本来、年をとって白髪になるのは仕方がないこと。だったら白髪もグレイヘアとしてきれいに見せればいいじゃないか。そんな生き方を選択する人が増えたのはいいことである。ただ、家族の反応はさまざまだ。
グレイヘアに賛成していた家族が……
「私はもともと白髪が多いんです。子どもを2人産んだ後の30代半ばから気になっていて、ずっと美容院や自宅で染めていました。でもだんだん薬剤が合わなくなったのか、染めると痛がゆくてつらかった。それでも子どもの学校に行くときなどは周りの目も気になって染め続けていたんです」サオリさん(49歳)はそう言う。結婚して19年、18歳と16歳の子を持つ母だ。今はほぼグレイになったヘアをショートボブにしている。活動的で知的に見える。赤や黄色など原色の洋服がグレイヘアに合っている。
「7年ほど前、あまりに頭皮が荒れたので染めるのを一時的にやめたんです。そうしたらかなりの分量がすでにグレイになっていることがわかって……。これを機会に染めるのやめようかなとつぶやいたら、夫が『そんなつらい思いをして染めなくてもいいだろう。自然でいいんだよ』って。
夫の反応が気になっていたから、その一言でホッとしたんです」
夫の言葉に傷ついた
それ以来、たまに赤や紫のメッシュを入れたりしながら、グレイヘアを楽しんできた。今まで着られなかった鮮やかな色の洋服も積極的に試すようになり、イメージが変わった、素敵と周りからは言われてきた。
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今さらなによと言うと、『そんなこと言ったっけ。やっぱり女性は染めている方がきれいだよね』ですって。どうしてそういう言葉で今さら私を傷つけるのだろうと思うと、なんだか妙に悔しくなってしまって」
思わず涙ぐんだサオリさんを見て、夫はあわてふためいていたという。
子どもたちに本音を聞いてみた
「夫がそう言うということは、子どもたちにもいろいろ思いはあるんだろうと聞いてみたんです。18歳の娘は『髪の色なんて、本人の好きにすればいいだけ』とあっさり言った。彼女は高校を出たら金髪にするのを楽しみにしているみたい。ところが16歳の息子に聞くと、『いいんだけどさ、この前、友だちにおまえの母さん、おばあさんみたいって言われた』と小声で……。娘が『子どもだねえ。白髪だったら年とってると思い込んでる。肌を見てごらんなさいよ、お母さん、ツヤがあって若々しいよ』とかばってくれました。
でもそこへ夫が『お父さんもお母さんが染めてるほうがいいと思うけど、それは最終的にはお母さんの決断だな。お父さんやおまえの意見をお母さんがどう思うか』と言い出したんです。『それって脅迫みたい』と娘が言い放ってリビングを出ていきました。私もそう思ったから、娘には感謝しています」
グレイヘアは市民権を得ていないのか
どうしてそういう言い方をするかなと夫に詰め寄ったサオリさんだが、その後、夫や息子の言葉を思い返して考え込んでしまったそうだ。
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髪は女の命と昔から言われてきたけど、いまだにみんなそう思っているのか、等々。考えても答えは出ないんですけどね」
それでもやはり、あの頭皮の痛がゆさを思い出すと、再び染める気にはなれなかった。夫や息子の言葉は気になったが、まずは自分の心身の健康を守りたいと思った。
「職場の同僚や友人たちにも聞いたんですよ。この髪、ダメかなあって。正直に言ってと頼んだら、やはり年齢より老けてみえるかもと言った人はいました。でも大多数は『自分の好きなようにすればいいと思う』だった。そもそも何の権利があって、夫や息子は私の髪の色を指定したがるのか。だんだん腹が立ってきました」
少し笑いながらサオリさんはそう言った。たかが髪、されど髪。本人のみならず家族がどう思っているかは気になるところだろう。
「結局、染めることなく今に至っているんですが、テレビで同世代の芸能人などがきれいな髪をしているとやはり目がいってしまう。そのつど夫が『素敵だよね、この人』と言ったりすると、『染めろってこと?』とキツく言い返してしまう自分がいる。私自身がやはり周りの目を気にしているということなんでしょうね」
グレイヘアを楽しんでいるつもりだったのに、ここへきて気持ちが揺れている。サオリさんは少しせつなそうな表情になった。
それでも、もう少しがんばってみる。そのうち年齢が私に追いついてくれるはず。夫と息子に対しては、娘と徒党を組んで対抗してみる。サオリさんはきっぱりとそう言った。
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亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。(文:亀山 早苗(フリーライター))