2023年の日本人の平均寿命は、女性が87.14歳、男性が81.09歳だという。ただ、平均寿命と健康寿命は違う。健康でいられる寿命は、女性75.4年、男性72.7年となっている。
いつまでも健康でいたいと願うのは当然だが、いずれ誰かの世話にならなければいけないという覚悟も必要なのかもしれない。
一人で生活していきたい
還暦を迎えて、さすがに「この先」を考えるようになったとカナコさん(63歳)は言う。40代でモラハラ夫と離婚、小学生だったひとり娘は27歳になった。「さっさと自立しなさいと、3年前に追い出しました(笑)。就職したら自立してほしかった。定年を機に私も一人で暮らしたかったし。娘は冷たいと恨み言を言ってましたけど」
定年後もグループ会社で働いてはいるが、さすがに「老い」を感じるようになってきたとカナコさんは言う。もちろん、そんなことは娘には言わないが。
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一人暮らしは「寂しいでしょう」と言われる
それでも一人暮らしは快適だとカナコさんは言う。娘がいたら、「疲れた」と愚痴ってしまうだろうが、一人なら愚痴らない。一人だけの夕飯も「別に寂しくはない」ときっぱり。「栄養に気をつけて自分が食べたいものをちゃちゃっと調理して食べています。娘の食べたいものを考えなくても済むし、すべてが自分だけのための生活って、なかなか気持ちのいいものですよ」
友人からは「一人って寂しいでしょう」と言われるが、自分のためだけに時間が使えるのは、むしろ楽しいと彼女は言う。
「仕事帰りに映画を観ても誰にも何も言われない。そのままどこかで簡単に夕食をとってもいいし、テイクアウトでもいいし、簡単なものを自分で作ってもいい。一人だと選択肢が増えるんです。それが快適。寂しいと思ったことはないですね」
いざとなれば娘がいるとは思っているが、今のところ「いざというときも娘を頼るつもりはない」そうだ。
娘の選択肢を減らしたくない
「よく高齢者が、子どもに迷惑をかけたくないと言いますが、その気持ち、よく分かるようになりました。私はたまたま40代で親を見送ってしまった。そのときは寂しかったけど、あとから親が早く亡くなったことに感謝したくなりました。介護しなくて済んだのですから。そう言うと娘には『お母さんの考え方って冷たい。私はお母さんを介護するよ』と言われるんです。でも、自分の人生は自分のものでしょ。それを親の介護で潰すのは本当に申し訳ないと思うんですよ。だからいざとなったら、施設などを探して自ら入ろうと考えています」
ただでさえ離婚したことで、娘にはつらい思いをさせたのではないかとカナコさんは考えている。だが、あのまま結婚生活を続けていたら、もっと大変なことになったはずだからとも思うそうだ。
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仕事だけでは健康寿命は延ばせない?
そのためにも健康寿命をどうやって延ばすか、最近はやたらとそれを考えるようになった。「仕事だけじゃダメですね、やっぱり。もっと広く社会を見るような活動、頭を使って何かを考えていかなければ。だから安価で学べる地域の講座に行くようになりました。今は書道に夢中です。
今後は漢文も勉強してみたいし、地元で何かボランティアもしてみたい。むりのない範囲でやりたいことを増やしていくのが、一番自分らしい生き方かなと思っています」
気力は体力を上回ると思って生きてきたが、それはさすがに無理だと思い始めたんですよと、カナコさんは笑った。
「若作りももうできないし、無理も利かない。それでも楽しい人生だったと思えるように生きていきたい。希望をなくしたら人生終わりですもんね。でも娘は『お母さんが弱ったら、私が面倒を見るから』と言うんですよ。うるさい、私の人生に構うなって言ってます(笑)」
そのカナコさんの拒否が、娘を思う優しさからきていることを、娘もきっと分かっているはず。親子であっても、それぞれの人生をそれぞれの責任で生きていくべきだというカナコさんの覚悟は深い。
「独居老人って、嫌な言葉ですよね。別にいいじゃないですか、独居だろうが孤立死だろうが。高齢者がみんな寂しく一人暮らししているわけじゃないと思いますよ。少なくとも、私は楽しい独居生活をできる限り長く続けていくつもりです」
どんなに気を付けていても、病気になることはある。それでも最後まで尊厳をもって暮らしたいとカナコさんは言った。
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・「日本人の平均寿命延びる 女性87.14歳 男性81.09歳 理由は…」(NHK)
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。(文:亀山 早苗(フリーライター))