相手は元俳優の柏原崇さんで、これまでも何度かそれとなく話題にのぼり、内田さん本人も「事実婚状態」で「家族」だと認めていたのだが、今回は「知らなかった」という人が多かったようだ。
相手が元俳優だから彼女の仕事のことも分かっているし、公私ともにいい関係を築いているのだろう。こういう「形に縛られない関係」は、一般的にも今後、増えていくのではないだろうか。
一番安心できる人と会社を作った
「うちも二人で仕事を一緒にしているんです。プライベートもほぼ一緒。よく飽きないねって言われますが、一番安心できる人と一緒にいられるのはありがたいと思っています」そういうのはカオルさん(45歳)だ。パートナーとWeb関係の会社を立ち上げ、ともに仕事をしている。2歳年下の彼とはもともと、ある会社で同僚だった。
「けっこうブラックな会社で、残業代もつかないし仕事は忙しいし、生活を楽しむ余裕もなかった。転職を考えていたら、彼が一緒に会社を始めないかって。フリーランスが2人集まったものだと考えてコツコツやっていけばいいかなと賛成したんです」
その時点では同僚、友達の域を出なかった。起業して少しずつ仕事を増やしていく過程で、彼の考え方や人となりに好感をもった。そして彼がアパートの更新だと言ったとき、「一緒に住もうか」という言葉がカオルさんの口から自然に出た。それが7年前のことだ。
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結婚するつもりはなかったが……
お互いに独身で、結婚するつもりもなかったが、この人と一緒に生きていくのも悪くないとカオルさんは思った。「古い物件ですけど、駅から近いところに3LDKのマンションを借りました。一部屋は完全に事務所、あとはそれぞれの部屋と、応接代わりのリビング。仕事と家庭がごっちゃになっている感じですが、それが意外と居心地よくて」
結婚とか子どもとか、そういう話はほとんどしないまま、仕事優先でスタートしたふたりの生活だった。人としてつながっていればそれでいい。カオルさんはそう思っていた。
だが生活するようになってから、ほんの少し恋心が芽生えた。
「一緒に仕事をすることもあれば、それぞれ単独での仕事もあります。時々、打ち合わせなどがあって外出すると、彼は私の好きなスイーツなどを買ってきてくれるんですよ。3年前、私の父が急死したんですが、そのときもずっと寄り添ってくれた。通夜も葬式も彼が仕切ってくれて……」
父親には彼を紹介しないままだった。通夜で初めて、父と、そして残った母に紹介した。母は結婚しないことをいぶかしがったが、結局は「あなたの思うようにしなさい」と言ってくれた。
「いいパートナー関係」としか名付けられない
人には事実婚と思われているのだろうが、カオルさんの気持ちとしては「公私にわたるパートナー」だと言う。
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いいパートナー関係だと彼女自身が思うのは、彼が彼女と完全に同じ目線でいてくれることだ。男だから女だからということにとらわれず、我を張るより相手の意見を先に聞いてから、自分の意見も言う。そういう男性に出会ったのは初めてだったとカオルさんは言う。
「いつでも私の意見を優先してくれるというわけでもない。でも私の仕事には口をはさまないし、相談しない限り何も言わない。大事にされるってこういうことかと思ったんです。
相手の自立性を損なわないというのかな。偉そうにしないし、いつでも感情もフラットだし。無理してないかなと最初のうちは心配していたんだけど、彼は『そういう人』なんです」
だからケンカをしたこともない。仕事で言い合いになることはあるが、それはケンカではなく、いいものを作ろうとするからこその意見のぶつかり合いだ。
「意見をぶつけ合う楽しさも初めて知りました。相手にヘンだと思われたらどうしようと余計な心配をすることなく、私はこう思うって言えるのは本当に気持ちがいい」
「妻」ではなく「パートナー」
他人同士の最低限の礼儀を欠かすことなく、快適で円満なのは、結婚という枠に縛られていないからかもしれないとカオルさんはいう。彼は一度も彼女を「妻」と表現したことはない。2人とも、「公私ともにいいパートナー」だと紹介している。「夫より少し下がって歩くとか、そういうの嫌なんですよ、私。昔はちょっとそういうのに憧れたこともあったけど、私の性格上は無理だとよくわかった。だから結婚にも縁がなかったんだろうなと思います。でもそのおかげで彼に会えたわけだし……」
自分がごく自然にふるまい、ごく自然に自分の考えを言える環境にある今を、カオルさんはとても幸せだと考えているそうだ。
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亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。(文:亀山 早苗(フリーライター))