AIを活用したセキュリティは何を変えるのか? 「知的なデータインフラ」構想に迫る

0

2024年09月29日 19:51  ITmedia ビジネスオンライン

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ITmedia ビジネスオンライン

ネットアップの中島シハブ・ドゥグラ社長

 ストレージベンダーの米NetAppが、生成AI活用とセキュリティ対策のサービスに注力している。生成AI活用では、Google Cloudとの連携を強化。Googleが提供する生成AIツール「Vertex AI」と提携する。これにより、企業の検索拡張生成(RAG)の運用を円滑にし、生成AIによって自社データをクラウド上で運用することを容易にする狙いがある。


【その他の画像】


 セキュリティ対策では、ランサムウェア対策を徹底的に進めるという。ランサムウェア感染の検出にもAIを活用し、精度と速度を向上させる。近年、日本企業を標的にしたサイバー攻撃が相次いでいる。ランサムウェアによってデータが暗号化され、身代金を要求される企業があとを絶たない。KADOKAWAのように長期のサービス停止に追い込まれた例も出てきている。


 これ以外にも、同社は今後AIを活用したサービスや、30以上の新製品・新機能を提供していく。その狙いについて、同社日本法人ネットアップの中島シハブ・ドゥグラ社長らが事業戦略説明会でプレゼンした。


●日本企業のAI推進は19% 課題は?


 ネットアップの2023年の調査によると、AIプロジェクトが「既に進行中」あるいは「進行する予定がある」と回答した企業の割合は、グローバルで49%に対し、日本は19%にとどまったという。これは見方を変えれば、日本企業には81%の成長の伸びしろがあるということだ。同社は日本のAI市場の今後の可能性に注目しているという。


 中島社長は「日本は他にも多くの産業分野で国際的に優れた技術・知識を有する産業が多く存在しています。このような企業に当社のAIインフラのノウハウをよりシンプルに提供できれば、今後もっとイノベーションが加速するはず」と期待する。


 だが、そのためにはさまざまな課題が日本企業にはあるという。同社のヒアリング調査によると、まず、急増するITとデータ需要に対する、企業が投資する予算が足りない点を挙げた。ここには、データセンターの消費電力が増大する維持費の問題もあるという。


 AI活用を進めたくても、そのノウハウがないという問題もある。「データのサイロ化」によって、各社内システム間の連携がしにくくなっている点や、サイバー攻撃の脅威が増加している点を課題に挙げる企業も少なくないという。


 中島社長は「中でも一番多かった課題がセキュリティ。現在ビジネスが長期間にわたって停止する最大の理由が、サイバー攻撃」だと指摘する。


 このような顧客の課題を解決するために、同社が新たに掲げているコンセプトが「インテリジェントなデータインフラストラクチャ」(Intelligent Data Infrastructure、知的なデータインフラ)だ。「Intelligent Data Infrastructure」は、顧客の課題を解決することを主目的としていて、これにより顧客のDXとAI導入を加速させ、ITインフラへの変革を支援する考え方だ。そのためIntelligent Data Infrastructureはネットアップ1社が推進するものではなく、400社以上の国内パートナー企業と、5000人を超えるネットアップの技術者のコミュニティーと共に推し進めていくという。


 「このコンセプトを実現するために、3つの施策を考えています。1つ目は新製品の国内市場への投入。2つ目はIntelligent Data Infrastructureを理解してもらうための施策です。3つ目はパートナー戦略です。Intelligent Data Infrastructureを実現するために、今年30以上の新製品をリリースしました。当社の歴史でもこれほど多くの製品を一度にリリースした例はありません」(中島社長)


 この30以上の新製品に共通して強化したのが、ストレージの信頼性の向上だ。特にランサムウェア攻撃の検出と復旧を実現している。パブリッククラウド上に生成AIを実装させやすい環境も提供。企業のコストを最適化したクラウドストレージサービスも提供しているという。


●AIストレージに求める3つの需要


 知的なデータインフラを実現していく上で、具体的にどんな技術を開発していくのか。同社チーフ テクノロジー エバンジェリストの神原豊彦さんが説明する。


 「3月に当社が世界各国で実施したアンケートで、ストレージやデータ管理のベンダーの選定に何を重視しているのか調べました。それによると、最も多かったのが『あらゆる環境でデータが柔軟に利用できること』でした。次点が『セキュリティ』『性能の向上』『運用の自動化』の3つでした」


 セキュリティなどのデータ管理機能がきちんと備わっていて、それが運用の現場できちんと使えるレベルにまで昇華されていること。さらに管理結果を十分に可視化できることが、「データの柔軟性」に次ぐ顧客のニーズだという。データがストレージにただあるだけではなく、そのデータがさまざまなアプリケーションで利用できることが重要なのだ。


 「『あらゆるデータのサポート』『観測可能なデータインフラ』『サードパーティーとのシームレスな連携』の3つがきちんと備わることで、AIのようなインテリジェンス技術の導入をスムーズにし、常に利用可能なAIを実現できます。当社はこの3つのポイントを顧客が同時に実現できる技術・製品を提供するべく、Intelligent Data Infrastructureを発表しています」(神原さん)


 こうした機能を搭載した製品群が、同社の「AFF Aシリーズ」だ。「パワフル」「インテリジェント」「セキュア」の3つを柱にしている。「パワフル」はストレージの容量や速さを、「インテリジェント」はAI開発をよりシンプルにする性能を、そして「セキュア」はランサムウェアをはじめとするさまざまなセキュリティ対策を指す。


 中でも特徴的なのが、1秒間に1テラバイトの転送速度を実現している点だ。神原さんによると、これにより「大規模言語モデル(LLM)の移設や構築を、現実的な時間で実現可能にしている」という。


 ランサムウェア対策として、AIによる攻撃の検出を実現しているのも特徴的だ。これによりランサムウェアの学習期間が不要で、導入直後から正確に検出できるものにしている。


 サイバー攻撃を受けることを前提に設計した新たなデータ保護方式も採用した。管理者でも、指定された期間内はバックアップデータを削除できない機能を利用でき、かつ、複数管理者の合意時のみボリュームの削除など重要なシステム変更を実行できる機能を追加している。


 保存されている全てのファイルが格納されているボリュームのバックアップイメージを、バージョン履歴ごとにたどれるようにした。もしランサムウェアの攻撃を受け、ファイルが暗号化されてしまったとしても、即座に攻撃を遮断し、緊急バックアップを取得することで、暗号化前のデータに戻せるようにした。この攻撃の検知にAIを活用。迅速な攻撃からの防御と攻撃アカウントの特定が可能だ。


 「データ管理において、顧客が最も優先する項目がセキュリティです。皆さんも銀行にお金を預けていると思いますが、そこにはセキュリティ対策への期待もあると思います。データストレージも同様、サイバー攻撃に対する防御策として、装置自体が責任を持って対応することが必要な時代になりました」(神原さん)


 AIの急速な普及によって、ストレージの性能や、消費電力の効率性も課題になっている。だがそれ以上に、セキュリティ対策への需要が高まってきた。エンタープライズ企業の担当者にとっても、この3つの課題にどう対処していくべきかが重要になってくるだろう。


(河嶌太郎、アイティメディア今野大一)



    ランキングIT・インターネット

    前日のランキングへ

    ニュース設定