限定公開( 49 )
先日、アニメ化もされたヒット作『最遊記』シリーズで知られる漫画家・峰倉かずやのXのポストが話題になった。アナログで作業ができるアシスタントを急募するというものである。峰倉は漫画の原稿をすべて従来通りの手描き、すなわちアナログで仕上げているが、現在、漫画家の多くがデジタルに移行。そのため、アナログで作業ができるアシスタントを探すのはかなり難しくなっているのが現状である。
【急募】
時代的に難しい事は承知ですが、アナログ原稿の作画アシスタントさんを切実に募集中です。
背景が描ける方は滅茶苦茶助かるのですが、トーン作業経験のみの方も大歓迎です…!
(人手がなさすぎて今回背景以外の全トーンを私と事務員さんで貼ってるので)
ぜひ一迅社までお問い合わせ下さい🙏 https://t.co/97pmNErI2a pic.twitter.com/3am9dFxHAm
— 峰倉かずや (@kaz_minekura) September 28, 2024
ところが、である。デジタルはデジタルで、アシスタント探しに苦戦している漫画家が多いというのだ。その要因のひとつに、発表される漫画の量が増えている影響で、アシスタントが不足していることが挙げられる。さらに言えば“実力の高いアシスタント”に関しては、慢性的に不足している状態にあるという。
|
|
具体的なデータがあるわけではないが、漫画の制作本数は過去最高レベルに増えているという指摘もある。WEBコミックが好評で、ヒットを飛ばしているためだ。紙の本や雑誌は苦境であるが、電子書籍は伸びている。メディアミックスの広がりに伴い、従来の出版社以外のIT系の企業など異業種からの漫画への参入が相次いでいる。こうした漫画の需要に伴う漫画家の増加に対し、それを支えるアシスタントの数が不足しているのだ。
従来、アシスタント探しは出版社の編集者が手伝ってくれるのが普通だった。「週刊少年ジャンプ」などの漫画雑誌で「アシスタント募集!」という告知を見たことがある人も多いだろう。大手出版社は、売れっ子の漫画家のもとに新人をアシスタントに行かせるのは、新人の育成のために重要だと考えている。ところが、漫画制作のノウハウがない新規参入の企業は、アシスタント探しもすべて漫画家に丸投げしている例もあると聞く。
そのため、漫画家のなかには、SNSでアシスタントを募るか、マッチングサービスを利用したり、はたまた専門学校時代の友人に頼んだりする例もあるという。ただ、WEBコミックは特にそうなのだが、現代の漫画は美麗かつ緻密な絵が求められ、作画に手間がかかる。にもかからず、肝心のアシスタントの技能が十分ではなく、依頼しても理想通りの絵が上がってこないこともあるという。いったいなぜ、そんなことが起きてしまうのか。ベテラン漫画家のA氏はこう推測する。
「アシスタントが十分に育っていないからです。3年以上に及んだコロナ禍で、リモート形式でアシスタントを行うことが一般的になりました。一昔前のアシスタントといえば、漫画家の仕事場に通って集団で作業し、“お金をもらいながら学ぶ”のが普通でした。それが、コロナの自粛ムードのなかでリモート化が一気に進み、対面で技術を教え合うことができなくなり、アシスタントの技術が低下していると考えられます」
アシスタントは、デビュー前の漫画家志望者や、新人漫画家が務めるケースが多い。そのため、はじめは当然技術的にも未熟であり、漫画の専門用語を知らない例も珍しくない。最初から全工程をスムーズにできる新人など皆無と言っていいため、師匠の漫画家や仕事場の先輩アシスタントが手取り足取り教えていたのである。新人はそうやって技術を習い、アシスタントへの指示の出し方、漫画家としての心構えを覚えていったのだ。
|
|
暗記中心の受験勉強であればリモートでも教育可能だが、手を動かす職人技はリモートでは教えにくい。漫画は特にそうだ。ところが、リモートが普及すると、教育の過程をぶっ飛ばして、いきなり即戦力を求められるようになった。アシスタントが最初からある程度、漫画のいろはを身につけている必要が生じ、一定のレベルが求められるようになったのである。前出のベテラン漫画家は、こう話す。
「アシスタントの参入障壁が上がったと思います。僕のもとで真剣に学んでデビューし、ヒットを飛ばした漫画家はたくさんいます。最初から上手い人は別ですが、今は下手でも磨けばダイヤモンドに化ける新人はたくさんいるんですよ。リモートが一般的になると、そういった人材が技術を教わる機会がなくなってしまうのではないか。将来のヒット作家が育たなくなるのではないかと心配しています」
こうした弊害は既に生じている。ある若手漫画家は、SNSで募集したアシスタントに異世界物の背景を依頼したところ、かなり歪で不思議な背景が上がってきたという。問い詰めたところ、なんと、生成AIに背景を出力させていたというのだ。ポンと背景を出して、あとは漫画家が指示するまでゲームをやっていたという。技術が未熟なうえに、モラルがまったくなっていないのである。別のベテラン漫画家B氏も失敗談を語ってくれた。
「うちの作業環境はデジタルで、一時期リモートを取り入れていましたが、結局仕事場に集まってもらい、一人一台の液タブを前に作業するスタイルに戻しました。器用な人はできるかもしれないけれど、僕はリモートだと、相手がどんな絵を描いているのか監督できないのです。猫の手も借りたいほど切羽詰まった状態で、初めてお願いしたアシスタントからとんでもない絵が上がってきたことがある。それ以来、リモートはこりごりだと思いましたよ」
もちろん、リモートの普及にもメリットはかなりある。ひとつは、地方にいながら漫画を描くことができるようになったこと。そして、アシスタントも同様に、地方にいながら仕事ができるようになり、働き方の幅は広がったといえる。しかし、B氏は「地方にいながらアシスタントができるのは、ある程度経験を積み、実力のある人でしょう。地方にいる人材にもうまい感じに教育を行き届かせることができれば、理想的なのですが……」と話す。
|
|
デジタル世代の漫画家のアシスタント事情は、様々な問題が絡んでおり、なかなか複雑なようだ。何より、企業側のサポートは欠かせないだろう。アシスタント代は出版社ではなく漫画家が出す慣例がある。頼めば原稿料の大半がなくなってしまうため、寝る間も惜しみ、すべての工程を自分でやっている漫画家も少なくない。アシスタント代を原稿料に上乗せするなど、漫画家への創作の支援も必要ではないだろうか。
|
|
|
|
Copyright(C) 2024 realsound.jp 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。