ビールの成功体験よもう一度 サントリーがワインに注力、赤字だが勝算は

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2024年09月30日 16:11  ITmedia ビジネスオンライン

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山梨県甲斐市にある、サントリーの「登美の丘ワイナリー」

 生ビールやウイスキー「山崎」「白州」で知られるサントリーだが、ワインにも注力しているのをご存じだろうか。


【画像】サントリー「登美の丘ワイナリー」(山梨県甲斐市)、テラスからの絶景


 一般的に国内で流通しているワインは大きく「輸入ワイン」「国産ワイン」「日本ワイン」の3つに分けられる。輸入ワインとは、その名の通り海外で瓶詰めされて日本に輸入しているもの。似ているのは国産ワインと日本ワインだが、前者は海外から輸入したぶどうやジュースを原料に、国内で製造したもの。後者は国産のぶどうを100%使用して、製造も国内で行っているものを指す。


 サントリーはいずれのワインも手掛けているが、特に注力しているのが日本ワインだ。単体としては赤字の事業ながら、2030年の目標として、2020年比で2倍の販売量となる10万ケース(1ケース=750ミリリットル12本換算、以下同)を目指している。サントリーワイン本部によると、2020年の日本ワイン販売量は5.2万ケース。そこから2023年は6.6万ケースへと成長を見せており、このペースで行けば達成圏といって問題ないだろう。


 特に日本ワインは高価格帯でも売れる傾向があり、“酒離れ”が心配される若年層からの支持も得られているという。サントリーの常務執行役員でワイン本部長の吉雄敬子氏は「しっかりした品質の商品を作れるのであれば、5〜10年単位の投資でも、やるべきというのが当社の考え方」と話し、次のように続ける。


 「もちろん利益が出なくても良い、ということではありませんが、どうしてもワインは時間がかかるもの。時間がかかっても、ものづくりとして素晴らしい成果が生まれ、利益も出せる算段があるからこそ、今は投資している最中です」


 歴史を振り返ると、サントリーのビール部門は長らく赤字が続いていた。その期間はビール事業に進出した1963年から「ザ・プレミアム・モルツ」が席巻する2008年まで、実に45年にわたる。歴史は繰り返すというが、それならば日本ワインもこれから「プレモル」や「サントリー生ビール」のような黄金期をサントリーにもたらすのか。


 未来のことは分からないが、取り組み続けるからには可能性は当然、ゼロではない。山梨県にある同社の「サントリー登美の丘ワイナリー」の取材などを通し、前後編に分けて取り組みを見てみよう。


●実はワインが祖業のサントリー、日本ワインブームの先駆者でもある


 そもそもサントリーの祖業といえば、ビールでもウイスキーでもなく、ワインである。同社を創業した鳥井信治郎が1899年に「鳥井商店」を開業した際は「ぶどう酒」の製造販売を行っていたし、1907年に発売した「赤玉ポートワイン」(現:赤玉スイートワイン)のヒットが、その後に展開したさまざまな事業の礎になっている。


 1936年には「日本のワインの父」と呼ばれた川上善兵衛氏と協力して、山梨県・登美の丘(現「サントリー登美の丘ワイナリー」)でぶどう園の経営を開始。ぶどうの栽培とともに、醸造から熟成までをワンストップで手掛ける体制を整えた。


 1952年に農業者以外の農地取得を制限する農地法が制定され、ワイナリーが農地を持つことが難しくなったものの、サントリーは制定以前に登美の丘の農地を取得していたため、影響はなかったという。一種の先行者利益を生かし、1975年には同社によると日本初となる「貴腐ぶどう」の収穫に成功するなど、ぶどうの栽培とともにワイン醸造も進め、日本ワインの生産者としての立ち位置を確立していった。


 その後、構造改革特区をきっかけに農地法の規制が緩和し、ワイナリー自らが農地を持てるようになり、日本ワインの勢いが徐々に伸びてきた。サントリーの調べでは2024年に稼働している国内ワイナリーは約500軒、2015年比で約2倍である。


 その勢いを反映するように、日本ワイナリー協会などが2003年から開催している「日本ワインコンクール」では、出品があったワイナリー軒数、点数が2024年は過去最多を記録。国際的なコンクール「デキャンタ・ワールド・ワイン・アワード」でも、金賞以上を受賞した日本ワイン品数が2015〜19年は13点だったところ、2020〜24年は20点に増えており、活況を呈している。


●糖度が上がりにくいぶどう「甲州」に注力するワケ


 こうした中、日本ワインの製造元として長い歴史を持つサントリーでは近年、どんな取り組みをしているのか。サントリーワイン本部の担当者は「『ものづくり』と『ワイナリー』の両面から、品質向上に向けた取り組みを行っている」と話す。


 近年の代表的な取り組みといえば、2022年9月の「FROM FARM」をコンセプトにした新ブランドを立ち上げたことだ。具体的には、フラッグシップの「シンボルシリーズ」、社内ワイナリーの魅力を強調した「ワイナリーシリーズ」、ワイン産地ごとの個性を伝える「テロワールシリーズ」、そして日本に固有の品種を手軽に味わえる「品種シリーズ」の4つを展開し始めた。


 フラッグシップとなるワインを中心に、日本に固有の品種「甲州」の自社栽培に取り組んでいるのも特徴だ。2009年から「登美の丘 甲州」を販売するなど、以前から甲州を自社で栽培していたが、2014年ごろからより品質の高い甲州を生み出す取り組みへ本格的に着手。ワインとして結果が出るまでは10〜15年と長い期間を要するという非常に長期的な取り組みだ。


 そうした手間をかけてでも、甲州の品質向上に取り組み始めた理由について、サントリーワイン本部シニアスペシャリストの柳原亮氏は次のように話す。


 「甲州は糖度が上がりにくいことから、これまでワインの原料としてはマイナーでしたし、登美の丘ワイナリーでも欧州系の品種をメインに手掛けてきました。しかし、近年は温暖化が進行し、高温でも糖度が上がりすぎない品種に注目が集まっています。山梨をベースにワイン作りに取り組んでいる企業としても、取り組む意義があると考えて取り組みを始めました」


 糖度が上がりにくいことから、甲州の栽培ではいかにワインに適した系統を植えるか、そして完熟したぶどうだけを選別して収穫するかがポイントになるという。そうした点を念頭に置いて活動を開始した結果、2019年からの4年で、フラッグシップとなるワイン向けの甲州は糖度が大きく上昇している。前述したデキャンタ・ワールド・ワイン・アワードでも、「SUNTORY FROM FARM 登美 甲州 2022」が2024年に最高位の賞を受賞するなど、国際的な評価も高まっている状況だ。


 サントリーではこれら以外に、環境変化への対応などにも積極的に取り組んでいる。後編では、そうした環境変動とともに品質向上にも対応する“二兎”を得る取り組みなどについて解説していく(後編は10月2日に公開予定です)。


●著者プロフィール:鬼頭勇大


フリーライター・編集者。熱狂的カープファン。ビジネス系書籍編集、健保組合事務職、ビジネス系ウェブメディア副編集長を経て独立。飲食系から働き方、エンタープライズITまでビジネス全般にわたる幅広い領域の取材経験がある。


Xアカウント→@kitoyudacp


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