書類でよく見る「シヤチハタ不可」、シヤチハタ社長に「実際どう思ってますか?」と聞いたら意外すぎる答えが返ってきた

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2024年10月01日 08:31  ITmedia ビジネスオンライン

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シヤチハタ印、正しくは「Xスタンパー」

 ハンコで国内トップメーカーのシヤチハタが、2025年に創業100周年を迎える。一企業の歴史として100年は大きな節目ながら、同社の舟橋正剛社長は「珍しいことではありません」と謙虚に語る。舟橋社長は1997年の入社以来「ハンコ」への危機感をブレずに持ち続け、さまざまな「脱ハンコ」の試みを行っている。


【画像】“シヤチハタ不可”に「こんなに光栄なことはない」と嬉々として語る、シヤチハタ舟橋正剛社長(編集部撮影)


 前編の記事では、その代表的な例としてデザインコンペの実施や、そこから生まれたユニークな商品について解説した。後編の今回は、そうしたB2C商品以外で、次の100年を担うべく柱として舟橋社長が期待を寄せるものについて、話を聞いた。


●30年も赤字続きだったサービスが、コロナ禍で花開いた


 前編で触れたB2C商品と合わせて、舟橋社長が力を入れていると話すのが産業領域だ。具体的には、皮革や木材、金属にプラスチックといった特殊な素材に対しても印をつけられる工業用インキが挙げられる。製造現場で油がついた機器に作業終了の印を付ける、ロット番号を付ける、といった用途で活用が進んでいるという。


 「当社はハンコ用のゴムを練る、インキを作る、さらに金型の成形など、素材を実際に触って試して、組み合わせながら最終的に商品としてお客さまにご提供するビジネスモデルです。そう考えると、商品はハンコである必要は全くありません。中でも工業用インキは使用頻度が少なく受注ロットが小さいことから請け負えるメーカーがあまりないようで『シヤチハタさん、できない?』と相談を多く受けています」


●時代が早すぎた「電子印鑑」システム


 2020年に提供を始めた「Shachihata Cloud」(シヤチハタクラウド)にも期待を寄せる。シヤチハタの電子決裁の歴史は古く、実は開発をスタートしたのは1994年。翌年には電子印鑑システム「パソコン決裁」を発売している。当時は「Windows 95」が発売した頃で、まだ今のように1人1台PCを持つ時代ではなかった。しかし「紙でやっていることは必ずデジタルに置き換わる。そのとき、もっと便利に当社の印影を使ってほしい」(舟橋社長)という思いで開発をスタートしたという。


 ただ、時代がまだ早すぎたのか、売り上げは低空飛行が続いた。舟橋社長によると、売り上げは1億〜2億円程度の横ばいで、30年にわたり赤字が続いていたという。そんな中でも新たなOSやデバイスが出れば対応するためのアップデートを行い、クラウド化やサブスクリプションへの対応も地道に行っていった。売り上げがやっと上向きだしたのは、皮肉にも「脱ハンコ」が叫ばれる大きなきっかけとなったコロナ禍だった。


 コロナ禍では各社が出社規制などの措置を講じたことで、押印業務の見直しも進み、シヤチハタのハンコ関連ビジネスは従来比で約1割マイナスとなった。一方、シヤチハタクラウドをコロナ対策として期間限定で無料開放し、広告も積極的に打ったことで、認知が高まり利用数が増加。現在、デジタル関連の売り上げは年間15億円ほどまで成長しているという。


 そんなシヤチハタクラウドで意識している点は、あくまで各社がすでに確立しているビジネスプロセスに逆らわず、戸惑いを生まないようにすること。コンセプトにも「BPS(ビジネスプロセスそのまんま)」を掲げる。


 「デジタル化によって、お客さまが『以前より面倒になった』『戸惑うようになった』となっては、なかなかDXが進みません。従って、シヤチハタクラウドではいかにアナログで円滑に進んでいたものを、そっくりデジタルに置き換えて便利なままにできるか。極論、紙がデジタルになっただけ、といった使い勝手を目指しています」


●「シヤチハタ不可」は大歓迎


 直近ではインボイス対応の特需によって、ハンコ関連商品が一時期と比較して盛り返していると話す舟橋社長だが、入社当時から持ち続けている危機感は今も持ち続けている。


 「こうした一時的な好調のたびに社員は『まだ大丈夫』と思ってしまうものです。しかし、実際はそんな簡単な話ではありません。だからこそ、あえて『脱ハンコ』的な商品やビジネスを、これまで培ったハンコの技術から生み出していきたいと考えています」


 役員級人材の中途採用も強化し始めた。「新たな視点を持ち、商品を開発するにはやはり外部の刺激が必要ですから」と舟橋社長は狙いを話す。また、内部に対しては失敗を恐れないことの重要性を説いているという。


 「私自身、これまで特殊なインキの開発などで大きな失敗をし、損失を生んできました。しかしそれらが最終的に実を結び、今では商品化に至っています。だからこそ、社員には常に新しい視点や挑戦するマインドを持ち仕事に当たってほしいと伝えるようにしています」


 最後に、ちょっと気になっていた質問をぶつけた。世の中には「シヤチハタ不可」としている書類がある。これについてはどう考えているのか。舟橋社長に質問したところ意外にも「こんなに光栄なことはない」と返ってきた。


 不可・禁止ではあるものの、自社の商品が、わざわざ名指しでさまざまな書類に印字してある点が誇らしいのだという。最近では、採用面接を行った高校生が、シヤチハタを詳しく知らなかったことがあったという。ハンコが当たり前ではなくなった時代に、いかに認知度を上げていくかは今後の課題だ。


 次の100年に向けて、いかに「ハンコの会社」から脱却していくか。「判を押したよう」と言われないような、斬新な商品がカギを握っている。


●著者プロフィール:鬼頭勇大


フリーライター・編集者。熱狂的カープファン。ビジネス系書籍編集、健保組合事務職、ビジネス系ウェブメディア副編集長を経て独立。飲食系から働き方、エンタープライズITまでビジネス全般にわたる幅広い領域の取材経験がある。


Xアカウント→@kitoyudacp


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このニュースに関するつぶやき

  • シャチハタOKだと、既存のハンコ屋が商売あがったりになるからwという凄い理由で禁止なんだよねw 一部自治体の格安理容店禁止と同じような話ですな。
    • イイネ!8
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