全日本空輸(ANA)は10月4日、仮想現実(VR)を活用したグランドハンドリング訓練シミュレーター「∀TRAS(アトラス)」の導入を開始した。従来の実機訓練の一部をVR訓練に置き換えることで、訓練の効率化や期間短縮につなげる。羽田空港を皮切りに、全国の空港に展開を進めていく。
シミュレーターはクロスリアリティ(XR)コンテンツを制作する積木製作と共同で開発。グランドハンドリングスタッフが担当する業務のうち、プッシュバック・トーイング作業、パッセンジャーボーディングブリッジ操作、防除雪氷作業、特殊車両操作の4つを、VRで再現した空港内で訓練できる。訓練は複数のチェック項目ごとにA・B・Cの三段階で評価され、総合得点が表示される。
再現可能な空港は羽田空港、中部空港、那覇空港、松山空港の4か所で、ボーイング777型機やエアバスA380型機など、ANAグループが運航する全ての機材に対応する。また、時間帯や天候、不測の事態など、さまざまなシチュエーションを設定することもできる。対応空港は順次拡大していく予定。
当初の導入台数は11台。羽田空港を皮切りに、11月末までにANAグループがグランドハンドリングを担当する新千歳空港、成田空港、中部空港、伊丹空港、関西空港、福岡空港、那覇空港、福島空港、佐賀空港、松山空港の全11空港に展開する。その後、その他の国内空港にも拡大する計画。
導入初日の4日に羽田空港で公開されたデモンストレーションで、プッシュバック訓練を体験したANAエアポートサービス人材開発課の加藤潤一さんは、「車両、トーバー、飛行機の動きから空港の景色までリアルに再現されている。実際の空港にいる感覚で訓練できる」と話した。
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グランドハンドリング業務は機種ごとに資格取得が必要で、アトラスの導入に関わったANAグランドハンドリング企画部の長岡正記さんによると、従来の実機訓練では「就航便数や機材が空港によってまちまちで、人材育成に時間がかかるのが課題だった」という。アトラスの導入によって全国共通の訓練環境を提供できるようにすることで、訓練期間の短縮や効率向上につなげたい考え。長岡さんによると、プッシュバック訓練では訓練期間を約39%短縮できる見通しだという。
また、プッシュバック・トーイング訓練を行う場合、実機では教官1名のほかに訓練補助者2名が必要となるが、アトラスでは教官1名のみで実施可能で、訓練人員の削減につながるなどのメリットも見込んでいるという。