本選手は川崎フロンターレ時代に3シーズン、監督と選手として仕事をされていますが、今野選手は初めてです。風間さんのもとでサッカーをする面白さをどういうところに感じていますか。

今野泰幸(以下、今野)もう、めっちゃ難しいです。そもそもの要求がめちゃめちゃ高いから。というのも、風間さんの戦術はいわゆる止めて、蹴る技術はもちろん、前方向にゴールまで最短、最速で攻めることを求められるので。プレーしていてもスピード感をすごく感じるし、その状況でプレーを完結させなきゃいけない難しさは、今シーズンずっと感じながらやっています。

稲本潤一(以下、稲本)フロンターレの時よりも、選手に求めるものがさらに厳しくなっている気もするしね。本来、サッカーではロングボールを蹴ることが一番手っ取り早い"最速"だと思うんですけど、風間さんはそのキックの正確性ではなく、しっかり足元でつなぐなかでの正確性を求めるから。

 また、横パスを出すより、縦のほうが速いでしょ、という意味での最速でもあるから、ペナルティエリアの幅で攻めきることを求められる。その狭い"幅"で攻めることは、フロンターレ時代にはなかった要求だと考えても、より難しくなっている気がする。

今野 ってことは、風間さんはフロンターレ以降に今の思考に変わったってことですか?

稲本 たぶん。外から見ている分には、名古屋グランパスの監督をされていた時代もそんなサッカーではなかったから、Jクラブのトップチームの指導から離れている間にそういう思考にたどり着いたのかも。

 選手にしてみれば、求められるものが高いほど、成長は見出せるとはいえ、狭いエリアのなかでボールを奪われることなく、前に、前にボールを運ぶには、受け手と出し手、さらに3人目、4人目の全員が同じ方向を向いて、同じレベルの技術を備えていないと進まないということになる。そりゃ、難しいよね。

今野 風間さんのサッカーに対するイナさん(稲本)のベースを持ってしても難しいなら、僕が難しいのは当然ですよね。

稲本 特に今ちゃん(今野)のよさ、持ち味を発揮しようと思うと、今よりさらに足元の技術を求められるから、余計に難しさを感じるのかもしれない。

今野 僕としては、技術を備えること以上に、頭(の思考)を変えることにもめっちゃ難しさを感じています。

 たとえばこれまでの僕なら、ポゼッションひとつとっても、相手選手が「ああ、そこは取れないな」っていうような、ボールを失わないポゼッションを好んできた。だから、サイドも使うし、バックパスもするし、前向きの選手がフリーならそこを使ってつなげばいいし......って考えでプレーしてきたんですけど、風間さんのサッカーはある意味、その思考を180度変えないとできないですから。

 もっとも、風間さんに出会ったおかげで意識はめちゃ変わったんですよ。ボールを奪った瞬間も、これまでなら周りを見て、フリーな選手を使っていたシーンでも、今はそういう状況では必ず前線から「フリー! ターン!」って声が掛かるから、前を向こうとしますしね。

 ただ、そこがまだ完全には自分のものにできていないというか。準備もできてないし、周りも見えていないのにターンしちゃうから、相手に寄せられてガチャンとなって奪われちゃう。

稲本 でも、間違いなくよくはなってるよ。

今野 そう信じたいです。最近は、Jリーグの試合もよく見ているんですけど、他の選手のプレーを見ながら「うわ、そこめちゃターンできたのに!」って思うようになっているのも、思考が少しずつ変わってきた証拠だと思いますしね。でも、それをピッチで表現するのは決して簡単じゃない......から、迷走しちゃってる(笑)。

――今野選手の経験を持ってしても難しいなら、若い選手はもっと難しく感じているということでしょうか。

今野 いや、逆だと思います。僕にはこの長いキャリアの間に全然違うサッカー観が染みついちゃっているから難しいんであって、若くて何にも染まっていない選手のほうが習得は早い気がします。

稲本 確かに、まっさらの選手のほうが吸収しやすいかも。

今野 これだけサッカーをやってきていたら、ボールを失う怖さも身に染みて知っているじゃないですか? ましてや、ボランチなんてボールを奪われたくないということが一番にきちゃう。

 だから、体を使って、相手からボールを隠すみたいなプレーをしちゃうんですけど、風間さんのサッカーではそれが正解ではない。そう考えても、やっぱりまずはボールを奪われることの怖さを払拭するというか、思考を変えなくちゃいけないと思う。

――稲本選手も、そういう今野選手の感じている"怖さ"を感じていた時期もありましたか?

稲本 ターンするための技術とか、ターンするためのトラップみたいなところは、以前から風間さんとやっていた分、そこまで抵抗はないですけど、さっきも言ったように、南葛で要求しているものは、フロンターレ時代より高くなっていますからね。僕は最近、センターバックを預かっている分、そこまで今ちゃんのようなプレーは求められてないけど、ボランチは、後ろから見ていても大変というか。

 しかも、今ちゃんが言ったターンの話も、(パスを)出して終わり、ではないですから。チーム全体がペナ幅でプレーしようとする分、前線の選手も中に集まっているから、ターンして前に出したら、すぐに自分も動いてポジションを取らないといけないし、前線に加わって連続した動きを求められる難しさもあるのかなと。

今野 でも、大きな目で見れば、やっぱり幸せですよね。引退する前に、こうして新しいサッカーに出会えて、意識も頭のなかも変わったし、それは選手としての幅とか、伸びしろを実感することにもつながっているから。

