稲本潤一&今野泰幸は今のJリーグをどう見ているか? 同時に南葛SCで成し遂げたいことを語る

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2024年09月28日 07:30  webスポルティーバ

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ベテランプレーヤーの矜持
〜彼らが「現役」にこだわるワケ
第7回:稲本潤一&今野泰幸(南葛SC)(4)

――長い時間、Jリーグで戦ってきたおふたりに、昨今のJリーグについてお伺いします。稲本選手が2001年にアーセナルへ移籍された時代とは違い、近年はJリーグで活躍した選手はもちろん、Jリーグを経験していない日本人選手もダイレクトに海外へ行って、活躍の場を求める時代になりました。そうした流れをどのように感じられていますか。

稲本潤一(以下、稲本)僕が海外に渡った頃は、(日本独自の)ルール上、(多額の)移籍金も必要とされる時代でしたから。日本人選手に興味を持ってもらうこと自体がすごく少なかった。それもあって、日本代表で活躍することが海外に知ってもらう最大の手段で、どちらかと言うと日本代表で活躍した選手が海外に行く、という流れがほとんどだったと思います。

 ただ、近年は(日本独自の)移籍金ルールが撤廃されたし、いろんな日本人選手が海外で活躍したり、日本代表が結果を残してきたこともあって、日本人選手の価値が上がってきたな、と。そうしたなかで、(イングランドでは労働許可証取得のための条件が一部緩和されて)日本代表に入らずともプレミアリーグ2部に移籍できる、みたいなことも出てきたように思います。

今野泰幸(以下、今野)確かに、僕も若い頃にセリエAのクラブからオファーをいただいたことがあったんですけど、当時はまだ日本代表にも選ばれていないしな、みたいな思いもあって断ったことがありました。

稲本 そういう意味では、いろんな選手が世界に飛び出しやすくなったし、それはプレーの場を広げる、可能性を広げる、という意味でもすごくいいことだとは思います。ただ一方で、そうした選手の流出がJクラブのチーム力低下や、リーグそのもののレベルの低下を招いてしまうことは避けなければいけないな、と。ましてや、各クラブがその選手にかけてきた労力、お金、熱量が、海外移籍によって無駄になってしまうようなこともあってはならないと思う。

今野 正直、Jリーグと海外とでは金銭面も全然違いますからね。国によっては、そもそものベースになる金額もかなり違う。

 加えて、サッカーが文化として根づいている国であれば、それこそ下位チーム同士の対戦でもスタジアムは満員で、雰囲気もすごくよくて、みたいな環境でサッカーができるし、昨今は海外組でなければなかなか日本代表に選ばれにくいという現実もある。そういう意味では、日本人選手の海外への流出はもはや止められない気がします。

稲本 そうね。だからこそ、Jリーグはいよいよその状況に真剣に向き合わなければいけない時代が来ているのかな、と。

――Jクラブは今後、どういう進化を見出していくべきだと思いますか?

稲本 まずは、各クラブがそれぞれの色や魅力を明確に備えられるようにならなきゃいけないというのは、ひとつあると思う。そのためには、"育成"のところも絶対的に大事になってくるはずですしね。

 自分たちのクラブでできるだけたくさんのプロサッカー選手を育てて、海外にチャレンジする選手が出てきても、レベルを落とさずに戦える仕組みを作るべきじゃないかな、と。そしたら、育成フィー(育成補償金など)でまた新たな選手を育てるという循環もできますし、何より長い目で見て、ファンのみなさんのクラブや選手への愛着にもつながるのかな、と。

 そのためには、育成の指導者の価値をもっと上げていく必要もあると思います。正直、Jクラブのアカデミー指導者の給料はまだまだ安いと聞いていますけど、そこにもしっかり投資していかないと、やりたいって手を挙げる人も出てこないだろうし、いい指導者も集まってこない。ひいては選手の強化にもつながっていかない気もします。

今野 先ほども話したように、僕はJリーグの選手ではなくなってから、逆にJリーグの試合をよく見るようになったんですけど、もちろんリーガもプレミアも面白いけど、JリーグもJリーグで面白いし、いろんな魅力が詰まっていると思うんです。けど、そのことが世間に浸透しているかとか、地域で知れわたっているかというと、まだまだ全然そうじゃない。下位クラブ同士の対戦でもお客さんが満員になるほどサッカーが文化になっているわけでもないですしね。

