かつて神戸一の歓楽街として隆盛を極めた新開地。近年は三宮・元町への流出でかつての賑わいを失っているが、いまだに飲食店や娯楽施設が集積し、独特の魅力を放つエリアだ。
そんな新開地で老舗の立ち飲み店と知られる「冨月」が9月24日に焼肉店としてリニューアルオープンした。
YouTubeやSNSでもたびたび取り上げられる人気の酒場、冨月だが、実は1965年に「風月堂」として創業した当時は焼肉店としてスタート。1995年の阪神・淡路大震災の影響で立ち飲み店に業態を変え、今回再び焼肉店として“復活”をとげたという経緯だ。どのような思いがあったのだろうか。店主の高利光さんにお話を聞いた。
−−繁盛していたお店を、また焼肉店に戻すというのは大きな決断だったと思います。
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高:僕は今59歳。還暦を前に、残りの人生は納得できる仕事をして終えたいと思うようになりました。
理由はいくつかあります。まず一つは近年SNSで立ち飲みや安い酒場がブームになりすぎたことです。おそらく飲み歩きをされているのだと思いますが、団体でベロベロで入ってきて、半分は注文もせずトイレだけ使われるというようなことが増えました。夫婦2人でやってる小さな店ですから対応に戸惑いますし、他のお客様の迷惑にもなります。
−−それは大きなストレスですね。
高:はい、近隣の同業者に聞いても同じようなことがあるらしく「いつまでこの商売を続けていけるかな」と不安になっていました。
もう一つは、やはり焼肉屋への思い入れです。立ち飲みになってからも勘が鈍らないよう、タレの仕込みだけは続けていました。僕は20歳で親から店を継ぎました。80年代からバブル期にかけて、毎日汗にまみれて情熱的に働いた若い頃の記憶が今でも蘇るんです。
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−−当時の新開地は?
高:すでに衰退は始まっていましたが、それでも今よりははるかに賑わってましたよ。うちも週末は深夜までお客さんがひっきりなしでした。大きな劇場やボクシングジムがあったので、タレントやプロボクサーの方も大勢来られましたね。
−−印象に残ってる方は?
高:映画評論家の淀川長治さんが近所で何度か講演をされているんですが、その時の案内役が父親。意気投合したそうで講演後にうちのお店に遊びに来て、子供たちも一緒に記念撮影をしていただきました。新開地にゆかりのある超有名人なので嬉しかったです。
あと、近所のジムの会長が、まだ有名になる前の辰吉丈一郎さんを連れてきたことがあります。その時は「エラソーな兄ちゃんやな」と思っただけでしたが、その後すぐ有名になってびっくりしました。
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−−焼肉店にリニューアルした意気込みを。
高:いい肉をリーズナブルに食べていただきたいというのがテーマです。近年は牛肉の価格が高騰しているので、難しいこともたくさんあるのですが、営業努力やメニューの工夫で乗り切りたいと思っています。牛はもちろん吟味して納得したものだけを提供。皮付きの豚バラや、鶏モモも立ち飲み時代からのこだわりの素材なので美味しいですよ。
あと、創業から作り続けているタレはどこにも負けない味だと思っています。最近よくある醤油ベースのさらっとしたタレじゃなくて昔ながらのドロッと濃厚なタレ。
肉の脂とバツグンに合うんですよ。震災で店舗が全壊した時も、このタレが奇跡的に無事に残っていたからすぐに炊き出しや仮設での営業を再開することができました。ぜひ多くの方にこのタレの魅力を味わっていただきたいと思います。
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実は当初、高さんの奥さんは焼肉店へのリニューアルに反対していたそうだ。しかしこれまで真面目一筋に仕事に打ち込んできた高さんを振り返り、最後は肩を押してくれたという。
下町の魅力と高さん一家の味わいが染み出した冨月の秘伝のタレ。ぜひ一度お試しいただきたい。
冨月(ふうげつ)店舗情報
所在地:兵庫県神戸市兵庫区新開地4丁目6-16
営業時間:平日・土曜 17時〜21時30分L.O(22時閉店)、日曜・祝日 13時〜20時30分L.O(21時閉店)
定休日:不定休 電話番号:078-575-9155
(まいどなニュース特約・中将 タカノリ)