箱根駅伝総合優勝へ――國學院大・平林清澄「勝ったことがないので、勝つビジョンを共有しています」

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2024年10月08日 07:40  webスポルティーバ

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10月14日の出雲駅伝から大学駅伝シーズンがいよいよ始まる。箱根駅伝で初の総合優勝を狙う國學院大は全学年でエースクラスのランナーを抱え、今季の上位10名の10000m平均タイムでも他の強豪校を上回る充実ぶり。

そのチームをけん引するのが4年生の平林清澄だ。1年時から三大駅伝に皆勤出場してきたなか、自身、そしてチームとしての成長を続け、迎えた最終学年の今季。自他共に認める「駅伝の申し子」は、エースとして、キャプテンとして、目標達成に向かっている。

國學院大・平林清澄インタビュー 後編

【箱根で勝つビジョンの共有】

 強い日差しが照りつける静かな避暑地には、國學院大を引っ張る平林清澄キャプテンの大きな声が響いていた。苦しい距離走になると、余計に熱がこもる。

「ここで(ペースを)上げられれば、箱根で優勝できるぞ。全員でやりきろう」

 熱血漢で知られる前田康弘監督からも「野球部みたいだな」と冗談まじりに言われ、「いまは少し抑えておこうか」と諭されることもあったほど。

 8月から9月中旬にかけて長野の蓼科、新潟の妙高、北海道の紋別と夏合宿で走り込むなか、平林はチームに徹底して刷り込んできた。

「ずっと意識していたのは、箱根で勝つビジョンを共有することです」

 今季、掲げている目標は、箱根駅伝の総合初優勝。國學院大の選手たちが、いまだ誰も目にしたことのない景色である。46歳の前田康弘監督は現役時代に駒澤大で箱根初制覇に貢献した実績を持つが、指導者としては未知の領域。それでも、底抜けに明るい熱血キャプテンは、あっけらかんと言う。

「正直、僕らは誰も勝ち方なんてわからないんですよ。やったことがないことをやろうとしているので。でも、それこそがスローガンに掲げる『歴史を変える挑戦』。ミーティングでも毎回言ってきました。ワクワクしようよって。不安な部分もあると思いますが、『俺たちは優勝できるんだ』と雰囲気をつくることを大事にしています」

 上半期のシーズンは先頭で襷(たすき)をかけて走るパターンを想定し、レースで勝ちきることをテーマに掲げた。こだわったのは、タイムよりも順位。3月の日本学生ハーフマラソンでは3年生の青木瑠郁が初優勝。7月のトラックレースでも主力組が勝負強さを発揮し、次から次に自己ベストを更新した。5000mで1年生の浅野結太が13分47秒17をマークし、10000mでは3年生の高山豪起が28分25秒72、2年生の辻原輝が28分27秒93で走り、いずれも組トップでフィニッシュ。全体に目を向ける平林は、確かな手応えを口にする。

「トラックではみんな結果を残してくれました。先頭を走ったことのない選手が、駅伝でいきなりトップに立つと、ビビリますからね。少なくとも僕はそうなので。だから、僕らはトラックのレースでも、まず勝つことを最優先していました」

 平林が呼び掛けるのは、選抜されたAチームの精鋭だけではない。60人の部員全員が同じベクトルを向き、同じ熱量で走り続けるように促している。戦力の底上げが進む國學院大とはいえ、まだ10000mを27分台で走るような大砲を複数そろえるタレント軍団ではない。仲間たちを鼓舞する主将は、一体感を持って取り組む重要性を強調する。

「僕らは全員で勝負していかないと。ハイレベルな選手層をつくり、チームで戦わなければ勝てません。それが國學院の戦い方だと思っています」

 9月中旬に充実の夏合宿を終え、チームの雰囲気はこれまでにないほど盛り上がっているようだ。下級生たちの間でも自然と「優勝」の二文字が口をついて出るようになり、意識のレベルはぐっと上がったという。4年生の主将は、選手たちの変化をひしひしと感じていた。

「最近は練習中にも『俺たちはやれるんだ』という声も上がるようになってきました。勢いはありますね。もちろん、もっと強くなりたいという向上心もありますし、油断もしていません。下半期のチーム目標に一つ項目を加えたんです。『120%の準備』」

