ディズニーは「中高年向け」に舵を切る? 日本での勝ち筋は

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2024年10月09日 08:31  ITmedia ビジネスオンライン

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ディズニーは「中高年向け」コンテンツとなるのか?

 東京ディズニーリゾートは、開園以来40年以上にわたり日本を代表するテーマパークとして君臨してきた。しかし、近年の来場者データを見ると、興味深い傾向が浮かび上がっている。


【画像】「若者離れ」進む? 東京ディズニーランド・東京ディズニーシーにおける年代別来園者比率


 コロナ禍の影響があるため一概に比較することは難しいが、2019〜2024年度にかけて39歳以下世代の来場者比率は減少傾向にあり、40歳以上の層が増加傾向にある。この現象をもって「若者のディズニー離れ」という言葉が世を駆け巡り、ディズニーが若年層からの支持を失ったとする論調が広まった。しかしそれは真実だろうか。考察したい。


●ディズニーに迫る「娯楽の多様化」の波


 オリエンタルランドのファクトブックによると、若年層の来場者比率が低下しているのは事実である。また、来場者数が回復傾向にあるとはいえ、若年層の来場者数もコロナ禍前と比較して少ない。この事象には複数の要因が考えられる。


 理由の一つとして考えられるのが、子ども世代の娯楽の多様化である。現代の子どもたちはテレビやスマートフォン・ゲーム機などを通じて膨大なエンターテインメントにアクセスできる。


 ディズニーは依然として人気だが、ディズニー以外の選択肢は年々増え、過去と比べて相対的にプレゼンスが低下したといえる。特に1990年代以降に子ども時代を過ごした世代は、ディズニーのプレゼンスがそれ以前の世代と比べて低下しており、結果としてテーマパークを訪れるモチベーションも低下したと考えられる。


 人口構造の変化も考慮すべきだ。少子高齢化が進む日本では若年層の人口が減少しており、必然的に来場者の年齢構成にも影響する。ただし、これはあくまで長期的なトレンドであり、ここ数年における「若者離れ」の主要因であるとまではいえない。


 経済的要因、ディズニーリゾートの価格戦略も理由の一つだ。オリエンタルランドが「量から質」を重視する方針をとって以降、1人当たりの売り上げは2019年3月期と比べて約40%上昇している。


 ディズニーリゾートは年間パスを廃止し、チケット価格を上げた。加えて1人当たりの飲食・物販の売り上げも上昇しており、「質重視」の方針は成功したといえる。


 一方で、相対的に収入が低い若年層が訪問しにくくなった可能性はある。テーマパークへ訪問する際の支出はパーク内での消費だけではない。交通費、宿泊費など、関連する費用の上昇も無視できない。


●コロナ禍が引き起こした「断絶」


 あまり触れられないが、コロナ禍による「娯楽文化・習慣の断絶」も影響していると考えられる。ディズニーリゾートをはじめ、ある程度出費が伴う娯楽文化・習慣の多くは10代後半〜20代前半、つまり高校生から大学生の期間にそれぞれが所属する組織の縦や横のつながりで継承されてきた。


 代表的なのが「飲み会」である。コロナ禍により、複数人がリアルの場で集まり、同じ時間を共有する娯楽が停止した。この期間に大学生だった世代は、在学中に飲み会をしなかったという人も少なくない。


 テーマパークも同様だ。「複数人がリアルの場で集まり時間を共有する」娯楽文化の継承が部分的に絶たれ、ディズニーリゾートの若者離れにつながった可能性もある。もっとも、これが明確に影響を及ぼしたといえるのは今後数年のデータを追う必要がある。


●“かつての子供”をグリップし続ける強み


 ここまで「若者離れ」の理由を考察してきたが、これらの事象は必ずしもディズニーそしてディズニーリゾートの魅力が失われていることを意味するものではない。むしろより幅広い世代にアピールできるようになったといえる。


 まだ子ども向けキャラクターやコンテンツが少なかった時代に幼少期を過ごした現在の中高年層は、ディズニーに対して変わらず愛着を持っている人が少なくない。それは代表的なディズニーキャラクターだけでなく「ディズニー」というブランドそのものへの愛着にもつながっている。


 米ディズニーは「MARVEL」シリーズや、エミー賞獲得で話題となった『SHOGUN』など、内容・テーマ両面で中高年層以上を対象としたコンテンツを積極的に展開している。MARVELを傘下に収めた時期を鑑みると、米国市場で先行して大人層の維持・獲得に取り組み始めたとみられる。


●大人世代向けコンテンツとして期待される『SHOGUN』


 日本のディズニーリゾートではどうか。今後は米国市場と同様に大人層を重点対象とするのであれば、今後MARVELに関するアトラクションが増加する可能性もある。


 折しも、2025年1月から期間限定でマーベル・スタジオのキャラクターたちが登場する「イッツ・ア・スモールワールドwithグルート」が発表されている。他国のディズニー関連テーマパークでは既に展開しているプログラムでもあり、日本でもMARVEL関連アトラクションに注力し、大人世代への訴求力を高めていく可能性はある。


 直近話題となった、日本の戦国時代を描いた『SHOGUN』に関しても、米ディズニーの中でも一大コンテンツとして成長すれば、将来的にテーマパークのアトラクションに追加される可能性もゼロではない。米国をはじめとした、世界市場での人気が続くのを祈るばかりである。


 上記のように、ディズニーリゾートが発表した数字のみを見れば、若年層の来場者比率が低下していることは事実である。しかし、それがディズニーコンテンツやディズニーリゾートの魅力が失われたということにはならない。むしろ、ディズニーリゾートが時代のトレンドを捉え、着実に収益をあげられる形態へと変化を試みたことが背景にあり、その結果、より上の世代までを魅了する「魔法の国」として、その地位を確立しようとしているともいえる。


 “かつての子ども”である中高年層をグリップしつつ、同時に新しい世代の心をもつかむ。このバランスを取り続けられれば、ディズニーリゾートは今後も日本を代表するテーマパークとして君臨し続けるだろう。それには、子ども世代の新たなチャネルとして浸透しているデジタル領域と、テーマパーク領域との強固な連携が求められる。


●著者プロフィール:滑 健作(なめら けんさく) 


 株式会社野村総合研究所にて情報通信産業・サービス産業・コンテンツ産業を対象とした事業戦略・マーケティング戦略立案および実行支援に従事。


 またプロスポーツ・漫画・アニメ・ゲーム・映画など各種エンタテイメント産業に関する講演実績を持つ。



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