「子どもたちに罪はないのに」待ちに待った在留資格、一転して出してもらえず…クルド家族に厳しい現実

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2024年09月29日 08:20  弁護士ドットコム

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日本で生まれ育ちながらも在留資格のない子どもとその家族に対して、一定の条件を満たせば「在留特別許可」を出す――。2023年8月、当時の斎藤健法務大臣がそのような方針を示した。「子どもには何ら責任がない」という理由からの特例的な措置だった。しかし、それから1年経った今、子どもたちには厳しい現実が突きつけられている。(ライター・織田朝日)


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●一転して「ビザが出ない」とされた少女

トルコ国籍のクルド人、レイラさん(仮名・高校3年)は、6歳のとき、日本で難民申請をしている父親を追って母親と兄と一緒に来日した。小学1年から学校に通っていたが、運が良いことに先生や友だちに恵まれ、容姿や国籍が違うことでいじめられることはなかった。



日本で生まれた妹がいることで今年1月、入管から「ビザ(在留特別許可)が出る」と連絡があった。家族の中でビザがでるのは、妹とレイラさんの2人だけで、両親とすでに20歳を超えた兄には出ないと言われたという。



「あなたたち家族のことを調べたけど、悪いこともやっていないし、病院の滞納金もないから」。両親や兄に出ないのは悲しいことだったが、日本に残り続けたいと思っていたレイラさんにとっては、またとないチャンスだと感じていた。



ところが待ちに待った半年後の今年7月、衝撃の事実を告げられることになる。一転して、家族全員のビザが出ないことになったのだ。驚いたレイラさんが問いただすと、「家族全員にビザが出ないならいらない」と渡された在留カードを突き返してきた家族が何組かいたと入管から説明された。



「あなたたちは(その家族と一緒の)グループに入れました」



あまりの出来事にレイラさんは愕然とした。自分たちは拒否する気はなかったのに・・・。



レイラさんの母親は、親戚でもない家族の判断で、なぜビザが出ないことになったのか、強い憤りを感じている。「娘を助けて・・」。筆者のインタビュー取材に何度もうったえる姿は、子どもだけでも幸せを願う母親の願いそのものだった。



レイラさんは、日本語を話せないクルド女性たちの通訳を頼まれることが多い。普段から付き添いで病院に行くうちに医療にも関心を持つようになり、医療事務の仕事に就くための専門学校を目指している。



専門学校に問い合わせると「受け入れることは可能だが、ビザがないといざ就職のときは難しい」と言われた。今年1月に入管からビザが出ると言われ、そのことを高校の先生に伝えたらとても喜んでくれていた。



「奨学金も出るね」。先生からそう言われて、やっと自分の未来が見えてきたかのようだったのに残念でならない。「それでも諦めることはできないので、専門学校へ行き勉強するつもりでいます。困っている人を助けたいんです」。そんな強い意思をレイラさんは見せている。



●母親だけビザが出ず落胆する一家



同じくトルコ国籍のクルド人、アルペルくん(中学3年)の父親は、正規のビザがあり日本で飲食店や解体業などの事業を起こしていた。



母親とアルペル君は父親のあとを追って日本にやって来たが、入国の際、両親が入籍していなかったことで夫婦と認められず、入国拒否されて、1日だけ空港に留め置かれた。



パスポートに不備があったなど、落ち度はなかった。しかし、それだけが理由となって、結局、母親にビザが出なかった。



空港から解放されたあとすぐ入籍して、弟と妹が日本で生まれた。アルペルくんも弟妹もずっと仮放免の生活で、自分たちの境遇に納得できない思いがあった。



入管から今年7月、母親と子ども3人が呼び出された。母親は「ビザが出るだろう」と確信。子どもたちをサプライズで喜ばせようと、入管に着くまで秘密にしていた。ところがいざとなると母親だけ出ないことを告げられ、激しく落胆した。



子どもたちはなぜ母にだけビザがでないのかと激しく抗議し、弟は泣き出してしまった。職員には「これは子どものためのビザです。(母親は)難民申請の結果を待つしかない」と言われた。家族全員にビザが出なければ意味がないと懸命に食い下がったが、それが覆ることはなかった。



「お母さんがいつもご飯を作ってくれる。朝、服も用意してくれる。僕たちはお母さんがいなければ何もできない。家族一つで暮らしていきたい。お母さんにもビザが出るためなら何だってやりたい」



現在は受験生で、サッカーの強豪高校を目指し塾にも通っているアルペルくん。勉強の傍ら、積極的にロビイング活動も続けている。



●「子どもたちに罪はない」「誰の利益にもならない」

元入管職員の木下洋一氏は、筆者の取材に対して、空港で上陸拒否される理由について「難民申請をしそうな者をあらかじめ入国させたくないという入管の心理が根底にある」と回答した。



「元法務大臣の判断は評価している。今までにはこういう事例はなく、それにより救われた家族もいるだろう。今回のことで選ばれなかった子どものことは入管としてはこれからも個別に判断していく考えだろう。しかし、その基準が曖昧なのは当事者として辛いところなのは理解できる。



自分の意思でここにいるわけではない子どもたちに罪はない。子どもたちを長期にわたって不安定な状態に置くことは誰の利益にもならない。また、たとえ難民でないとしても、日本で成長した彼ら彼女らに『帰国』を強要するのも現実的ではない。



場合によっては、家族と切り離して判断することもあるにせよ、判断基準をより明確にして、一刻も早く子どもたち(すでに成人となった人たちを含む)への救済を願いたい」



在留特別許可の方針発表から1年を過ぎた今も、出ないかもしれないビザを待ち続けている子どもたちがいる。残された彼・彼女たちのために政府は今後どう動いていくのか、注視していきたい。



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