パナが首都圏で「地産地消EC」 生産者と消費者をつなぐ「市場」で新風

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2024年09月29日 15:02  ITmedia ビジネスオンライン

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パナソニックホールディングスの芦澤慶之モビリティ事業戦略室主幹(左)と、三茶ワークカンパニーの近藤陽太プロジェクトマネージャー

 家電大手のパナソニックホールデインングス(HD)が、地元の生産者などと一緒になって、野菜などの食品が受け取れる地産地消のECプロジェクト「ハックツ!」の第2弾を開始した。ベースは東京・世田谷区の三軒茶屋だ。


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 このプロジェクトは2023年5月、神奈川県藤沢市で第1弾をオープンした。今回はそれに次ぐもので、数万人規模の会員になると見込む。パナソニックのような大企業が、本業と異なる消費者の買い物までサポートするのは異例だ。社会課題の解決に挑むことによって、新しい企業価値を提供しようとしている。


●生産と消費の仕組みを変える パナの奮闘


 先行した藤沢市では、地元の約20の生産者が参加した。地元の有機野菜、みそ、パン、コーヒー豆などを販売。地元のホテルなどと連携して市内観光やヨガ体験のツアーなども始めようとしている。会員数は現在1075人ほどで、商品を受け取る「受け取りSPOT」も少しずつ増えてきているという。


 藤沢での実験に手応えを得たことによって、パナソニックは人口が密集している世田谷区の三軒茶屋で第2弾のプロジェクトを本格的に動かすことにした。


 このプロジェクトを指揮しているパナソニックHDの芦澤慶之モビリティ事業戦略室主幹は「日本は社会システムの転換期にある。人と人、モノとモノをつなぐECプラットフォームの構築が必要で、生産と消費という社会の仕組みをコミュニティーの力によって変えたい」と話す。『共助』の理念に基づいて、消費者と生産者に新しいプロジェクトを提案している。


 具体的には「生産者の思いや考えを消費者が共感することを軸に、新しい購買体系を作り、農産物が不作の時には消費者に助けてもらい、豊作の時には消費者に還元する『共助』の世界を確立させる」と話す。


 農産物の栽培はどうしても天候に左右される。そのため豊作の時もあれば不作の時もあり、安定した生産物の供給が難しい。このプロジェクトに農家が参加すれば、不作の時には消費者から支援してもらえて、不安定な収入を安定させることに役立つメリットがありそうだ。


●新しいコミュニティーマーケット


 消費者側の注文方法は、一般的なECサイトとあまり変わらない。違うのは注文する曜日と、受け取る曜日が指定されていることだ。消費者は週に1回注文し、金曜日に受け取りSPOTで商品をピックアップする。地域密着型のビジネススキームで、自宅までの宅配はしない。作る側にとっても注文数だけ作ればよいため、食品ロスの心配がなく、生産者側はスケジュールを立てやすい。


 ECサイトの運営や受け取りSPOTでの消費者への受け渡しは、地元の三茶ワークカンパニーが運営する。同社の近藤陽太プロジェクトマネージャーは「この会社は三軒茶屋周辺にコワーキングスペースなどを何カ所か提供するなどして、世田谷区の支援などを受けながら、スタートアップ事業の支援をしている。手掛けてきたマーケット事業とも親和性が高いことから、『ハックツ!』とコラボすることにした」と話す。


 商品の確認や仕分け作業は地元の福祉施設と連携。作業をした障がい者は最低賃金以上の報酬がもらえる。提供する食材価格は生産者の意向で決められるため、スーパーなどで売られている商品より高くなることもあるものの、鮮度や品質は優れたものを供給できるという。


 これまで農業生産者は、農協などを通じて農産物をスーパーなどに販売してきた。ただ、消費者との接点はなかった。今回の「ハックツ!」プロジェクトでは、同じ地域の消費者と生産者が農産物などを購入することでつながれる。万人規模の会員が集まれば、いままでになかった新しいコミュニティーマーケットを誕生させられるとみている。


●新ビジネスを創出し街を元気に


 パナソニックは東急田園都市線の三軒茶屋駅からすぐの受け取りSPOTになるカフェで、説明会を開いた。芦澤氏は「『ハックツ!』は3つのコミュニティー循環システムの形成を目指している」と説明する。


 1つ目は、生産者を理解して消費者が購入するコミュニティー。2つ目は生産者同士がコラボしてつながるコミュニティー。3つ目が同じ価値観の人と人が集まって新しい価値を創出することを考えている。「単なるECサイトではなく、このコミュニティーサイトをつなげることで新しいビジネスを起こして街を元気にしていきたい。世田谷でうまくいけば、首都圏でも同様のプロジェクトを増やし、関西エリアに作ることも考えている。今後は街と街をつなげるプロジェクトもしていきたい」と抱負を語る。


●パナソニックグループが目指す社会


 パナソニックグループは1980年ごろまでは家電大手として業界に君臨してきた。だが、バブル崩壊とその後のデジタル化の流れに遅れた。そのため、テレビなどの主要商品市場を海外メーカーに奪われ、事業の大幅な方向転換を迫られてきた経緯がある。それまでの家電中心から自動車、住宅分野などにも力を入れてきた。今後は社会課題に向き合い、豊かな理想社会の実現に向けて貢献しようとしている。


 芦澤氏の所属するモビリティ事業戦略室は、パナソニックグループCEO直轄の部署だ。モビリティの変化を捉えた事業創造に挑戦し、人を起点とした生活圏で役立つビジネスを模索している。


 昭和から平成の時代は全国に展開する「ナショナル」「Panasonic」を掲げる電気屋が、家電の販売だけでなく、取り付け後のアフターサービスなども担って、その地域のコミュニティーと深くつながっていた。しかし、いまはこうした電気屋も大半が消滅。地域コミュニティーの関係が薄れてきていた。今回のプロジェクトは、生産者と消費者がつながることにより、地域コミュニティーの復活を目指すもので、新しい取り組みといえそうだ。


 パナソニックグループとしても、こうした形で社会課題を解決していけば、消費者からも信頼を得て、大企業としての新しい役割を担える。こうした理念はパナソニックの前身、松下電器の創業者・松下幸之助が説いた「他人へ奉仕する精神」にもつながるものだ。同プロジェクトがどこまで広がりをみせるのか注目していきたい。


(中西享、アイティメディア今野大一)



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