 サッカー選手は向上心がなくなったら成長も止まってしまうし、この歳になれば現状維持でいいと考えるようになった時点で終わりを意味すると考えても、自然ともっとうまくなりたいという意識にさせてもらっているのは、風間さんに出会えたおかげだと思う。

稲本 しかも、風間さんは何があっても絶対にブレへんからね。実際、今シーズンも繰り返し同じことを求めて、スタイルを植えつけることに徹底して力を注いでいる。クラブとしても、ここ数年は風間さんの教え子たちに監督を託してきたとはいえ、正直、去年のシーズンは多少チームとしても"勝つこと重視"になった時期もあり......でも結局、結果は出なかったですから。

 それもあって、今シーズンはクラブコンセプトである「ボールはともだち」というところに立ち返って、貫こうということで、"ラスボス"の風間さんを監督に招聘したんだと思いますしね。だからこそ、僕たちはクラブの目指す方向性、監督のサッカーについていくしかない。

――稲本選手は今年から、"コーチ兼選手"として登録されていますが、風間監督のサッカーをピッチレベルでチームに浸透させる役割も担っているということでしょうか。

稲本 いや、正直コーチの仕事はまったくしていません。コーチングスタッフのミーティングに出ることもないし、そもそも風間さんも、僕にそういう役割は求めていないと思う。だから、これまでと変わらず、選手です。

 ただ、このチームは所属選手が40名を超える大所帯なので。まったく試合に絡めない選手も出てくるだけに、その選手たちのモチベーションを下げないように声掛けをするとか、練習中に「こうしたほうがいいんちゃうか」みたいなことは、コーチってことに関係なく、意識して言うようにはしています。

今野 僕は、もっともっとイナさんに感じていることを言ってほしいですけどね。(試合に)出ていない選手に声を掛けたりする姿は見ていますけど、試合に出ている選手にも......勝つためには、イナさんの声がもっともっと必要だと思う。ここまでの話を聞いていても、やっぱりイナさんは僕ら以上に深いところで風間さんの考え方を理解しているように感じるだけに、どんどんピッチで修正してほしい。

稲本 風間さんのサッカーをしていると、こうしたほうがいいかな、ああしたほうがいいんじゃないか、みたいな意見が出てくるのはすごく、わかる。でも、風間さんが今のサッカーの先に描いているのって、フロンターレ時代は「バルセロナに勝とう」やったし、南葛だと「バイエルンに勝とう」やん?

今野 フロンターレの時はバルサだったんだ!

稲本 そう。そこがなぜ変わったのかは、風間さんに聞いてもらうとして(笑)、それを実現するには? ってことからの逆算で今のスタイルがある。

 それってすなわち、チームとしてここから攻めましょう、ここがよくないから直しましょう、ではなく、一人ひとりがレベルを上げなければ実現しないサッカーをしているということだと思うんよね。ここに立ち位置を取れば、ここが空いてきますよね、という組織論というより、この枠のなかで個人のスキルを最大限発揮しましょう、が狙いで、だから、一人ひとりがうまくなることでしか解決しない。

 実際、練習が終わったあとのトレーニングも、「自分に足りていないことをやってくれ」って要求やん? つまりは自分がうまくなるしかないし、そうやって個人のスキルが上がって、みんなが求められていることをできるようになれば、チームでやっても当然うまくいくよね、みたいな考え方。

 だから、反復練習もめちゃめちゃするし、同じこともめちゃめちゃ言う。そういう意味では修正というより、ひたすら個々が自分の成長を求めるしかない。要するに、究極の個人戦術の集合体が風間さんのサッカーだと、僕は思ってる。

(つづく)

稲本潤一(いなもと・じゅんいち)
1979年9月18日生まれ。大阪府出身。1997年、ガンバ大阪の下部組織からトップチームに昇格。若くしてチームの中心選手として奮闘した。そして2001年、アーセナルへ移籍。以降、フラム、WBA、カーディフ、ガラタサライ、フランクフルト、レンヌでプレーし、2010年に帰国。川崎フロンターレに加入した。その後、北海道コンサドーレ札幌、SC相模原に在籍し、2022年に南葛SC入り。その間、日本代表でも活躍。世代別代表では、1995年U−17世界選手権(現U−17W杯)、1999年ワールドユース(現U−20W杯)、2000年シドニー五輪に出場。A代表では、2002年、2006年、2010年と3大会連続でW杯に出場した。国際Aマッチ出場82試合、5得点。

今野泰幸(こんの・やすゆき)
1983年1月25日生まれ。宮城県出身。東北高卒業後、北海道コンサドーレ札幌入り。1年目から出場機会を得て、2年目にはチームの主軸として存在感を示す。2004年にFC東京に完全移籍。ナビスコカップ(現ルヴァンカップ)、天皇杯などの栄冠獲得に力を発揮した。そして2012年、ガンバ大阪へ移籍。2014年のリーグ制覇をはじめ、数々のタイトル獲得に貢献した。その後、2019年夏、ジュビロ磐田へ移籍。2022年に南葛SCに加入した。日本代表でも常に中軸として活躍。世代別代表では2003年ワールドユース(現U−20W杯)、2004年アテネ五輪に出場。A代表でも、2010年、2014年とW杯に2度出場した。国際Aマッチ出場93試合、4得点

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