【優勝しないと歴史に残らないし、覚えてもらえない】

 来年1月の箱根路に向けて機運が高まるなか、10月14日に6人で走る出雲駅伝、11月3日には8人で襷をつなぐ全日本大学駅伝も控えている。出走人数、距離を含めて、10区間で競う箱根とレースの性質は異なってくるが、学生三大駅伝に臨むモチベーションは高い。

「出雲は三大駅伝の初手。流れを決める重要な大会になりますし、全日本は箱根につなげていくためにも優勝したいです。そのふたつの駅伝をおろそかにするつもりはありません。箱根を取れる力があれば、出雲も全日本も勝てると思うんです。ただ、もしも10月、11月でタイトルを取れなくても、箱根で勝てば、この1年のすべてをひっくり返せると思っています。それくらいのインパクトがありますから」

 世間の記憶に刻まれるのは、何をおいても箱根駅伝の総合優勝。ちょうど1年前の夏である。妙高高原で夏合宿に励んでいるときだった。偶然、通りかかった観光客の一人に話しかけられたことは、忘れもしない。

「『どこの大学の陸上部なの?』と聞かれたので、『國學院大学です』と答えると、ピンときていないようでした。あまり認知されていないんだな、としみじみ思いました。たとえ、僕らが箱根で総合4位(99回大会)になっても、知らない人は知らない。そのシーズンは出雲で2位、全日本でも2位でしたが、きっとその結果をいまも覚えているのは一部の駅伝ファンだけなのかなって。やっぱり、優勝しないと歴史に残らないし、覚えてもらえませんよね」

 1月3日の大手町に先頭で帰ってくるアンカーを迎え、チーム全員で歓喜の輪をつくることを想像するだけで、思いがこみ上げてくる。平林ひとりの願望ではない。誰もいない広い寮の食堂をぐるりと見渡せば、多くの顔が浮かんでくる。前田康弘監督、同期の仲間と後輩、選手からマネジャー、主務となったチームスタッフたち。國學院大に関わる人たちが、何よりも欲しているタイトルなのだ。

「みんなの夢なので。全員で成し遂げたい。駅伝で活躍し、陸上選手としてのキャリアにつなげたいという個人的な思いもありますが、それ以上に箱根駅伝優勝への思いは強いです。チームで勝ちたいし、勝たせたい。その気持ちのほうは大きいかな。このワクワクに勝るものはないと思います」

 ロードの襷リレーは、平林にとって昔も今も変わらず特別。トラック出身の陸上選手ではなく、「僕は駅伝出身なので」といたずらっぽく笑う。何かに取り憑かれているほど熱を上げてきたという。世界の舞台を視野に入れ、本格的にマラソンに取り組み始めたが、駅伝の魅力を再確認した。

「区間を走るのは一人ですが、個人のレースではないんですよね。全員のレース。駅伝は心でつなぐものだと思います」

 大きな夢を追うラストシーズンは、まもなく始まる。堂々と主役の座を狙うことを宣言する。

「フレッシュグリーン(青山学院大)にも、藤色(駒澤大)にも負けません。今年度は『赤紫』がいきます」

 最後にニヤリと笑ったキャプテンの顔は、自信に満ちていた。

【Profile】平林清澄(ひらばやし・きよと)/2002年12月4日生まれ、福井県出身。武生第五中(福井)→美方高(福井)→國學院大。大学1年時から出雲駅伝、全日本大学駅伝、箱根駅伝の学生三大駅伝すベてに出場中。昨シーズンは全日本7区で自身初の区間賞を獲得、箱根では2年連続でエース区間の2区を任され区間3位の走りで8人抜きを果たし、チームの5年連続シード権獲得に貢献した。マラソン初挑戦となった今年2月の大阪マラソンでは、2時間06分18秒の初マラソン日本最高記録、日本人学生記録をマークして優勝を果たした。マラソン以外の主な自己ベストは5000m13分55秒30(2021年)、10000m27分55秒15(2023年)、ハーフマラソン1時間01分23秒(2024年)。

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