「立ち直れるか…」再建途上で豪雨 輪島塗職人、やりきれぬ思い

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2024年09月27日 11:38  毎日新聞

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毎日新聞

大雨で冠水した石川県輪島市の輪島塗製造販売会社「輪島塗の稲忠」の店舗付近=提供写真

 石川県の能登半島を襲った豪雨は、輪島市の伝統工芸品「輪島塗」に再び甚大な被害をもたらした。元日の地震から再び立ち上がろうとしていた矢先の水害。職人たちの落胆は大きい。


 「これからという時に、また試練だ」


 輪島市河井町の「輪島塗の稲忠」代表の稲垣充治さん(45)は声を落とす。


 創業90年以上で塗漆器を製造・販売する稲忠は、1月の地震で3階建ての住居兼店舗が倒壊した。1階部分が押しつぶされ、店舗に入ることができなくなった。稲垣さんは金沢市のみなし仮設に身を寄せた。


 休業せざるを得なくなったが、稲垣さんは崩れた店舗に残した1000点以上の商品がずっと気がかりだった。修理のために客から預かった品物も含まれていたが、近づくことは危険で回収することができなかった。


 10月に建物の解体が決まり、そのタイミングで取り出すつもりだった。「店の商品を助け出すことが、本当の意味で再始動だと思っていた」


 3月から、全国の職人から作品を提供してもらい、展示・販売会を催すようになった稲垣さん。記録的な大雨となった21日は北九州市の展示場にいた。


 大雨特別警報の発令に不安を募らせていたところ、知人の職人らからの連絡が入った。がくぜんとする内容だった。


 店前の通りは泥水であふれ、1メートル近く冠水。近くの飲食店は玄関が見えなくなったという。翌日には泥だらけの店舗を写した画像が送られてきた。


 「屋根があったので商品はどうにか風雨に耐えていると思っていたが、大雨で完全に水につかってしまったのではないか」とショックを隠さない。


 地震後に多くの常連客から「命があって良かった。頑張って」と励ましの声をもらった。それだけに再建にかける思いは強かったが、今度は豪雨が立ちはだかってきた。


 稲垣さんは「これから頑張ろうという時にショックは大きい。職人たちと一緒に、また一歩ずつ頑張っていくしかない」と唇をかんだ。


 同じ輪島市河井町にある「小山箸店」は、倉庫として使っていた車庫が10センチほど水につかった。漆を塗る前の箸や、完成した製品など数万膳がダメージを受けた。


 地震で作業場兼倉庫などが半壊しており、材料や機械を車庫に移して製造を再開していた。職人の小山雅樹さん(69)は「これから漆を塗る作業が本格化する一番大事な時期だった。災害はどうすることもできないが、こうなるとは想像もしていなかった」と語る。


 輪島漆器商工業協同組合や県によると、多くの工房で材料や道具が泥水につかってしまうなどの被害が出ているとみられるが、全容は明らかになっていない。地震後、市などが被災した職人向けに設けた仮設の工房も、47室のうち7室が床上まで水が押し寄せ、使えなくなったという。


 組合事務局長の隅堅正さんは「地震の時よりも今回の方がどうしたらいいのか分からない。正直、立ち直れるのか……」とやりきれなさをにじませた。【洪玟香、大坪菜々美、芝村侑美】



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  • 伝統工芸を慈しみ尊ぶお気持ちは痛いほどわかる。しかし災害時は命第一でお願いしたい。伝統がすべて消えてしまっても命があれば培った技法、知見を再び活かせる。命より大事と思われるだろーが。
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