 ただ、それぞれのクラブ、チーム、選手には必ず魅力があるからこそ、それが正しく伝われば「スタジアムに行ってみようか」みたいなことも起きるんじゃないかと。だからこそ、Jリーグが長らく推し進めてきた地域密着もすごく大事な要素だし、そのためにチームや選手がもっと地域との関わりを深めていくことも必要なんじゃないかな、とは思います......って偉そうなことを言ってますけど、僕がそういう大切さに気づいたのも、南葛に来てからなんですけどね。

 Jリーグでプレーしていた時も、正直、面倒くさいな、それなら体を休める時間にあてたいなと思いながらも、そういう場に出ていけば、いろんな人に触れ合えて、新しい発見もあったりして、すごく充実感を覚えたことも多かったので。そういう草の根的な活動というか、結局は人と人が触れ合う時間が一番、人の興味を惹きつけやすいと考えても、そういう機会をたくさん作って、チームの魅力を知ってもらって、スタジアムに足を運ぶきっかけを作っていけば、いずれは海外のように文化として定着していくんじゃないかと思っています。

稲本 南葛も今、地域に密着した活動は地道に取り組んでいる最中やしね。もちろんチームが強くなる、カテゴリーを上げていくことも大事やけど、そうやって地域に愛されるクラブになっていくための働きかけは将来を見据えて、継続的に取り組んでいくべきだと思う。

――最後にそれぞれが南葛SCで成し遂げたいこと、夢があれば教えてください。

稲本 まずはやっぱり、JFL昇格ですね。せっかくこのクラブに来たからには、南葛が目指す目標を実現するために......試合に出る、出ないに関係なく、どんな形でもいいから貢献したい。これまで話してきたとおり、難しさはめちゃめちゃあるけど、試行錯誤を繰り返しながらも前に進んでいるのは間違いないので。自分もその一員としてしっかりチームが上のカテゴリーに進むための力になりたいです。

今野 僕も同じです。とにかくこのクラブに来た限りは、昇格して、みんなで喜びたい。迷走してるけど。

稲本 今ちゃん(今野)が、な。

今野 僕だけか(笑)。でも、本当にこれは幸せな迷走だと思っているので。壁を乗り越えたらまた強くなれると信じて頑張ります!

(おわり)

稲本潤一(いなもと・じゅんいち)
1979年9月18日生まれ。大阪府出身。1997年、ガンバ大阪の下部組織からトップチームに昇格。若くしてチームの中心選手として奮闘した。そして2001年、アーセナルへ移籍。以降、フラム、WBA、カーディフ、ガラタサライ、フランクフルト、レンヌでプレーし、2010年に帰国。川崎フロンターレに加入した。その後、北海道コンサドーレ札幌、SC相模原に在籍し、2022年に南葛SC入り。その間、日本代表でも活躍。世代別代表では、1995年U−17世界選手権(現U−17W杯)、1999年ワールドユース(現U−20W杯)、2000年シドニー五輪に出場。A代表では、2002年、2006年、2010年と3大会連続でW杯に出場した。国際Aマッチ出場82試合、5得点。

今野泰幸(こんの・やすゆき)
1983年1月25日生まれ。宮城県出身。東北高卒業後、北海道コンサドーレ札幌入り。1年目から出場機会を得て、2年目にはチームの主軸として存在感を示す。2004年にFC東京に完全移籍。ナビスコカップ(現ルヴァンカップ)、天皇杯などの栄冠獲得に力を発揮した。そして2012年、ガンバ大阪へ移籍。2014年のリーグ制覇をはじめ、数々のタイトル獲得に貢献した。その後、2019年夏、ジュビロ磐田へ移籍。2022年に南葛SCに加入した。日本代表でも常に中軸として活躍。世代別代表では2003年ワールドユース(現U−20W杯)、2004年アテネ五輪に出場。A代表でも、2010年、2014年とW杯に2度出場した。国際Aマッチ出場93試合、4得点

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