【巨人の新星】浅野翔吾は何番を打たせるべきか? 名コーチ・伊勢孝夫は「将来のビジョンが重要」と断言

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2024年09月30日 10:20  webスポルティーバ

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 4年ぶりのリーグ制覇を果たした阿部慎之助監督率いる巨人。世代交代が進むなか、8月中旬からスタメンに名を連ねたのが、プロ2年目の19歳・浅野翔吾だ。今は"プロに慣れるための修行期間"とはいえ、近い将来、巨人を引っ張っていく存在になっていかなければならない選手である。はたして、才能を開花させるために必要なことは何か? 野球評論家の伊勢孝夫氏に聞いた。

【浅野翔吾のウリは?】

 高卒新人野手の育て方──これはじつに難しい。その多くは"素材"にすぎず、一軍で使ったとしても結果を求めるのは酷だ。我慢して使い続けたい気持ちもわかるが、凡打する姿を見続けるにも限界がある。チームの勝利を目指しつつ、若手に出場機会を与えて経験を積ませる。これは言葉以上に大変な作業なのだ。

 それは巨人2年目、浅野翔吾にも当てはまることだ。スラッガー候補として期待されるだけのことはあって、パンチ力はある。それに勝負強さも垣間見ることができる。なにより、2年目でありながら、ベンチのど真ん中に座って声を出している。この肝っ玉の大きさは、大きな武器だ。

 ただ巨人は、競争相手が多すぎる。外野は丸佳浩が確定で、残り2つのポジションを長野久義、オコエ瑠偉、佐々木俊輔、萩尾匡也、そして外国人選手たちと争わなければならない。今季、外国人選手は固定できなかったが、好調なら残るポジションは1つしかないわけだ。

 ここにどうやって食い込むか。足も肩も飛び抜けていいわけではない浅野としては、打撃でアピールするしかない。

「まだ19歳なのだから、二軍でじっくり鍛えれば......」という意見もあるだろう。しかし打者の場合、私はケースバイケースだと思っている。

 プロの投手のスピードに慣れさせるだけなら、二軍で打席を積めば順応できる。しかしプロの変化球のキレや制球力に対応するには、一軍の投手相手に経験を積まなければならない。

 若手選手が一軍の舞台に立つには、首脳陣に「使いたい」と思わせる"売り"を持たなければならない。浅野の場合、その売りはパンチ力のあるバッティングになるだろう。

 ただ現状を見る限り、浅野はホームランを打つタイプの打者ではない。そこそこの打率を残しつつ、得点圏打率の高い3番か6番あたりが理想の打順となるだろう。スイングに柔らかさがあるので、徹底して教育すれば伸びしろはある。そのためには、技術的に直さなければいけないポイントがある。

【課題は外角への対応力】

 現状、浅野の課題を挙げるとすると、外のスライダー系の球への対応だろう。今の浅野はヒットを打ったとしてもほとんどがレフト方向で、逆方向に打球が打てない。だから、外へ逃げるスライダー系の球に苦戦している。

 その理由はフォームにある。浅野はノーステップで打っている。それはそれでいいのだが、問題は腰の開きが早いのだ。これでは引っ張るバッティングしかできない。まず、ここを矯正すべきだ。

 また浅野については、首脳陣の起用法にも疑問が浮かぶ。まだ高卒2年目の浅野を、どう育てていこうと考えているのか。正直、ここまでの試合を見ていて、そこがわからないし、意図も見えてこない。

 その根拠は打順にある。浅野がスタメンで使われ始めた頃、阿部慎之助監督は2番で起用した。これがわからなかった。

 前述したように、浅野はライト方向へ打てない。つなぎのバッティングが要求される2番に、逆方向へ打てない打者は向かない。そのことを阿部監督なら十分理解しているはずだ。

 ということは、ほかの打者との絡みで、たとえば坂本勇人を上位で使いたいが、状態がよくないので代わりに浅野を起用した。もしくは、2番の役割をこなせるかどうかを見極めるために使ったか。あるいは、プロ野球というものを勉強させるという意味で、あえて2番を経験させたという考えもある。

 こればかりは阿部監督に確かめない限り答えはわからないが、その後は6番や7番で起用されることが多くなった。根拠はどうであれ、阿部監督は判断を下し、落ち着くところに落ち着いたという感じだ。

 なぜ私が打順にこだわるのか、そこにはちゃんとした理由がある。それはバッターを育成していくうえで、「どのようなタイプに育てていくべきか」という方針が必要だからだ。それを決めたうえで、いま持っている技術、特徴などを認識し、首脳陣で共有する必要がある。育成するなかで、一番わかりやすいのが打順だ。私なら「この選手は将来、何番を打つ選手に育てたいですか」と監督に尋ねる。

 以前、原辰徳監督が指揮を執っていた時、ある若いバッターを二軍に落としたら、違うフォームになっていたというエピソードがあった。「いったい、コーチは何を考えているのか?」と原監督は呆れたらしい。これは一軍、二軍でコミュニケーションが取れていない典型的なパターンだが、なにより「どのようなバッターに育てるか」という共通認識がなかったことが、一番の問題である。

【問われる球団のビジョン】

 話を浅野に戻すが、まず将来的に何番を打たせたいかというビジョンはあるのかどうかだ。もし2番を打たせたいのであれば、逆方向へのバッティングは絶対必要である。だが、今の浅野にその技術はまだない。少なくとも逆方向に打てる技術を身につけてから、2番を打たせるべきだった。

 だから、現状の6番、7番あたりはちょうどいいと思う。もし私が浅野を預かるとしたら、6番を提案する。そして、4打席に1回いい打球を打てばいいというように、伸び伸び打席に立たせたい。

 浅野の長所は、先程も言ったが、柔らかさがあることだ。それに真ん中から内側のボールに対する反応もすばらしい。その点では、長距離打者タイプの資質を持っているとも言えるが、現状では中距離タイプと言えよう。あとは何度も言うが、外角のスライダー系のボールへの対応。これを身につければ、プロの世界でメシが食える選手になるはずだ。

 プロ2年目の19歳とはいえ、プロの世界は厳しい。甲子園を沸かせた選手でもプロの壁にぶち当たり、苦労している間に次々と新しい戦力が入ってくる。そのうち結果を残せないとなると、いつからか話題の中心から外れてしまう。

 そうならないためにも、今のうちからしっかり鍛えておかなければならない。とくに外角球への対応は、1日や2日で習得できるものではない。秋のキャンプでじっくりバットを振り、初めて糸口が見えてくるほどの大変な作業だ。しかし、浅野ならコーチにしがみつき、やり切るだろう。来春のキャンプで、様変わりした浅野に期待したい。

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