『バズ・ライトイヤー』興行的に低迷し、『SHOGUN』で巻き返し図るディズニー

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2024年09月27日 18:01  日刊サイゾー

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バズ・ライトイヤー(写真/Getty Imagesより)

「無限の彼方へ 、さあ行くぞ!」

 ピクサー制作のCGアニメ『トイ・ストーリー』シリーズの人気キャラ、バズ・ライトイヤーの決め台詞です。9月27日の『金曜ロードショー』(日本テレビ系)では、壮大な宇宙を舞台にしたSFアニメ『バズ・ライトイヤー』(2022年)を放映します。本編ノーカットの地上波初放映です。

 先週放映された『トイ・ストーリー3』(2010年)では、アンディ少年は大学へ進学しました。アンディのかつてお気に入りだったのが、アクション人形のバズ・ライトイヤーです。そのバズ・ライトイヤーがおもちゃとして販売されるきっかけとなったのが、SF映画『バズ・ライトイヤー』だという設定です。少年時代のアンディは、この映画に夢中になって、バズを買い求めたわけです。

 アンディ少年が夢中になったSF映画は、どんな内容なのでしょうか? 2022年の公開時の反響と併せて紹介します。

『機動戦士ガンダム』そっくりなロボットたち

 バズ・ライトイヤーは勇敢なスペースレンジャーです。1200人もの搭乗員を乗せた大型母船の操縦を任されていましたが、過剰な自信からミスしてしまい、危険な惑星から脱出不可能な状態となってしまいます。

 故郷の星へ帰るために、ハイパースペース移動の実験を繰り返すバズでした。しかし、わずか4分程度のテスト飛行で、帰ってみると母船に残った仲間たちには4年もの歳月が流れていました。「ウラシマ効果」と呼ばれるものです。バズがテスト飛行を重ねるたびに仲間たちは年をとり、新世代へと変わっていきます。若いままのバズは、それでも諦めません。ネコ型ロボットのソックスや新しい仲間たちと協力し、宿敵ザーグの放つロボットたちと戦いながら、飽くなき挑戦を続けるのでした。

 主人公以外はどんどん年老いていくという設定は、庵野秀明監督のブレイク作『トップをねらえ!』(1988年〜89年)を彷彿させます。また、ザーグ側のロボットたちは、『機動戦士ガンダム』に登場したジオン軍のモビルスーツにそっくりなデザインです。本作を撮ったアンガス・マクレーン監督の、日本アニメへの偏愛ぶりを感じさせます。

中国やイスラム圏では上映禁止処分に

 ラスボスであるザーグの正体も含め、かなり凝った内容のSFアニメです。しかし、興収的には奮いませんでした。その原因のひとつに、メインキャラクターの1人を同性愛者という設定にしたことが挙げられています。同性同士による軽いキスシーンがあるのですが、イスラム圏では上映禁止となり、中国ではキスシーンのカットを求めたところ、配給のディズニーが拒否したことから、中国でも上映なしとなりました。

 ディズニーとしては性や人種の多様性を認めた、開かれた企業のイメージをアピールしたかったのでしょうが、そうしたジェンダーフリーの流れに反発心を感じる「ジェンダー・バックラッシュ」もあり、上映された国々でも興行的には伸び悩む結果となりました。日本での興収も12.5億円という、ピクサーアニメとしては寂しい数字となりました。

 シリーズ第1作『トイ・ストーリー』が公開されたのは1995年です。アンディ少年が映画『バズ・ライトイヤー』を観たのはそれ以前になるわけですから、ジェンダー運動が一般的に大きく盛り上がる以前になります。

 ヒース・レジャーとジェイク・ギレンホールが同性愛者のカウボーイを演じた『ブロークバック・マウンテン』(2005年)がアカデー賞作品賞にノミネートされた際には、賛否が起きたくらいです。下馬評が高かった『ブロークバック・マウンテン』ですが、作品賞は逃しています。

 メジャー映画がジェンダー要素を取り扱うようになったのは、最近になってからです。『バズ・ライトイヤー』にジェンダー要素を取り入れたのは、時代設定的にも少しばかり早すぎたようです。

 映画業界は大きく変わりつつあります。つい最近まではレンタルビデオ店に行けば、ディズニー&ピクサーの新作アニメがずらりと並べられていました。しかし、『バズ・ライトイヤー』をはじめとする新作が、レンタルビデオ店に並ぶことは少なくなりました。

 音楽業界がCD制作をやめて配信のみに切り替えているように、ディズニーも映像のソフト化をやめる方向に向かっています。日本でのソフト製造と販売は、今年からハピネットファントム・スタジオへ外部委託しています。採算が合わないようなら、ソフト化されない作品も出てくるでしょう。

 DVDやブルーレイでディズニーやピクサーの作品を観ることができなくなったら、どうすればいいのか? ディズニーのネット配信「ディズニープラス」に加入するしかなさそうです。また、最近のディズニーは、劇場公開よりもディズニープラスでの配信により力を注いでいます。劇場側と入場料を折半するよりも、ディズニープラスでの配信のほうが丸々儲けになるからです。

 マーベル制作、ディズニー配給のスカーレット・ヨハンソン主演映画『ブラック・ウィドウ』(2021年)がコロナ禍で公開された際、ディズニーは劇場公開と同時に配信にも踏み切りました。しかも、通常料金にプラス30ドルという強気の料金設定でした。

 これまでディズニーに長年にわたって協力してきた映画館やレンタルビデオ店は、ディズニーの自社のことしか考えない方針には反発を覚えています。

エミー賞独占の『SHOGUN』は、低調な配信業務の起爆剤

 真田広之が主演&プロデュースした大型時代劇『SHOGUN 将軍』が、エミー賞最多18部門を制したことが大きなニュースになりました。SNS上には「日本の誇りだ」と称賛する声が溢れましたが、肝心の『SHOGUN』を日本で視聴するには、ディズニープラスに加入するしかありません。米国では有料チャンネルのFXで放映された『SHOGUN』ですが、FXもディズニーが買収したグループ会社のひとつです。

 1話につき10億円近い制作費が投じられたという超ゴージャスな『SHOGUN』ですが、ディズニープラスの加入者がなかなか増えない日本マーケットにおける抜群のプロモーションになったのは確かでしょう。プロモーション込みで考えれば、莫大な制作費もそう高いものではないのかもしれません。

 2023年10月から、日本では「東京ディズニーリゾート」の大人の入園料が時期によっては1万円以上に値上がりしました。そのこともあって、若い世代の「ディズニー離れ」が起きつつあるといわれています。ディズニーが独占支配体制を今後いっそう強めれば、ディズニー離れはますます加速するのではないでしょうか。

 ディズニープラスに加入しないと視聴できないディズニー作品も、高い入場料を払うディズニーランドも、下流市民の手には届かないものになりつつあるようです。

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