9月30日発売の週刊少年ジャンプで、人気漫画『呪術廻戦』は最終回を迎える。同作は今後も舞台化を含むメディア展開を多く予定しており、コンテンツとしての息はまだまだ長く続きそうだ。
【画像】「再現度高すぎる」と話題に 舞台・呪術廻戦「ミゲル」役のジョエル・ショウヘイ氏
一方で、アニメや漫画作品の実写化には多くのリスクが伴うことも事実である。これまで数多くのプロジェクトが“炎上”を経験してきた。キャスティングの失敗やストーリー改変が主な要因だ。本稿では呪術廻戦を含む成功事例をもとに、炎上しない実写化の条件について考えてみたい。
●キャスティングの「再現度」は非常に重要
実写化で炎上しやすい要素としては、役者のキャスティングがまず挙げられる。原作が人気であるほど、ファンのキャラクターに対する期待は高い。それを裏切るキャスティングは炎上の原因となる。
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例えば劇場版『進撃の巨人』や『デスノート Light up the NEW world』など、多くの実写化作品がキャスティングにミスマッチがあるとして大きな批判を受けた。
ところが、呪術廻戦の舞台版でミゲル役を演じるジョエル・ショウヘイ氏の例はそれらの失敗例に含まれないといえそうだ。
ジョエル氏は、知名度が低いながらもキャラクターのビジュアルや雰囲気を忠実に再現し、多くのファンから好意的に(そして、あまりの再現度の高さに驚きをもって)受け入れられた。このことから、キャラクターにおける再現度の高さが、役者の知名度を上回る重要な要素であることは明確といえる。
別作品でもう1つ挙げると、漫画『ゴールデンカムイ』の実写映画も成功例といえる。監督の久保茂昭氏は作品の大ファンであり、オーディションで俳優にキャラクターへの愛を語らせ、役に合ったキャストを選び抜いた。ここで重要なのは、キャストが作品やキャラクターに対してどれだけの愛情を持っているかも、ファンからの支持に直結するという点だ。
実写化を成功させるには、キャストや制作陣が作品を深く理解し、キャラクターへの愛情を持っていることが不可欠だ。単に見た目が似ているだけではなく、演技力やキャラクターの内面をどれだけ深く理解しているかについても、お金を落とすファンは厳しく見ている。
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●SNSは毒にも薬にもなる
SNSが実写化の成否に与える影響もまた、無視できないほど大きい。ファンの期待や不満はSNSを通じて瞬時に拡散され、炎上を引き起こすリスクがある。しかし、このリスクを回避し、むしろSNSを活用することでファンの期待をコントロールし、成功へと導くことも可能だ。
舞台版呪術廻戦のケースでは、SNSを通じた透明性のあるプロモーション戦略も奏功した。キャスティングやビジュアルを段階的に公開し、ファンの反応を見ながら期待値を調整したと考えられ、炎上リスクの軽減に寄与したとみられる。こうしてファンの声を反映させることが、キャスティングの適正さや作品への忠実性を示すことにつながる。
●コスプレ文化の発達で「目が肥えた」ファンたち
加えて、近年は「コスプレ文化」が発達・普及し、コスプレを鑑賞する人が増えていることも考慮すべきだ。ファンが期待する高い再現度は、コスプレイヤーたちが日常的に示しているのだ。
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呪術廻戦の人気キャラクター五条悟に関しては、コスプレイヤーのウィル氏がその再現度の高さで注目を集めている。ウィル氏はSNSで54.2万人のフォロワーを持ち、五条悟を忠実に再現している点がファンに評価されている。
こうした背景からファンはある意味で目が肥えており、実写化においてもビジュアル面の高い再現度を期待するようになった。プロモーションにおいては、コスプレイヤーが持つSNSでの影響力を活用することも一つの戦略だろう。
●「ファンタ学園」CMの成功から学ぶ
実写化のキャスティングと再現度の重要性を示す成功事例として、呪術廻戦27巻の発売に合わせて行った「ファンタ学園」のオマージュCMは良い教材だ。
このCMでは、作中のキャラクター高羽史彦を演じた牧野裕夢氏と羂索役の村田凪氏が、漫画からそのまま出てきたような高い再現度で注目を集めた。その反響は役者にもおよび、村田氏はこのCMをきっかけにSNSフォロワー数が10倍に増加した。
この事例は、キャラクターの再現度の高さがSNS上でのバイラル効果を生むことを示している。単に有名俳優を起用するだけではなく、キャラクターをどれだけ忠実に再現できるかが、ファンの期待に応え、爆発的な拡散力の源泉になる。
●「炎上を避けるための条件」とは?
実写化プロジェクトにおいて“炎上”しないためには、ファンの期待を裏切らないよう再現度を高めることが重要だ。そのためには、作り手がキャラクターや作品に対する深い理解と愛情を持つことが欠かせない。
キャスティングにおいては、俳優の知名度よりも再現度を最優先すべきだ。俳優が無名であったとしても、「ハマり役」であればファンは喜びをもって受け入れ、大きなプロモーションの成果につながるだろう。
ファンに対する透明性のある対応や、コスプレ文化の活用も、実写化成功に向けて有効な手段である。つまり、ファンに寄り添い、作品の魅力を最大限に引き出す姿勢が、実写化プロジェクトの成功と炎上回避の鍵となるのだ。「ビジネス上の都合」は、すぐに見抜かれてしまうだろう。
●金森努(かなもり・つとむ)
有限会社金森マーケティング事務所 マーケティングコンサルタント・講師
金沢工業大学KIT虎ノ門大学院、グロービス経営大学院大学の客員准教授を歴任。
2005年より青山学院大学経済学部非常勤講師。大学でマーケティングを学び、コールセンターに入社。数万件の「本当の顧客の生の声」に触れ、「この人はナゼこんなコトを聞いてくるんだろう」と消費者行動に興味を覚え、深くマーケティングに踏み込む。(日本消費者行動研究学会学術会員)。
コンサルティング会社・広告会社(電通ワンダーマン)を経て、2005年に独立。30年以上、マーケティングの“現場”で活動している「マーケティング職人」。マーケティングコンサルタントとして、B to B・Cを問わず、IT・通信、自動車・電機・食品・家庭用品メーカー、金融会社、生損保、自動車販売、EC等、幅広い業種に対応し、新規事業・新商品開発・販売計画・販売のテコ入れ案・コミュニケーションプランの策定等、幅広くマーケティング業務の支援を行っている。講師としても業種を問わず、年間100コマ以上の企業研修に登壇。コンサルティング経験を元に企業課題に合わせた研修のオリジナルのコンテンツやカリキュラムを提供。研修によってマーケティングを「知っている」だけではなく、「業務に生かせるようになること」にこだわっている。執筆は、「初めてでもマーケティングが楽しく体系的に学べる本」をテーマに10数冊刊行。「3訂版 図解よくわかるこれからのマーケティング」(同文舘出版)等。
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