石破茂首相による日銀の追加利上げをけん制した異例の発言が、金融市場を揺るがしている。安倍晋三元首相の経済政策「アベノミクス」に否定的な石破氏は、利上げ容認派とみられていただけに、突然の「豹変(ひょうへん)」ぶりに市場は疑心暗鬼になっている。日銀の独立性を損ないかねない問題もはらむ。
「異次元の金融緩和では日本経済は治らない」。石破氏はこれまで、著書などで大規模緩和の長期化による副作用を批判してきた。9月27日の自民党総裁選で、アベノミクス継承を掲げた高市早苗前経済安全保障担当相に逆転勝利すると、市場では石破氏の経済政策への警戒感が台頭。30日に日経平均株価が1900円以上も急落する「石破ショック」を招いた。
首相就任翌日の10月2日夕、石破氏は官邸で日銀の植田和男総裁と会談。終了後、記者団に「現在、追加利上げをするような環境にあるとは考えていない」と述べた。これを受け、3日の東京市場では急速な円安・株高が進行。経済官庁幹部は衆院選を目前に控え、「利上げに積極的とのイメージがつかないように修正を図った」とみる。
中央銀行には、政府から緩和的な金融政策を求める圧力がかかりやすい。日銀法は、金融政策の独立性の確保を定めている。
BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは「経済政策運営に精通していない首相の不注意だろうが、日銀法に抵触しかねない発言は慎むべきだ」と指摘。政治的圧力で利上げができないとの見方が広がれば、円安が進行し、消費者には一段の物価高がのしかかると懸念する。
首相は3日夜、自身の発言について、利上げの判断に時間的な余裕があるとした植田氏からの説明を受け、「私もそのような理解をしていると申し上げた」ものだったと釈明した。明治安田総合研究所の小玉祐一フェローチーフエコノミストは「首相の一言で市場が乱高下することは避けるべきだ」と苦言を呈する。
岸田文雄前首相は、自らが任命した植田総裁が進める金融正常化路線に大きく異論を挟むことはなかった。日銀幹部は「任命者の岸田氏が去り、新政権との間合いを探ることになる」としている。
会談を前に握手する石破茂首相(右)と日銀の植田和男総裁=2日、首相官邸