りそなデータサイエンス部長に聞く「金融DXの課題」 AI活用で何が変わる?

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2024年09月29日 14:51  ITmedia ビジネスオンライン

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金融業界でいち早くデジタル化に取り組んできたりそな(写真提供:ゲッティイメージズ)

 AIなどの進歩により金融DXが加速度的に進む中、伝統的な銀行はどのように対応しようとしているのか。


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 金融業界でいち早くデジタル化に取り組んできた、りそなホールディングス・データサイエンス部長の大西雅巳氏に、金融DXの現状と将来について聞いた。前後編でお届けする。


●1000万DL超 アプリ利用者が収益増に2.6倍貢献


 大西氏が率いるデータサイエンス部は、データの力を使って、銀行業務の生産性向上に取り組む。時にはマーケティングの強化やIT関連の業務も手掛け、新しい価値を提供する。


 現在、りそなグループ4銀行の個人利用者は約1600万人。そのうち店頭への来店、もしくは渉外営業担当者の訪問によって実際に“会える利用者”は100万人にすぎないという。つまり残りの1500万人は“会えない利用者”であるため、この利用者に対するサービスや情報の提供が課題だった。


 “会えない利用者”にも各種サービスを提供できるバンキングアプリ「りそなグループアプリ」のダウンロード(DL)数は、累計1000万DLを突破。利用者は順調に伸びている。2021年5月、南昌宏社長にインタビューした際には、同年3月末でのアプリDLが「360万DLでグループ全体の利用数が来店数より多かった」とのことだった。それから3年が経過し、倍以上に伸びている。会えない利用者の多くがこのアプリを利用しているわけだ。


 大西氏は「アプリを提供することによって、さまざまな情報が蓄積されますので、これを基にアプリで配信する(顧客向けの)アドバイスを日々、改良しています。6年間で約1000のマーケティングモデルのパターンを作って試行錯誤しています」と話す。


 例えば新しいアドバイスを配信する際には、ターゲットとなる層の全てに配信するのではなく、ターゲット層の中でも一部配信しないグループを設けて効果を比較するなど工夫しているという。結果として、現在は約600のマーケティングモデルが稼働している。


 「セールス的なアドバイスに偏らないようにし、顧客一人一人の役に立ちそうな情報、例えば誕生日特典などのお知らせや便利な使い方の案内、ポイントがたまるキャンペーンなどをお送りするよう心掛けています」


 アプリの利用拡大は、りそなグループの収益拡大にも貢献している。日ごろからアプリを使っている利用者から得られる収益は、そうでない利用者の2.6倍で、銀行の収益増につながっているという。アプリ利用者は、アプリからのアドバイスにより提案されてくる各種サービスの利用可能性が上がり、手数料などを含めて銀行の収益につながっているというわけだ。


 こうして見ると、10年ほど前から進めてきた、りそなグループのデジタル戦略は、成功していると言えそうではあるものの、ネットバンクの登場により伝統的な金融機関はより厳しい競争にさらされている。今後はより一層のデジタル化と、有人店舗を使った高度なサービス展開が求められそうだ。


 同社は、そんなマーケティングモデルの大半を自社で内製化しているという。


 「モデルは途中で作り変えることも多くあります。外部に発注すると、手直しする場合にスケジュール調整が必要になるため、どうしてもスピード感が出ません。自社の従業員で作っていれば、中で回していけばよいので、早く失敗と成功を繰り返せます。成功に導くためにも、内製化がカギだと考えています」


 一方で単純に内製化するだけだと、新しい知見や他社で使われている技術などを吸収できずに時間が掛かってしまうこともある。内製化と外部委託とをすみ分けながら、モデルの改善に努めているという。また、このマーケティングモデルの基礎となっているデータ分析の分野についても当初から内製化にこだわりつつ、高度な分析技術を組織として学んでいくために外部の知見も取り入れている。


 「新しく難しい案件は、資本業務提携しているデータ分析専門のブレインパッド社の知見を借りながら一緒に取り組んでいます」


 現在、データサイエンス部の人数は60人超で、約半数は中途採用だという。データを用いた調査・分析・可視化、アドバイス配信モデルの開発・改良などに取り組んでいて、支店勤務の従業員と同じ人事制度体系の中で、中途採用などの専門系人財が活躍できる人事評価制度も備えている。こうした制度上の受け皿があるからこそ、専門系人財の確保にもつながっているという。


 大西氏は「分析能力も大切ですが、コミュニケーション能力がもっと大切です。現場との対話を通じて課題を明確にし、現場が真に求めるものの解像度を上げた上で分析の設計をしていくことが求められます」と話す。


●銀行に求められている課題は?


 いま銀行に求められている課題としては、例えば、手続きとサービス面の向上を挙げる。


 「伝統的な銀行はもともと紙と印鑑を使用した取引をベースとしており、これまで既存の取引の電子化などに取り組んできました。今後は、さらに利便性を高めていく必要があると考えています。まだまだストレスを感じる手続きが多く残っています」


 例えば、税公金の支払いでは紙の書類を銀行窓口やコンビニに持ち込んで手続きをする必要があった。これをアプリ内で簡単に完結できるようにしたという。利用者の動線を意識したUIを作り込み、可能な限り「テクノロジーの力を使って顧客の負担を軽減したい」と話す。


 これまで人海戦術的に提供してきたサービス面についても、AIによって置き換えられれば「人手の数や利用時間に縛られない世界にできると思います」と指摘する。


 「マーケティングモデルを作るにあたっても、多くは人間がルールベースで作っていますが、足元では生成AIを使ってルール自体を自動的に生成するような実験をしています。いまはモデルのパターンを人間が考えているので数に制約があります。一方で生成AIを使うと、圧倒的なスピードで大量のデータを処理できる強みを発揮できるようになります。現時点では、生成AIが作成するモデルの正確性の担保など、乗り越えるべき課題はまだまだ多いのですが、今やっている配信を生成AIによって置き換えられないか試していきたいと考えています」


(中西享、アイティメディア今野大一)



このニュースに関するつぶやき

  • 金融業界はもはやIT業界の一部だね。集める人材もIT関係が中心になるだろう。
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